第49話 霧島 一時帰国する



ルームサービスの担当者が来る30分ほど前に、フロントからかかってきたモーニングコールで目を覚ました。


「あ、モーニングコール設定してたんだった。」






パパッと身支度を済ませ、人に見られても問題ない見た目に仕立て上げた。



時間になって、手際よく朝食の準備を進めていくホテルマン。


ふと気になったので、準備をしている彼に、それらの銀食器はどこのものですか?と聞いてみた。




「これはクリストフル社のものです。フランス王ルイフィリップ から王室御用達の認定を受けたメーカーで、世界中で愛されているメーカーです。」




このホテルのスタッフには、もはや何を聞いても正確な答えが返って来るのではないだろうか?と思い始めていた。




美味しい朝食を食べ終え、最後の身支度を済ませ、荷物を持ってフロントに向かう。




いざチェックアウトをし料金を支払おうと思ったのだが、すでに会社から支払い済みだった。


そもそも、サンズグループはオテルドゥパリと年間契約をしているらしく、ダイヤモンドスイートの一つ下の普通のスイートルームにならいつでも泊まれるらしい。


しかし、運良くというか運悪くというか、たまたまスイートルームが満室であったため、その一つ上のダイヤモンドスイートに泊まることができたということらしい。




なるほどと思い、この高待遇に納得した。


フロントを後にして、エントランスでドアマンに車を持ってきてもらい、488ピスタでコートダジュール国際空港に向かう。




ピスタの運転に慣れてきたことも手伝い、高速では少し飛ばしてしまったため予定よりなかなか早く空港に着いた。




空港のスイートラウンジでゆっくり時間を潰し、優先搭乗で飛行機に乗る。


飛行機に乗って思ったが席が少々狭い。



もちろん最高の席を用意してもらったのだが、行きではプライベートジェットだったため少し狭く感じた。

ロンドン・ヒースロー空港から成田空港の道のりはもちろん大変快適で過ごしやすかったが、やはりプライベートジェットには劣る。


贅沢になってしまった自分を反省し、恥じ入る気持ちでいっぱいだった。


だからこそ、もっともっと積極的にお金を使っていこうと、新たに目標を立てた。


自分が率先してお金を使って経済を回していこうと。




成田から伊丹はドリームライナーで向かった。

ドリームライナーは新しい機体ということもあり、すこぶる快適なフライトだった。

このころには狭さに慣れてきて、あんまり狭いと思わなかった。





伊丹空港に着き、駐車券の処理をしてもらい、行きの時よりもだいぶ重くなったリモワのスーツケースと、細々した荷物でいっぱいになった新しい相棒のエルメスのバーキン60を引っ張り愛車のレクサスまで向かう。





伊丹空港から阪大近くの自室に戻る。

やはり、車を置きに行ったりするのは不便なので、大学の近くに土地を買って、秘密基地的なガレージハウスを絶対作るんだと心に決めた。




日本に帰ってきた日、私は泥のように眠っていたが、次の日からはかなり精力的に活動していた。






まず、自分が持っているお金をある程度把握しようと思い、

愛車のレクサスで金融機関回りを開始した。


とりあえずたくさん持っている全ての口座のうち、今通帳記帳ができるものは記帳しておこうと、まず、証券会社の口座を確認した。




そこで明らかになったが、保有している数十社の株式のうち何社かが、配当日を迎えたらしく、証券会社の口座には60億円ほど振り込まれていた。

そして数十社のうち何社かは株式分割があり、持ち株数が増えたということも証券会社の担当営業さんから聞いた。


その時まで気づかなかったが、自身の保有する株式資産がもうすぐ1000億円を超えそうであったため、約6%の運用益ということで妥当な結果か。




その振り込まれていた60億円を自身の口座に分散して送金処理する。

処理が済んだところで、通帳の束をもち、今日はi8で銀行巡りに向かう。




その際全ての銀行で頭取が出て来て、ぜひ運用しませんか?といわれたが、もう間に合ってますと断る。

記帳ついでに1000万ほど現金を下ろしておく霧島。その現金をバーキンに無造作に突っ込む。

モナコから返ってきたときに持っていた現金(ユーロ)の札束は輪ゴムで止めて無造作に部屋の机の上に置いてきた。






銀行の次は税理士である。

ちゃんとアポを取ってから淀屋橋の顧問税理士のところに向かい、

私がたどることになった数奇な一連の話をするとその話はもう先方さんの税理士とついているとのこと。


顧問税理士さんはサンズの税理士が世界4大会計事務所のデロイトだとは知らなかったらしく、向こうから突然メールと電話がかかってきたときはかなり緊張したとのこと。




その時に加えて付け加えられたのが、所得税の問題だ。

かなり荒稼ぎしたので、おそらく相当持っていかれるという話を受けた。

年末にはより詳しい話をするのでまたきて欲しいとのことだ。






その後も細々した用事を片付け、ひと段落すると一旦家に帰り、シャワーを浴びて、準備をする。

準備を進めて、そろそろ晩飯かと行った頃になるとソワソワし出した。


実はこのあと約束があるのだ。

日本に帰るにあたり、連絡を取ったのは、もちろんひとみと、全ての始まりとなった中村さんである。




その中村さんとご飯を食べにいくことになったのだ。

場所はもちろん、さえき。


全ての始まりの場所で全ての始まりの人と会うのだ。緊張しないわけがない。

今日はお酒を飲む予定なので車では行かず、タクシーを呼んでお店に向かう。


約束の時間まではまだ少しあるが、緊張は解けない。


今の自分を見てなんていうだろうか?


どんな感想を持つだろうか?


怒られるだろうか?


そんな感情が私を支配する。

別に悪いことをしているわけではないのだけども…





そして、そろそろ約束の時間というところで店の引き戸を開ける音がする。

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