第57話

とうとうやってきたゴルフ大会本番。


何度も練習ラウンドを行い、万全の準備を整えてきた。




大会は10時スタートのため、7時半にゴルフ場入りした。

体をほぐし、練習場でいつも通り練習をする。




程よい頃合いで切り上げ開会式に出席する。




開会式で知ったが、この大会は神戸アマチュアゴルフ選手権大会というらしい。

ひとみ曰く、かなり歴史があるアマ大会、らしい。






開会式が終わり、いよいよ私の組がスタートする。

ゴルフというスポーツは大体3〜4人を一組として、参加者全員を組分けし、プレーする。

組数が多い時などは、1番ホールから回る組と10番ホールから回る組に分かれたりする。




今回は参加者が多いので、1番スタートと10番スタートに分かれており、

私は1番ホールから回る組だ。


開会式の時から見ていたが、どの参加者を見ても外国人のキャディさんを連れている人などおらず、周りからはアマチュアのくせに生意気だなどとひそひそ噂されていた。




1番ホールに着き、いよいよ第1打目を打つ時がやってきた。




「霧島さん、リラックス。


周りがヒソヒソやってますけど私が見てきたプロもみんなそんな感じでした。


プロの大会みたいでなんかワクワクしますね。」

笑いながらニコニコでブラックベター氏が言う。



この緊張感のなさはあっけにとられたが、たしかにブラックベター氏は元全米プロで、世界一の選手を何度も育て上げてきたプロ中のプロだ。




そんなプロにみっちり個人レッスンを受けた自分が負けるはずはないと、

むしろ楽しまなきゃ損だと、気持ちを立て直すことができた。




「そうですね。なんか勝てそうな気がしてきました!」




周りの人が聞いたら怒りそうな内容だが、かなり早口な英語なのでおそらく大丈夫だろうと、たかをくくる。




くじ引きの結果、同じ組の4人中で私が最初に打つことになった。




1番ホールのカップに刺さったピンまでの距離は約400ヤード。




第一打目なので、力を込めてしっかりとドライバーを振り切る。




軽快かつ重厚な、打撃音とスイングの風を切る音が響く。


かなりのパワフルスイングに同組のメンバーはギョッとしていた。




「目算で300と少しってとこだね。今日は調子いいんじゃない?」




「自分の中でもかなり良く振れてました。この調子で進めたらいいですけどね。」




アマチュア大会でそんなビッグドライブありかよ、というようなひそひそ話が聞こえるがしっかりとプレッシャーをかけるためにそれを黙殺した。




結局、規定打数4打のこのホールを3打 (バーディ、スコアカードには-1がつく)で上がり、幸先のいい出だしとなった。



前半の9ホールのうち、このゴルフ場の3番ホールは距離が短く、ニアピン賞といって、全参加者の中で第一打が一番カップに近かった人に賞金が出る。

そして、ニアピン賞が設定されている3番ホールにやってきた我々。




距離は約190ヤードで、ちょうど霧島の6番アイアンの平均飛距離である。



ちなみにアイアンは番手の数字が小さければ小さいほど飛距離が出やすいクラブとなり、打ちこなす難易度も上がっていく。


大体5番アイアンまではみんなゴルフバッグに入れており、4番アイアンから下は難しすぎて打ちこなせないため違うクラブで代用することが多い。




私も例に漏れず、5番まではアイアンを入れており、そこから下はフェアウェイウッドと呼ばれる、ドライバーとアイアンをミックスしたようなクラブを使っている。




このホールの私の打順は4人中4番目である。

各ホールの打順は、前ホールの成績が良かった人から打つためだ。

前ホールの2番ホールではたまたまパットの調子が悪く、規定打数4とされているホールで6打打ってしまい、スコアカードには+2がついてしまった。

1番ホールの-1と合わせてトータル+1である。




現状向かい風が吹いているこのホールでは普段より飛ばなくなるので、私以外のメンバーはフェアウェイウッドを持ち第一打を打つ。


3人が終わり、そのうち2人がグリーンに乗せ、グリーンに乗せたうちの1人がカップから1mのところに寄せた。


これにはブラックベター氏もナイスショット!と言っており、私も素直に感嘆した。




しかしそんなスーパープレーを見せられて黙っていられない。




私はドライバーの飛距離よりもアイアンでの小技に自信がある。


ブラックベター氏の指導を受ける前から自信はあったが、指導を受けてからは精密機械のように全てのアイアンを数ヤード刻みで打ち分けられるようになった。




打順が巡ってきて、おもむろに6番アイアンを持つ。


他のメンバーはおぉ!と少しどよめいた。




ブラックベター氏に風と正確な距離を聞き、霧島は極限まで集中力を高める。




脳は澄み切っており、全ての情報が頭の中で整理される。




霧島はアイアンを全力で振り切る。


向かい風が吹いているので、風の影響を受けないように敢えて低い弾道のボールを打ち出したのだ。




地を這うようなボールはグリーン端っこに、ドッという鈍い音を立てて突き刺さりピンに向かってまっすぐに転がる。


二回バウンドをし、ピンにさらに近づく。


他のメンバーは手に汗を握り、入れ!と叫んだ。




しかしボールはカップに入らず、残り数センチを残し止まった。




入りはしなかったが、メンバーはおぉ!と声を上げ、ミラクルショットにみんなで盛り上がる。




このショットで緊張がほぐれ、やっとみんな楽しめるようになってきた気がする。

私も知らない人たちとゴルフを通して楽しめるっていいなぁと喜んでいた。




途中でダブルボギー (+2)を叩いたり、連続バーディを取ったりしたが、前半を終え私は同組の中でトップのスコアを出した。


スコアは32、4アンダーである。




前半を終えた組は、クラブハウスに戻りスコアカードを提出し、昼食をとる。

私たちも例にもれず昼食会場に向かう。




スコアを集計した結果、前半を終えた私は1位タイだった。


4アンダーという素晴らしいスコアにもかかわらず1位タイ (1位が複数人いる)という結果にクラブハウスがどよめいた。




そんなことは気にせずに、クラブハウスでブラックベター氏とカレー食べていると、私たちのもとに1人の青年がやってきた。




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