第81話 霧島 対峙する。



私は霧島あきら。

今人生最大に緊張している。

今人生で出会ったことのないほどのプレッシャーにさらされている。


なぜなら覇王色のオーラを纏ったダンディなおじさまが私の前に座しているからだ。


それではなぜかのような状況になったのか、振り返ってみよう。



〜〜〜〜〜〜〜


「あきらくん、今度の日曜日空いてる?」


「うん、大丈夫。なんで?」


「お父さんが会いたいって。」


「あ……。そう……。

あ、その日具合悪くなる予定ある。」


「気にしすぎだって!」


「だって殺されるんでしょ?

知ってるよ、こう言う時って殺されるって。」


「でももうお父さんに大丈夫って言っちゃった。

あ、あと私いないから。

なんでも男同士の仲を深めるとかなんとか。」


「え?」


「もうあきらくんとは話がついてるって言ってたけど違うのかな?」


おとうさん、それはあんまりにも無茶ですよ。


「今電話してたの。

え?うん、ちょっと代わるね。」

ひとみから差し出された電話を受け取ることしかできない俺。

「え??え???」


『霧島ぁ。随分と俺のことを買ってくれてるみてえじゃねぇか。

えぇ?おい。

なんだっけ、人殺し?だっけ?

楽しみにしてやるよ、霧島ぁ。

いいか?待ってるからな?』


プチッ。ツーツーツー。


「あきらくんどうしたの?

顔真っ青だよ?具合悪い?」


「い、いや、ダイジョウブ。」


「変なの。」


それから俺は毎日眠れなかったってわけだ。


そしてやってきた当日。

この前反対車線に飛び込めば楽になるかななんて思いながら、車を運転してやってきた芦屋の六麓荘。

ひとみから教えてもらった住所は六麓荘の中でもさらに奥まった位置に家があると書いてある。




ずっと進んでいくと、検問所らしきものがある。

宅配の車でさえ、車体の下など厳重な検査を受けている。

運転手は車から降ろされ、身分証明書の確認をさせられている。


「紛争地帯かよ…。」


そしてあきらの車が近づくと、警備員らしき人がやってきて運転手側のドアをノックする。


「霧島様でお間違いございませんか?」


「はい…そうですけど…。」


「結城様からお言付けをいただいておりますので、このままご案内いたします。

先導車に続いてお進みください。」


「え、あの?え?」

検問所の有刺鉄線を伴った大きな柵が、警報を鳴らしながら開く。


どこからともなくカーキ色のランドクルーザーが現れ、先導する。


「いよいよヤバイ。

これ個人宅だよね?」



10分か15分ほど進んだだろうか、立派な家々が続く先に、他の家を圧倒するような大きさのもはや城とも呼べる大邸宅が現れた。


先導車が止まる。

「我々がご案内できるのはここまでです。

そのままお進みになられますと、結城様の御自宅の門に入りますので、そこからは結城家の方のご案内に従ってください。」


「わ、わかりました。」


またそのまま車を進めると、歴史書に出てくるような立派な門の前に出た。


そこにはすでに従者らしき方々が待っていた。

そう、従者らしき方ではなく、方々なのだ。


「「「霧島様、ようこそ結城家へ!!!」」」


「霧島様、私は侍従長を務めております。名は一(イチ)と申します。

大旦那様の元へご案内申し上げます。」


「は、はい。」


私は驚く間も無く、車を下ろされ、

待機していたロールスロイスに乗せられ、そこからまた10分ほど揺られる。


「ち、沈黙が痛い。」



「到着いたしました霧島様。」


「こちらへどうぞ。」

近くで見るとまさしく城そのものの建物の中に案内される。

来客用の下足箱で靴を脱ぐと、気配すら読めなかった使用人が現れ、一瞬で靴を保管した。

あきらが唖然としていると


「「「霧島様、ご登城!!!!」」」

玄関らしきスペースに待機していた使用人らしき人々から声が上がる。

ビクッとしてしまった。


赤い毛氈が引かれた廊下を進む一とあきら。

そこでも沈黙。

静かすぎて耳がキーンとする。


「こちらの中で大旦那様がお待ちでございます。」


「はい…。」


「大旦那様!霧島様をお連れいたしました。」


かすかに入れと言う声が聞こえた気がする。


一が襖を開けてくれた。

中に入ると、かなり遠くに座っている人が見える。目算で200メートルほど離れているだろうか。


後ろで襖が閉まる音がする。

一はついてきてくれないようだ。

余計に心細い…。


「近くまで来い。」


「はい!!!!」


駆け足で近くに寄る。

200メートルが遠い…。


近くによってわかったが、近づくにつれ存在感が増す。

オーラが可視化されているようにさえ感じる。

床から一段高くなっている座敷に、ひとみの父らしき人が座っている。


「座れ。」


「はい!!!」


もうガチガチである。

父らしき人の目の前に座って10分ほどがすぎた。

ずっとこっちを睨みつけるように眺めている。


そこで冒頭に戻るのだ。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「テメェが霧島か。」

向こうから口を開いてくれた。


「はい、ひとみさんとお付きあああをさせていただいております、霧島あきらと申します。」


緊張しすぎて噛みまくった。

しかも変なところで噛んだ。

お付きああああって何だ。

死にたい。帰りたい。冷や汗吹き出してきた。


「なんだっけ、殺されるんだっけ?

ええ?おい。」

もう殺してくれ。いっそひと思いに。

「いえ、それは、なんというますか言葉の綾というか。」


「散々な言われようだったよなぁ。ええ?」


「大変失礼いたしました。」


「彼女の親捕まえて人殺しだなんだってよぉ。

どう落とし前つけてくれんだ。」


「い、如何様にもさせていただきます。」


「じゃあひとみと別れろ。」


「かしこま…、え?」


「そんな軟弱な野郎にひとみは任せられん。

今すぐ別れろ。

今すぐ別れるならなんでも好きなものくれてやる。」



「今、なんと?」


「別れろ。」

そんなことを言われて黙っていられるあきらではない。

腹をくくった。

そんな生易しい気持ちで付き合っているわけではないのだ。

時計を頂いてからの激動の毎日を何一つ文句言わずに付き合ってくれ、今はマカオでのカジノ経営にも付き合ってくれている。

そんな女性は世の中にはいないと考えている。


「私といたしましては、飲める限りの条件は全て飲むつもりで参りましたが、その条件だけはお飲みすることができません!!

これ以上耳にするのも断りしたいことをおっしゃるのでしたら帰らせていただきます!!!」



「何ィこのクソガキ。」

傍に置いてあった日本刀に手が伸びた。


「どうぞその日本刀で私を真っ二つになさいませ。

あなたほどの権力者でいらっしゃるなら私一人がハナから生まれていなかったことにすることなど簡単でございましょう。

どうぞ首をお撥ね下さい!!!」


「付け上がりやがってこのクソガキぃ!!!」


「どうなさいました大旦那様。さぁ!!早く!!」


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