第61話

「そういえば、霧島ってなんか羽振り良くない?


今日の格好とかえらいキマっとるやん?」




「まぁそれなりに頑張って稼いでるからね。」




「お!すごいやん!なんのバイト?」




「ギャンブルギャンブル。」




嘘は言ってないし、廣田も冗談と思っている様子で和やかムードだったがそれを壊す女がこの場にはいる。




「えー!でも霧島さんが身につけてる時計ってロレックスっていうやつじゃないんですかー?


すっごい高いやつってききましたよー?」




「あぁ、これ貰い物だから。形見みたいなもんよ。」




「えー、すっごーい!そいえばこの前大学広報にのってたのって霧島さんですかぁ?ゴルフの大会優勝したのって!」




「まぁそうだね。」




「すっごーい!ゴルフってお金持ちじゃないとできないんですよねー?」




「いやそんなことないよ。」




「それでもすごいですよー!だってメッセンジャーバッグもロエベじゃないですかー!」




ここで霧島の服装について説明しておく。


全体的なスタイルとしてはちょっとカジュアルで、ジュンヤワタナベの切り替えシャツに、ジルサンダーのダブルのロングPコート。


パンツは白のバレンシアガのデニムで、少しロールアップしており、靴はあえてニューバランスのスニーカーを履いて全体のハズしとしている。


私は荷物が多い状態を好まないため、いつも何かしらバッグを持っており、

今日はロエベの小さいパズルバッグを斜め掛けしており、その中に携帯と財布とタバコを入れている。



来ている服の値段やブランドをほかの人から言われるのはそんなに気分がいいものではない。




「まぁ、これもプレゼントでもらったものだから。


てか、よくロエベってわかったね?」




「私ブランド品好きなんですよぉー。

もしかしてコートもジルサンダーですか?」


こいつの嫌いなところがまた1つ増えたと思った。


ブランド品が好きなのは構わないがそれを喧伝して歩く奴は好きじゃないのだ。




「霧島さんってすっごいお金持ちなんですね!」




「いや、まったくそんなことないから。」




「やっぱり霧島羽振りええやん!」

廣田のフォローもあまり効果をなさず。

霧島にとっては全く面白くない時間を過ごしたが、その面白くない時間はさらに続く。




「あ、俺そろそろ店番戻るわ。」


廣田が自らのサークルが出店している店の店番に戻ると言い出したのだ。


サークルの後輩の島田も連れて帰ってくれるのかと思いきや、島田はじゃ私の分まで頑張ってくださいなどとほざいている。




「こいつは?」




「島田ちゃんは店番もうすんだよ。だから今日はもう自由行動。」

ここで裏切るか廣田。

しかし一度解散する選択は悪くないぞ。



「そうなんですぅー。」




霧島はため息をつきたい気持ちでいっぱいだった。


廣田とその場で別れると、俺は帰りたくなって駐車場の方に向かい始めた。


すると島田もついてきて


「ちょっとお出かけしませんか?」


と言ってきた。


絶対嫌だよと思いつつ


「どこに?」


と聞いてあげる優しさを霧島は持つ。




「ちょっとデートしましょうよ!」




「絶対嫌だよ。てかさぁ、俺彼女いるからそういうの無理。」




「えー!大丈夫ですよぉ〜。


友達同士で遊びに行くだけじゃないですかぁ〜」




「いや本当にそういうのいいから。」




「なんでそういうこと言うんですかぁ〜


私のこと嫌いなんですかぁ〜?」




内心で嫌いだよと思いつつも


「そんなことはないけど、しつこい人はあまり好きじゃないかな。」


と言った。




「……なんなんですか?」


島田の雰囲気が変わったことに気がついて、地雷を踏んだかもしれないと思った。




「こっちがせっかくアプローチしてるのになんで無視するんですか?


男は嬉しいでしょ?


私みたいな可愛い女の子に迫られて悪い気なんかしないでしょ?」




島田のその物言いに少しカチンときて言い返してしまった。


「少なくとも俺は嫌だね。」




「なんなんですか本当に…。


その済ました態度がいちいち癇に障りますね。


あんたの彼女より私の方が可愛いでしょ?


その私が遊んであげるって言ってんだから遊びなさいよ。」




「いや、少なくともお前よりはうちの彼女の方がよっぽど可愛いし美人だし綺麗だね。


というか、彼女がいなかったとしてもお前みたいなやつはこっちから願い下げだから。」




そう言い切ると霧島は車に向かう。


霧島はこの言い争いが駐車場に停めた自分の車近くの、人気がないところで良かったと思った。




「待ってよ!なんで置いてくの!?ねぇ!」




霧島はそれを無視して素早くLXに乗り込み、助手席に乗り込まれないように鍵をかけ、エンジンをかける。




島田は案の定助手席の方に回り込み乗り込もうとするが鍵がかかっている。


ドアが開かないと見るや運転席の方に回り込んでくる。




「ねぇ、乗せてよ。」




「金で男のこと見るやつって大嫌いなんだよね。」




「別にそんなんじゃないし。」




「てか俺がさ、俺の彼女知ってて絡んできてる?」




「え?何いきなり。しらないし。」




「結城ひとみね。わかるでしょ?」




「え…うそでしょ…?」


もしめんどくさい女の子に絡まれたら私の名前だしていいよと言われていたが、いざ出して見ると、ひとみの名前ってそんな効果あるんだ…と怖くなるほど効いてて、内心ちびりそうになった。




「本当だよ。なんなら今から呼ぼうか?」




「もういい。最悪。帰る。」




あのめんどくさかった女がこんなにすぐ方針転換するほどにひとみの名前の威力があると言う事実に驚愕した。




すんなりと島田が帰ってくれたので、気を取り直して、ドライブがてら兵庫まで車を走らせることにした。


実は無類の甘い物好きなので、兵庫の西宮までパンケーキを食べに行くことにした。

嫌なことの後は甘いものに限る。




西宮にはフレーバーティーで有名な紅茶屋さんの本店があり、そこにはカフェも併設されてとても居心地が良い空間となっている。




いやなことがあった時は、よくそこに通っている。




大学から1時間と少しで店に着き、駐車場に車を停め店に入る。






「いらっしゃいませ、霧島さん。」


そう言って馴染みの店員さんがカウンターに案内してくれる。




ここではロイヤルミルクティーとパンケーキを食べることにしている。

普段は甘い紅茶は飲まないのだけど、ここだけは特別。



程なくしてパンケーキと紅茶が届けられて一息つく。




「なんかいやなことでもあったんですか?」

いつも嫌なことがあったときに来ているからか、

店員さんが聞いてくれたので、今さっきあったことを話す。




「うわぁ…って感じですね。」


同情までしてくれ、新しい新作の紅茶のミルクティーをサーブしてくれた。


このお店は紅茶を飲みきると、次から次へと紅茶を注いでくれる珍しいタイプの店だ。




「ありがとうございます。」


そう返事をしてゆったりとした充実した時間を過ごした。




すると携帯にひとみから連絡がきた。


あと1時間ほどしたら終わるとのことだ。




リラックスタイムもここまでということで、会計を済ませ、大学まで車を走らせひとみを迎えに行く。


約束の時間よりは少し遅れてひとみが研究棟から出てきた。

私の車を見つけると手を振りながら歩いてきた。




「おまたせ!ありがとね、行かせてくれて!




今日は腕によりをかけて手料理作ってあげるよ!!!」




「お、めっちゃ楽しみ!!」



ひとみの手料理はめっちゃうまかった。

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