閑話 30万PV記念 霧島 動画投稿をする
ある有名動画投稿サイトに投稿された1本の動画が、一部のニッチな界隈で界隈で静かに盛り上がっていた。
ただ一人の男が、どこかの山奥でキャンプをしているだけの動画。
だがなんとなくエレガント。
ただのキャンプなのに高尚に見える。
映るものすべてがなぜか高級に見える。
実際に、使っているガジェットはかなり高級なものが多く、ガジェットマニアたちを歓喜させた。
ここではその動画の一部始終をご覧いただこう。
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「今日は、山に行きます。」
私はたまたま友人に誘われて、今、巷で話題のユーチューブ動画投稿というものをしてみようと思った。
特に意味はない。
なんとなくやってみたら面白そうだなと思ったからやっただけだ。
自分で自分に実況しながら行動のいちいちを説明していくのは何となくこそばゆいが、とりあえず一本撮ってみることにした。
「今日、向かっている山は友人の山です。」
友人の山とは言うが、実際には実家の父母が持っている山なのだけど。
いつか別荘でも作ろうと思って買って、小屋だけおいてある空き地。
もちろん実家の近くにある。
この前の夏の暮れに土地を買ったといわれ、実際に現地を見に行ってみると、なんとなく気に入ってしまった。
特に家や小屋を建てて、住みやすく快適にするつもりもないが、時々キャンプがしたくてここに来る。
暖かくなって、桜の季節になったらひとみも今度連れてきてあげよう。
「今日もいつもやってるように焚火とキャンプをするだけの動画です。
まずは晩飯を調達します。」
近所のスーパーに寄る。
あまり量を買いすぎても消費できないので、1キロ程度のブロック肉を買った。
1キロもあるのに、つまみにして、一晩中飲んでいるといつの間にか消えている。
不思議だ。
ほかにも、こまごまとした調味料や小さい2~300g程度の肉や魚。
キャンプで使うものを買いそろえていく。
「結構買ったかな?もし余ったら家に持って帰って家で食べます。」
会計を済ませ、車に荷物を積み込む。
ラゲッジスペースには酒が入っている。
「あ、ここで今日のコーディネート紹介しときますね。
今日は山に入るのでブーツ履いてます。
上は枝とかで切るとめんどくさいことになりそうなので、レザーの裏ボアジャケット。下は動きやすいように裏毛のあったかパンツ。冬山なので結構重武装です。それでは行きましょう。」
カメラは切らずに、後でどうせ編集するのでそのまま車に乗り込み再度山を目指す。
このスーパーからは30分ほどでキャンプ地に到着する。
道中車の中では、一人でどうでもいい話をしながら運転していた。
「はい到着しました。」
到着したのは山中の小さな湖のある我が家の持つ土地。
ちなみに見える範囲といってもたかが知れるのだが、この周辺の見える範囲の山々はほとんど購入したらしい。
ちなみに山は結構二束三文で買える。
「まずはここは夜になるとすごく寒くなるので焚火しましょうか。」
その辺から適当に枯れ木を集めてきて、やぐらを組み、火をつける。
着火剤なんていらない。松の木でも入れておけばすぐに火が大きくなる。
「次は料理用のかまど作りですね。」
車のラゲッジスペースから大きな焚火台を出して、料理をするかまどを作っていく。
「ここで肉焼いたらおいしいだろうなぁ。」
思わずそんな独り言が漏れるくらいワクワクしてきた。
使っている焚き火台は、俺を焚き付けた友人おすすめのキャンプギアショップで勧められるがままに買った。
せっせと準備をして、料理場と暖を取るための焚火が完成した。
「それでは肉焼いていきますか。」
肉はあらかじめ常温に戻しておいた。
常温といっても今は冬なので結構冷たい。
先ほどのスーパーでもらった牛脂を鉄板で溶かして、厚切りの肉塊をアツアツの鉄板にそっと置く。
「この音がたまんねぇんだよな。」
片面をじっくりと焼き、しっかり焦げ目をつける。
裏面はそんなに焼きすぎず、火が通る程度。
