第60話 霧島 受難する

秋学期も始まり、しばらくすると、大学の中にお祭りムードが漂い始める。


そう、学祭の季節だ。




今年の学祭は、ひとみと回るつもりでいる。




「今年の学祭楽しみだね。」



「ね!なんかお祭りが近くなると浮ついた気持ちがする!


彼氏がいる状態でお祭りちゃんと回るの初めて!」




ひとみも楽しみにしてくれているようで何よりだ。


私たちは現在どこのサークルにも所属しておらず、学祭は純粋に楽しむ側の人間となる。






まだかまだかと思うと意外と遠いもので、やっと学祭の日がやってきた。


その日、2人はちょっとおしゃれをして大学にやってきており、衆目を集めていた。


自分でいうのもなんだが、高身長で、最近体を鍛えていて程よく筋肉がついており、また顔の作りはもとから悪くない。


そこにお金の力で良いものを身につけ始め、近くのセンスの良い人間 (主にひとみとエマ)があれやこれやと口を出すものだからかなりセンスの良い、妙に色気のある怪しい大学生?が出来上がっている。

まるでサファリやらレオンやらにのっているモデルのようだ。


大学生御用達雑誌によく掲載されている、ヒョロガリモデルモドキとは格が違う。



一方ひとみは、元来のその美貌がすでに暴力的輝きを持っている。

ひとみが着れば、しま◯らだろうとユニ◯ロだろうとプラ◯だろうとシャネ◯だろうと関係ない。



しかし、幼い頃から磨かれてきたセンスが服装その他を適当に済ませることを許さずにその輝きをさらに増幅させている。彼女を見た大学生達はもはや同じ大学生には見えない。


オーラのせいか、実年齢よりは2人とも少し年上に見えることから若い裕福な夫婦のようにも感じられる。




周りから羨望の眼差しを一身に受ける2人は大学祭を順調に回っていく。

演劇部の出し物を見たり、バンドサークルのライブを見たり楽しい時間をすごした。




するとひとみのことを呼ぶ声がした。

どうやらひとみは女友達に呼ばれたらしい。


2人でいってみると、どうやらひとみが3年次から所属したいと考えているゼミの教授が阪大で開催する学会の準備が間に合わず、今日1日だけの手伝いを探しているらしく、一緒に行かないかとのこと。




「行ってきていいよ!むしろ良い経験になるんじゃない?」




「ほんと?ごめんね…。


終わったらすぐ連絡するから!


埋めあわせとしてご飯おごります!!」




「わかった、待ってるね!」


若干の寂しさを感じたが、これもひとみのためだと割り切り、笑顔で送り出した。




ひとみがいなくなったので、予定が全部飛んだので学内をぶらつき始めた。




学祭が行われているキャンパスは普段授業を受けているキャンパスとは異なる。そのため、知り合いも少なく本格的にすることがなくなってきた。




そんな私に声をかける人物が。


「あれ、霧島?」



「ん?おぉ!廣田!」


声をかけてきたのは廣田という理学部に所属する学生だった。


廣田とは一年生の時の一般教養の授業が同じで、たまたまよく話すようになり今でも細々と交流が続いている友人の1人だ。




「どしたん、今日1人?」




「いや、彼女さっき送り出してきて再合流待ち。」




「彼女!?!?かぁー!いつのまにそんな!」




「いや結構最近といえば最近やけど。」




「だれ?」




「結城ひとみって子。」




「それめっちゃ有名なやつじゃん!彼氏お前かよ!!!」




「まぁそうね。」




2人がわちゃわちゃと話しているとさらに声をかけてくる人物が。




「廣田せんぱぁーい、なにしてるんですかぁー?」




「おぉ、島田ちゃん。今久々の友達と会ってね。霧島、こいつはサークルの後輩の島田真衣ちゃん。」




「こんちは。」




「霧島さんっていうんですねー。こんにちはぁー。」


俺はこいつ嫌いなタイプだな、と一目でわかった。


間延びした話し方と、ヘラヘラした笑顔、独特のだらしなさを感じる風貌、全てが好みではない。


そして、こいつは嘘つきだと思う。


おそらく俺のことをすでに知っている。


なぜなら、俺が廣田と話している時に少し離れたところからこちらを伺っていおり、話に割り込むタイミングを測っているようだったからだ。


それと、なによりも、俺を見る彼女の目が好きではなかった。




最近、俺のことが大学の中で、どうやら相当金を持っているやつだと噂になっているらしい。


その噂を聞いた時、よく学内のイケイケのグループに属する女から声をかけられるのはこういうことだったのかと納得した。


島田は、その声をかけてきた女たちと同じ目をしている。

この島田という女が好きにはなれなかった。




「せんぱぁーい、暇なら一緒に回りませんかぁー?霧島さんもご一緒に!」




「そうだな。霧島はどうする?」




「いや、俺は大丈夫よ。」




「えぇー!一緒に回りましょうよぉ〜」




お前がいるから嫌なんだよ、と思いつつ、廣田の手前あまりこの厚意を無碍にするのもよろしくないと思い渋々ながら承知した。




しばらく3人で回って気がついたが、この島田という女はやたらとボディタッチが多い。


明らかに誘ってきているのが丸わかりだ。


客観的に見ると、島田は可愛い系のタヌキっぽい顔立ちをしており男ウケが良さそうである。なんとなく体つきも肉感的だ。

本人も十分それをわかっているようで存分にその力を発揮してくる。



しかし相手が悪かった。




私には彼女がおり、その彼女と島田を比べると全てにおいて彼女が勝つ。


天と地ほどの差があることは歴然である。


そんな彼女であるひとみとほぼ毎日暮らしている自分からすれば、島田の誘惑は迷惑以外の何物でもない。




島田も、自分の魅力が毛ほども通じていないことに気づき、だんだんイライラし始めている。




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