第11話

東京駅の八重洲口から構内に入り、新幹線のチケットを買う。


今回は迷うことなくグリーン車だ。




券売機でグリーン券を指定するボタンを押す私の指は震えていたような気もするが気のせいであろう。






私は初めてグリーン車に乗るなと思いつつ、新幹線のぞみのグリーン車に乗り、グリーン車とはこんなにも快適性が違うのかと驚いた。




まず、グリーン席ではおしぼりがもらえるということに驚きいた。

慣れている人からすると当たり前かもしれないが、私は驚きを隠せなかった。


そして、座席の快適性が自由席とは天と地ほど違うことにも驚いた。


そして、なにより、車内が薄暗くホテルのようだった。






「グリーンでこれならグランクラスはどんなもんやろか……。」






そんなことを感じ、さらなる贅沢を夢見て新大阪駅まで時速300キロで駆けて行った。




新大阪に着いた私は

「1日でものすごく疲れたな」と思い、迷わずタクシーで帰ることを選択した。




「新幹線でどこにでも行けるようにもっと都会寄りのところに引っ越そうかな。

大学には、車を買って車で行けば良いんだし。」


この時私はそんなことを思っていた。


しかし、それにしても私はお金の使い方をあまり知らない。


そのため車で通学するにしても、まず車を買うためには何が必要なのかなど全く考えていなかった。


なので、自分が突然金持ちになった実感はなく、4~5千万円くらいの金を手に入れたからといって贅沢をするのはよろしく無いと、堅実にも考え、今の手持ちの資金が10億円の大台に乗ったときに引越しすることをとりあえず当面の目標とした。






しかし、この時私はまだ知らない。


手持ちの資金や資産は日を追うごとに倍々ゲームで増えていることに。


このままいけば、どんなに遅くとも来月には10億円を軽く突破している。






新大阪駅からタクシーで自宅まで帰ったあとは

すぐに風呂に入り、体を洗い、倒れるようにベッドに入り泥のように眠った。



翌日、証券取引所が開くとほぼ同時に私は自身の所有する株式の価格を見た。




もちろんありえないほど上昇しており、チャートを見ている現在も面白いほど朝から爆上げ状態だ。




そこで私は前日自身の口座に預け入れた約4000万円をネットバンキングの口座に送金し、それも投資の運用資金として使い始めた。






「自動車メーカーは買ったから、石油メーカーと、石油商社と、船の輸送も買っとくか。あと優待ほしいから航空会社と…」



ぶつぶつと独り言をこぼしながら株式を買いあさった。








そこでふと気づく。


競馬で勝った分を運用資金に回したということは、当面の目標とした10億円は、もうすぐそこにあるということに。






「まぁいいか…とりあえず50億円までは株式売買で増やして、そこまでいったら配当をもらって生活する方にシフトしよう…。」

本気で運用している人からしたら微々たるものかもしれないけど、資金は潤沢にあるから、もし大暴落しても手持ちのお金をすべて失うだけで済むように設定し、空売りなどはできないようにした。






株式を買いあさったあとは、身支度を整え、大学へと愛用のママチャリで向かった。




他の人から見れば、彼が数千万円もの資金を運用するトレーダーとは誰も思わないだろう。






大学に着き、淡々と授業をこなしつつ、1日を終える。

時間はすでに昼を過ぎ、そろそろ夕方かという頃だ。






私は授業を受けながら一日中、ずっと梅田まで行く足がないから車が欲しいなと思っていた。

つまり一日中上の空だった。


また車好きの私は、自身の足となる車に関して妥協をするつもりはなくしっかりと選んだ車を長く乗るつもりであった。



昼食をはさんで、ちょっと眠気がやってくる時間、

たまたま、今日受けていた授業は税法の授業だった。



ここで私は気づいてしまった。

これまで大きな問題を忘れていたことに気づいたのだ。


税金の問題である。


そのことに気づいてしまうともういてもたってもいられなくなった。

授業を終えるとすぐにインターネットで評判のいい税理士を探し、税金の問題を解決するために奔走した。




どうやら淀屋橋の方に株式や個人の租税問題に詳しい税理士さんがいるらしいとのことで、税理士にアポイントメントを取り、さっそく事務所に向かうと

そこでいきなり三時間ほど話し合った。

全くよく対応してくれたものである。



最終的に、私は投資会社を設立し、社長となることになった。

田舎にいる両親にも話を通し、父母を会社の社員として雇うこととなり、親孝行もできそうだと満足していた。

もちろん父母としては寝耳に水の話で、たいそう面食らっていた。



幸い、私は成人していたため、割とスムーズに事が進みそうだということがわかり内心ではホッとした。


あとは税理士の指示通りの書面を用意し、その税理士と顧問契約を結び、頂いた指示通りのことをするだけである。




私の新たに設立する会社の社員(役員)となった母は心配しきりだったが、GWに帰省して事情を説明することで納得してもらった。



そこで屋号をどうするかという問題に直面したが、これは決めていた。

社名は、全ての始まりである、ロレックスに感謝の意味を込めて

金時計という名前にした。


ダサいとか言うな。


いろいろ考えたけどこれがいいと思ったんだから。




そこまで決めて今後の方針を事細かに確認したところで税理士事務所を後にした。

ついでに車を下見したかったが時間的にもそろそろ8時であまりじっくりと見ることができないということで、

またの機会ということにし、タクシーで自宅まで帰ることにした。




最近タクシー移動が増えたなと思い、贅沢は控えなければと心に決めた。

やはり私の根っこは貧乏性のようだ。

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