第50話

「久しぶりだね、霧島くん。


ずいぶん派手にやってるみたいじゃない!」




店の引き戸を開けた中村さんはいつものような若々しい声で私に声をかける。




「お久しぶりです、中村さん。


やっと中村さんにお寿司奢れるくらい余裕が出てきたので連絡させてもらいました!」




私はそう言いながら入り口まで中村さんを迎えに行き、カウンターの奥まで案内していく。




「霧島くんカジノ一つ潰したんだって?


やるなぁ!僕でもそこまでしたことないよ!」




「いや、潰したというか買収したという方が近いような。」




霧島は最近のいろんな出来事を中村さんに伝えていく。


競馬のWIN5でとんでもなく勝った話、ラスベガスで数十億勝った話、マカオで勝ちすぎてカジノを買収した話、モナコで世界中で鉱山経営をする男に会った話。




それらのすべての話を非常に楽しそうに聞いてくれた。




「やっぱり、若い人の話を聞くのは楽しいね。


僕とは目のつけ方が180度違う!


霧島くんの話を聞くのは新鮮でとても楽しいよ!」




ありがとうございます。と恐縮しながら中村さんに返しつつ寿司をつまむ。




中村さんは今、後進の育成に力を入れているらしく、経営塾のようなものを結成したらしい。


なかなかに人気で、生徒はキャンセル待ちの人が何人もいるということだ。


中村さんからは今度講演をしてほしいと頼まれたので、いつでも講演しますよ!と答えておいた。




ここで、一つ気になっていたことを中村に相談することにした。




「マカオでカジノを一つ買収したんですが、その結果世界規模の大きなカジノ会社の役員になってしまいました。


そのおかげで、フットワークの軽さが、少し発揮できなくなってしまいそうなんです。


中村さんならどうしますか?」




「なるほどね。霧島くんも悩むことあるんだねぇ。




でも僕ならそんなことは気にしないかな。


世界規模の会社の役員なんて、そんなに経験できることじゃないから引き受けるよ、もちろん。




でもやりたいことや実現したいことは他にもたくさんあるから、自分のフットワークの軽さが持ち味なんだということをみんなに理解してもらうかな。」




「なるほど…」

なんとなくではあるが心の中の靄が晴れていくのを感じた。

いくら口では大きなことを言っても

大企業の役員になるということがプレッシャーでもあり、自分にとっては、実は、少しだけ負担になっていたのだった。




大企業の役員になるからといって自分を変える必要はないということが、中村さんのおかげで理解できた。


立場や職責に縛られず自由にやってみようと思えるようになった。




「中村さん、ありがとうございます。


中村さんのアドバイスのおかげで、自分ももう少し頑張れそうです。」




「若いうちの経験は財産だからね…!


なんでもやってみて、なんでも経験にしなさい。」




中村さんの話を聞けてよかった。と心から感じていた。




途中で河岸を変え、何時間も話し込んだおかげで解散は夜中の2時を過ぎた頃になった。




「中村さん、今日はありがとうございました。


いいお話がたくさん聞けました。


またご飯ご一緒させてください。」




「僕の方こそだいぶご馳走になっちゃって。


若い人と話ができるのは老人冥利につきるね。


是非またご飯に行きましょう!お誘いお待ちしています。」




そんな言葉を残して中村さんは電車みたいな長さの真っ白なロールスロイスに乗って帰っていった。


ちなみに初めて中村さんと一緒にご飯に行った時に乗ったロールスロイスとはまた違うロールスロイスだった。




中村さんを見送った後、タクシーでホテル日航大阪まで向かい、家に帰るのがめんどくさくなったので、ホテルに泊まった。




特に部屋を指定せずに、空いてる部屋を適当にアサインしてもらったので、普通のダブルルームに泊まった。




「あー、この狭さ落ち着く…」


決して狭くはないのだが、世界の名だたるホテルのスイートルームに比べるとだいぶ狭いことは否めない。




ホテルの部屋で風呂に入り、ふかふかのベッドで眠りについた。

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