第16話

車を走らせて1時間足らずで目的の店に到着した。




「雰囲気のある店構えですなぁ!」


結城ひとみ嬢は興奮して私の同意を求めた。




「でしょ?これは一回行っとかないとなって思って、同じ和食派のひとみ嬢をお連れしたんですよ!」




と私もやや興奮したように結城ひとみ嬢に返事をする。




店に入ると


「予約していた霧島です。」


と店主に告げる。




おかみさんがカウンターの内側から出てきて




「霧島さまですね、お待ちしておりました。」

と告げ2人を個室に案内した。



おかみさんは2人を案内するとドリンクの注文を取り個室を後にする。




「ここ相当高そうだよ!?!?!?!?


私あんま持ってきてないよ!?!?!?!?」




ひとみ嬢はそう慌てて私に告げてくるが、

私は「大丈夫だ問題ない。」

と返事をするのみである。




「まだ彼氏でもないっていうのもあるだろうけど、おそらく本気で払えるかを心配してるっていうとこもポイント高いな。」




などと、生意気なことを考え飲み物と料理を待った。




いわいでは基本的にコース料理しか提供していないため、注文を取りに来るということがない。

箸の進み具合を見に来ることはあるが、個室客へは店側からの声かけは滅多にない。




結城ひとみ嬢と他愛もない話をして戯れていると、最初の料理が運ばれてきた。




鱧とスッポンを使った先付けで、夏らしく、とても素晴らしい味付けだった。




「ほぉぉ…鱧…。あと、煮汁はすっぽんやね。」




「そうやねぇ、鱧食べると夏って感じするなぁ。」




「たしかに!特に京都の方行くと祇園祭と鱧の組み合わせめっちゃよく聞くもんね!!


京都の川床で鱧食べに行きたいなー」




「もうすぐ祇園祭だし、京都まで行く?」

一緒に行きたいなという淡い期待を込めてそういたずらっぽく聞いてみる。



「いいねぇ!ガソリン代と高速代私出すから行こう!


そのかわり鱧代は奢ってくれたまえ。」




ひとみ嬢はおどけてそう言った。

こういう天真爛漫なところに惹かれるんだよなぁ。



「ガソリン代と高速代より鱧代の方がよっぽど高くつくわ!」




私がそうが突っ込むと、ひとみ嬢は、

「冗談だよ、鱧代払うくらいのお金は持ってるよ」

と笑いながら言っていた。




「嫌な雰囲気にならずにお金のことをちゃんと話せるっていいなぁ。」

過去の経験があるだけに、心の中でしみじみとそうつぶやく。




私はひとみに対する評価をまた一段と引き上げた。





楽しい時間は早く過ぎるもので、コースも順調に進み、

あとはデザートを残すのみとなったところで、2人の会話は恋の話になっていた。






「ひとみ嬢って美人だしモテるでしょ。なんで誰とも付き合わないの?」




「そりゃ心に決めた人がいるからよ。」




「それって俺知ってる人?」




「まぁ、そうだろうねぇ。


てか、私のことより、霧島くんはなんで誰とも付き合ってないのよ。」




「今露骨に話逸らしたよね、まぁいいけど!


自分は、最近プライベート忙しかったし、彼女と別れたからすぐに誰かと付き合う気にもならなかったし。


なにより話が合う可愛い子が一緒にご飯食べてくれるから女の子には困ってなかったからかな〜」




「え、可愛いって私のこと?


いやぁ、周知の事実ではあるけど、改めていわれると照れるなぁ。」




「アホか!


まぁそんな感じよ。で、結局気になる人って誰なん?教えて!」






「結局そこに話戻るのね。


まぁ、ヒントを出すなら〜


そろそろ気づけよって感じかなぁ。

こーんなかわいくて素敵な女の子が普通2人で個室のご飯屋さん行きますか?


って感じかな。」




「ぬかしおる。」



苦笑気味にふとひとみ嬢の顔をみると

ふざけ一切なしの至って真面目な顔が私の前で私のことを見つめていた。




「え。まじ?」






「まぁ。うん、まぁ。まじよ。

こういう感じは想定してなかったんだけどなぁ・・・。


まぁ大まじやね。

そもそも大学入って2人でご飯行ってるの霧島くんだけやし。」




「え、あ、え?あの、え?あっとー、え?」


私はひとみ嬢の返答を聞き取り乱した。




「さてさて、これでだれかわかったよね?

最近教授たちからの覚えもめでたい、頭の良い霧島くん。」




霧島は恐る恐る尋ねる。


「わ、私ですか?」




「やっと気付いたかね、霧島くん。

年度変わって何回も隣の席座ってちょこちょこ会話して、アプローチしてたのに全然気づかないよね君。

どうせ最近仲良くなったとか思ってたんでしょ?」




「すいません…結城さん…。」




「で?どうなのよ?

こんないい女にここまで言わせてなんの返事もなしかね?え?霧島くんよぉ?」




ひとみ嬢に発破をかけられ、私は腹をくくり、こう切り出した。


「あのー、俺と付き合ってください。」


にんまりとするひとみ嬢。



「その、あのーっていうのがいらない。もう一回。」


ひとみ嬢は、自分から最初に気持ちを白状させられた恨みか、自身が満足いくまで何度もリテイクを要求した。


5回目くらいの告白でやっとOK判定をもらうことができた。

それでも評定でいうと「可」らしい。



「ありがとう!


でも、ひとみちゃん、なんで俺のこと気になってたの?」






「顔はある程度優しそうであればどうでもいいんだけどさ。

清潔感あるし、背高いし、服装も私好みだったんだよね、まず。


でも他の男子みたいにがっついてこないし、私アプローチかけても目もくれないし、もうそうなったら意地だよね。


こう見えて、いい女の自信あったし。


でもさ、そうなるともう手遅れなのよ。

気づいたら目で追ってるし、霧島くんのこといっつも考えてるし。」




予想外の高評価に霧島は驚き、


「いやありがたいことで。


こんないい女の代表みたいなひとみちゃんに目をかけてもらえるなんて…


不肖霧島、感涙の涙にむせぶの巻……。」


上がったテンションでよくわからないことをつぶやく。




「何言ってんだか…。


まぁでも、これから恋人同士として、よろしくね?」




「もちろん!こちらこそどうぞよろしくお願いします。」






こうして晴れて恋人同士になった2人だったが、いわいでの会計は、




「恋人になったことだし。」




と全額私が出そうとすると、絶対に半額は出すと、ひとみが譲らず、結局私が多めに出す割り勘ということになった。

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