少しレアな方が俺は好きだ。
「味付けは塩コショウで十分。
それではいただきます。」
やはり地元でとれた肉はうまい。
肉の油がとにかくうまい。
いい休日だなとしみじみ思う。
「うまい。」
クーラーボックスに入れて持ってきていた、キンキンに冷えた生ビールの缶を開ける。
ぷしゅっと小気味のいい音が鳴り、中身を一気にいに流し込む。
「っっくぅ~」
思わず声が漏れる。
「正直、このために生きてるよな。」
飯もたくさん食べて、おなか一杯になってきた。
夜も暮れてきた。
そろそろ寝る準備するか。
「今日は車中泊です。」
正直テントを張ってもいいのだけど、めんどくさい。
レクサスLXはフルフラットにもなるし、サンルーフも備えているのでこちらで寝る方が快適だ。
さすがにフルフラットにしてそのままだと、ごつごつしていて寝にくいので、
あらかじめ敷布団的な役割を果たすマットを持ってきている。
敷布団を持ってきているということはもちろん掛け布団もある。
車中でありながら、ほぼベッド状態だ。
「それじゃ、星を見ながらおやすみなさい。」
サンルーフを開けて、星を見ながら眠る。
カメラのスイッチも切っておく。
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この動画についたコメントを抜粋して下記に記す。
『レクサスでキャンプ・・・・』
『まぁSUVだからおかしくはないのか・・・?』
『投稿主「スーパーでお肉買います」キロ3万円越えの超高級和牛ポイ~』
『ワイの行きつけのスーパーにはそんな高級肉売ってないんやが。』
『なんかエレガントだよな』
『↑同意。なんかしゃべり方とか口ぶりが余裕のある人のそれ。』
『てか投稿主でかくね?』
『いやでかい。顔はわからんけど絶対イケメン。』
『しかも金もち』
『これはもうめちゃくちゃ足が臭いとか、大ハゲとか欠点ないと許せない。』
『ハゲで背も低くて足も臭いワイ、涙目wwwww』
『涙拭けよ』
『てか、コーデ紹介の上着、エルメスのレザージャケットじゃん』
『ま?いくら?』
『300万超えると思う』
『本物の上級国民じゃねえか』
『肉の焼ける音がたまらん。』
『俺もう投稿主の家の犬とかになりたい』
『犬でも俺らよりいい暮らししてそう。』
『犬にも優しさ向けてくれそう。』
『わかる』
『この投稿主の手が好き。』
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なんか癖になる朴訥な語り口調と、逆に素材の良さが光って見えるほどの編集技術の拙さ、
ふとした時に出てくる1つ1つの小物のセンスの良さ。
声フェチ、手フェチ、ファッション、料理、ASMRなどなどなど…。
いろんな界隈の、狭い層に刺さった。
その結果、謎に再生回数が回ってしまい、ユーチューブの再生回数が50万再生を超えた。
それくらいで、他の動画投稿SNSにも切り抜きが出始めた。
肉の焼ける音だけの切り抜き。
肉を買うところだけの切り抜き。
ファッションだけの切り抜き。
ビールを開ける音だけの切り抜き。
本人の知らないところで大いにバズった。
~~~動画投稿の数日後。~~~
「霧島、お前の動画バズってるぞ」
大学で友人に話しかけられた。
こいつが動画投稿を進めてきた当人だ。
「バズって何?」
「めっちゃ人気になって話題になってるってこと。」
「へぇ。」
「興味ねぇのかよ。」
「まぁあんまり・・・。」
「あとで見てみな。」
「あいよ。」
家に帰ってから友人に教えられたことを思い出す。
「そうか、反響が大きいのか」と思い暇になったのでマイページを見てみる。
「は、450万再生。チャンネル登録者数20万人。」
ここまでくると怖い。
見なかったことにしてアプリを落とした。
この一連の動画投稿が、のちに謎のブルジョアキャンパーとしてもっと大きな話になるのはまた別の話。
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