第10話


払い戻し機にマークシートを挿入すると


そこには


しばらくお待ちください


の文字が現れ、係員から、おめでとうございますという言葉とともに霧島は有人窓口に案内された。

またか!!!と思ったのは内緒である。




「あ、あ、あ、あ、あたって、あたってしまった……!!!」




と心の中で叫びながら、平静を装い


「は、はい…、どうも」


と言いながら有人窓口でWIN5のマークシートを差し出し、案内札をもらい換金を待つ。




案内札の番号が呼ばれると、別室に案内された。


なんでも当たり金額があまりにも高額なため、別室で受け渡しをするとのこと。




「い、いくらですか…」




「約4000万円です。配当は2000万円程で、かなり荒れたレースという訳ではないのですが、2口買っておられたので4000万円ですね、おめでとうございます。」






霧島は放心状態だった。




係員はそう言って現金で4000万円を渡してきた。


係員から、取材の申し込みが多数きてますがどうしますか?と尋ねられたが、




「大学生なのであまり目立つことは遠慮したいです。」


と、取材を断った。




霧島は、現金でそのまま持っていくことはできないので、競馬場で紙袋をもらいその中に札束を詰め、競馬場の係員に同行してもらい、競馬場の裏口に呼んだタクシーまで連れて行ってもらった。


その際、皐月賞の時にもらった紙袋を持っていることもバレて、

今日はとんでもない一日ですね!と人盛り上がりしたのはまた別の話。






タクシーに乗った私は


運転手に、一番近くの、某メガバンクまで連れて行って欲しい旨を伝えた。


到着した銀行の窓口はすでに閉まっていたため、ATMで何度も霧島は自分の口座に預け入れし続けた。


霧島はすごい手間だなと思いつつも、500万円を手元に残し、何とか預け入れ終えた。




待たせていたタクシーに乗った霧島は運転手に次なる目的地を告げた。



「次は銀座までお願いします。」




「かしこまりました。それにしてもお客さん、すごい金額だったね…。こっちまで緊張したよ…」

現金を鉾び終わったのでやっと運転手さんも安心したのか無言だった口を開いた。




「いや、自分もあんな金額見たの初めてですから、気が気じゃなかったですよ…」




「ですよねぇ…」




運転手とそんな世間話をしていると、一時間ほどで銀座についた。


運転手さんに面倒をかけたこともあり、少し多めに支払った霧島は、とりあえず、腕時計に感謝するために、腕時計のメンテナンス道具を買いに行った。幸いまだ19時を過ぎたところということもあり閉店間際ではあるが百貨店が営業していた。


百貨店で探してみると、どうもメンテナンス道具というよりも修理道具という方が近いため、


「なんか違う」




と思った。




そこで、霧島は、寝ている間に腕時計を保管するためのケースを買うことにした。

もし寝ている間にとられたらだぞと思ったからだ。






値段はそこそこ張ったが、霧島はいいものが買えたと思う。






そして、買い物が終わったところでまだ20時前ということもあり、私は自分のものを買うことにした。






いきなりではあるが、私はルイヴィトンというブランドにコンプレックスを持っている。

実は今銀座に来たのも、そのコンプレックスを解消するために銀座に来たと行っても過言ではない。






そして、いざやってきたルイヴィトン。


店の出入り口には警備員が立ち、物々しい雰囲気を醸し出している。


おどおどする自分を隠しながら、霧島は胸を張り颯爽と店内に入る。


店員に声をかけられる霧島。




「いらっしゃいませお客様。本日はどのようなものをお探しでございますか?」




霧島はもしかして、自分がよほど場違いのように見えたから、見るに耐えなくて、助け舟のつもりで声をかけてくださったのだろうか?と思った。




「え、あ、はい。財布とバッグを自分用で……」






店員は、少し驚いたようだった。


しかしその驚きは一瞬のもので、すぐに営業用のスマイルを浮かべた。




「かしこまりました、それではまず財布からご案内いたしますので、どのような形がご希望ですか?」






「とりあえず、長財布で、どんなものがあるのか見せていただきたいのですが…」




予は長財布を所望する。

思っていた言葉とは違う言葉だが、ちゃんと意思を伝えることができた。


近年ではミニ財布が主流になりつつあるが、私は何となく「お札を折る」という行為が好きではない。

なので次に買うならやはり長財布がいいなと思っていたのだ。

今の私の財布は父のおさがりの二つ折りの札入れで小銭入れもついておらず、もう10年は使い込んだものだ。そして、先程口座に入れずに手元に残した500万円は到底財布に入らないので、裸でジャケットの内ポケットやデニムのポケットに詰め込んである。




程なくして、店員の説明を受けた私は、かなり中身が入りそうなポルトフォイユブラザという財布と、ブリーフケースエクスプローラーという名前の財布と同じ柄のバッグを購入した。




2つ合わせて約50万円の買い物だったが、とても満足してた。

他にもこまごまとした香水やカードケース、大きなものだとネックレスを購入し、

総額では結局100万円ほどの買い物をした。

おそらく、ルイヴィトンコンプレックスも解消したことだろう。


買い物を終えた頃にはルイヴィトンの店も閉店時間をだいぶ過ぎていた。

閉店時間後も貸し切り状態のようなお店で買い物を続けさせてくれたことに感謝しつつ、買い物を終える。






「そろそろ大阪に帰るか。財布も買ったし、バッグも買ったし。競馬は鬼勝ちしたし。」






そう思い、たくさんの戦利品を引っ提げて私は東京駅へと歩を向けた。

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