第56話

「さて、やって来ました。大阪よみうりCC《カントリークラブ》。」




「誰に説明してるの?あきらくん。」




「いやぁ、ここはキレイなコースだねぇ!」




上から私、ひとみ、ブラックベター氏である。




ブラックベター氏は日本に行ってみたいと言っていたのでついて来てもらったのだ。

ちなみに本番ではキャディをしてくれるらしい。


本当は会場がキャディさんを用意してくれるらしいが、話をすればわかってくれるとのこと。




「そりゃ世界クラスの元選手がアマチュア大会で口利きしてくれりゃ断れねぇだろ…。」と、内心思っていた。




こうして集まった4人は朝からスタートした。


ちなみにではあるが、ひとみもエマもゴルフをする。


2人とも小さい頃から習っていたらしく、ひとみに関しては、私がブラックベター氏の指導を受けると聞いて自分よりも興奮していた。


男子と同じ条件でプレーして、ひとみのベストスコアは87、エマのベストスコアは82だ。


このスコアというものはコースによって異なるがだいたいは72が基準で、どれだけ72に近づけられるかが勝負だ。プロは72以下で回る。


アマチュアであれば100を切ると1人前。

この100の壁が一番大変で、大体の人はここで挫折する。

90を切ると結構うまい人。

80を切ると近所でも有名なうまい人

といったところで、私はマカオで出した80が自己ベストスコアだ。






今日のゴルフはなぜかすこぶる調子が良く、ドライバーはよく飛び、パターは外さず、前半を33で終えた。もちろん自己ベストのハーフスコアだ。




「霧島さんスコア相当いいですね!プロ並みですよ!」

ブラックベター氏がしっかりほめてくれる。




「いや、まさか自分でもそんなスコアが出るなんて…。」




「私も自分のスコアにびっくりした。


本格的な指導を受けるだけで、コースの周りやすさが全然違う!


今日は夢の70台かも!」

ひとみもブラックベター氏から指導を受けながら回っているので調子がいい。

スコアはこちらもベストの39で前半を終え、興奮していた。




後半で私は少し崩れたが、それでも36で回りきり、トータル69でホールアウトした。

基準値の72よりも3少ないので3アンダー(-3)である。

プロかな?




ちなみにブラックベター氏は67で、エマは73、ひとみは79でホールアウトした。

ブラックベター氏はさすがというほかないが、エマがすごい。

男子並みの飛距離と女子ならではの繊細なパターが冴えに冴えていた。




そのスコアが書かれたスコアカードをゴルフ場提出したところ、プロの方ですか?と聞かれたが、それはまた別の話。




ゴルフを終えて、シャワーを浴びるとエントランスで再合流。

来るときも乗ってきたレクサスLXに乗り、ホテルに向かう。



今回はお客さんもいるため、エマがホテルを予約してくれたのだ。




今回4人が泊まるホテルは、ホテル・ラ・スイート神戸ハーバーランドである。

大会本番ゴルフ場の立地関係もあり、神戸のホテルを予約してくれたようだ。

部屋は空いている部屋をおのおのが選んでエマが取りまとめてアサインしてくれた。



せっかく神戸に来たのなら、ぜひ神戸牛を食べて欲しいなと思いつつ、私の運転で40分ほどの道のりで車をホテルに向かわせる。






ホテルに着くと、ドアマンが温かく迎え入れてくれ、チェックインまでの流れが非常にスムーズだった。


この日本のホスピタリティを間近で感じ、エマも思うところがあるようだ。





今回はブラックベター氏にとってもそこそこ長期滞在になるので大きな荷物は別送していた。

各自が部屋で別送品の荷物を確認し、持ってきた荷物も部屋に置くと、ロビーに再集合した。

晩御飯は何にしようかとなったので、私がぜひ食べてほしかった神戸牛を食べに向かった。




「日本の神戸ビーフ、食べてみたかったんだよなぁ!!!」




「私も非常に楽しみです!!!」




外国人組が非常にテンションが上がっており、私とひとみも精一杯もてなしてあげようと考えていた。




そんな4人がやって来たのは、雪月花という名前だけでも高級な感じがビンビン伝わるお店の離れ。



神戸はひとみの地元ということもあって、

ひとみのお父さんの計らいで、特別に案内してもらったのだ。




ひとみのお父さんも是非参加したいと言っていたが、仕事の都合で来れないとのこと。


是非ゴルフの話もしたかったと、最後まで残念そうだったらしい。




このひとみのお父さんからの話にはひとつ追伸がある。




ひとみ曰く


「今度じっくり2人で話し合おうじゃないか霧島とやら。」だそうである。




車を運転していたわたしは疲れからか手が震えて事故を起こしそうになったとか。






雪月花の離れでは極上の神戸ビーフを堪能した4人。


エマとブラックベター氏が言うには、もう他の牛肉は食べられなくなってしまった。とのことである。




お会計は4人で25万円だった。

エマもブラックベター氏もいいワイン飲んだねぇ。


ではお会計となり、支払おうとすると、既にいただいておりますとのこと。


ひとみを見ると、お父さんがねと言っていた。




御馳走になっておいて何もなし

というのでは筋が通らない。

ひとみにお父さんの連絡先を聞き、速攻で電話した。




「霧島と申します。お食事の件おせわになりまして、本当にありがとうございます。




またお礼に伺わせていただいてもよろしいでしょうか?」




声が震えそうになるのを抑えながら、返答を待った。




「おぉ、君が霧島くんか!娘がお世話になってるそうだね。」

予想外に明るい声の調子に少し気持ちが楽になる。



「若いんだから素直に大人の厚意には甘えておきなさい。


私も天下のブラックベター氏にご飯をおごることができたといえば話の種にもなる。」


「すみません、ご配慮いただきありがとうございます。

お言葉に甘えます。」

しかし優しいのはここまでだった。




「ところで霧島くん。


大切な話があるから近いうちに我が家へ来るように。


ひとみを連れて来るんじゃないぞ?君1人で来なさい。」


背筋が冷える。




「まぁ、男同士でじっっっっくり話をしようや。


なぁ?霧島くんよ。


日にちはひとみに連絡させるから。じゃ、ゆっくり楽しんでくれ。」




ひとみのお父さんはそう一方的に告げると電話を切った。




ひとみの父の急変ぶりに顔を真っ青にし、電話が切れると、携帯電話を落としてしまった。


幸い画面が割れるようなことはなかったが、私は口をパクパクさせることしかできなかった。

酔いも一気にさめた。





帰りは私も飲んでいたため、運転代行を呼び、ホテルまで4人で帰った。




部屋に帰るとひとみにお父さんから言われたことを伝えた。




「気にすることないよ。




お父さんも怖い人ぶってるだけだから。」

ひとみは笑って言う。



「いや電話であの迫力はやばかった。漏れるかと思った。」




「そんな大げさな…。




まぁ私からうまく言っとくから!気にしない気にしない!」




「そ、そうかぁ…?」




「そうだよ!本番まであと数日しかないんだからね!」

ひとみにそう言われるとそんな気がしてくるから不思議である。





「なんか初大会、緊張するな…」




「何言ってんの!カジノで何億もの勝負してきた勝負師のセリフじゃないよ!




あきらくんらしく、どっしり構えて、あきらくんの勝負をしたら負けないよ!」




「ありがとう、ひとみ。」




このあと2人は一つになった。

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