第90話

ひとみと婚約したことを、遠く離れた地に住む大事な友人に連絡した。






『ヘイブラザー、元気してたかい?』




『久しぶりだなダニエル。』




そう、ラスベガスのカジノ王ダニエルだ。


家が完成したら呼ぶと言いつつ、延び延びになっていたのだ。




『今日はブラザーに大事な報告があるんだ。』




『どうしたんだ?』




『実は俺婚約したんだ。』




『なんだって!?!?!?


こうしちゃいられねぇ。今からすぐ日本に行くぜ!!!』






『おい、正気か!?』






『ブラザーの一大事とあっちゃ黙って合衆国《ステイツ》で博打打ってる場合じゃねぇ!!


日本に着いたらすぐ連絡する!』








数時間後。






『ヘイブラザー。日本のKIXに着いたぜ。


ここからどうすればいい?』




『よくKIXって覚えてたな…。』




『兄弟の住むところの最寄の空港くらい覚えてるさ。』




『たしかに。じゃあ迎えに行くから待っててくれ。』




『OKブラザー。』




電話を切るとひとみに告げる。




「今から友達が来る。」




「へぇどこから?」




「ラスベガス。」




「ブハッ!!!」


ひとみは飲んでいた紅茶を吹いた。




「今深夜だよ!?!?」




そう今は午前2時。


こんな時間に飛んでいる飛行機などない。


ダニエルは自家用ジェット機 で、文字通り飛んで来たのだ。

彼はエアバス社が発売していた世界最大の飛行機を自家用として使っている。大きさもさることながら、その度肝を抜くような豪華さから関係者の間ではフライングパレスと呼ばれている。




「いや婚約したって伝えたら今すぐ行く!って。」




「それが何時間前?」




「日付け変わって昨日の午前中。」




「なんで昨日言わないかね。」




「まさか本当に来るとは…。」




「まぁそう思うよね…。」




「まぁとにかく行ってくるから!」




「一応準備しとくね。」




「ありがとう。」




私の住む本町から関空までは車で飛ばして大体1時間弱。


深夜ならもう少し早く、40分程度。


荷物が大きい場合も考慮してレクサスでダニエルを迎えに行く。






関空の第1ターミナルビル国際線到着ゲート前は車を停めることができないため、一旦駐車場に車を入れる。




車を入れたところで、ダニエルに連絡する。




『今空港に着いた。


どこにいる?』




『到着ゲートを出てすぐのベンチに座ってるぞ!』




『わかったすぐ行く!』






走ってダニエルを迎えに行く。

するとすぐにみつけることができた。




「あきら!!」




「おぉ!ダニエル!」




やっとの事で合流した二人はハグして久々の再会を喜ぶ。




「結婚したんだって?」




「そうなんだよ、まだ婚約段階だけどな。」




「めでたいじゃねぇか。ちゃんと俺にも紹介してくれよ?」




「もちろんだ!ところで隣の女性は?」




「おう、うちの嫁さんだ!」




「ハーイ!ミスター霧島。」


ダニエルの奥さんはだいぶ若いスーパーモデルのような女性だった。




「結婚してたのか!?」




「まぁ俺もそれなりにおっさんだからな。


そんなことより今日はブラザーの結婚と聞いて飛んできたんだ。

早く紹介してくれよな!」




「文字通り飛んできたんだな。」




「そうだ。」


この辺りのシャレが通じないのが外国語のもどかしさである。




「じゃあ家まで案内するよ。」





行きと同様30~40分ほど車を走らせ、家につく。




「いいアパートメントじゃねぇか!」




「日本のアパートメントはスゴイわねぇ」




日本のマンションは英語にするとアパートメントになる。


マンションとは大邸宅を意味するので、ひとみの実家や清水の実家、そしてうちの実家こそがマンションにあたる。




二人の荷物を車から降ろしたところで気づく。




「二人とも荷物少なくない?」




「「下着しか持って来てない。」」




「荷物は後から空輸で届くんだ。」




「へぇ…。えっ?空輸・・?」




「いやぁ、多すぎてね。一応飛行機にも載せては来てるんだけど。」




「いやいやいや、日本に住むの?」




「うんしばらくは。」




「えぇ〜!?!?!?!?仕事は?住むところは?」




「大丈夫、大丈夫。家は借りたし、別荘も建ててるから。」




「どこに?」




「えーっとね。止まるのは、うん、そこ。建ててる家はキョウトだ。」




ダニエルが指差したのはセントレジスホテル大阪。


大阪一の高級ホテルといっても過言ではない。


そして我が家から徒歩数分といったところにある。




「とりあえず1年分ロイヤルスイートは借りといた。日によってちょっと部屋が変わったりはするみたいだけど。」






「本物の金持ちを見た気がする。」




「ブラザーも似たようなもんだろ。」




一緒にしないで欲しいとも感じたがなにも言わずに二人を案内する。




部屋に着くと嫁さんがクラッカーを鳴らしながら出迎えてくれた。




「おかえりー!!!そしてようこそ!!!」

ひとみの準備ってこれだったのか。





「こりゃあ熱烈な歓迎だ!嬉しく思うよ!」




「ありがとう!すてきな歓待嬉しいわ!」




「もしかして、ダニエルさんて、ダニエル・ゴールドウッドさんですか?」




「そうだが?」




「申し遅れました、わたくs…




「よしてくれよ。今日はブラザーのシャテイとして来てるんだ。


君は俺からするとアネサンになるんだぜ。


もっとフランクに接してくれ。」




ひとみがポカーンとしている。あきらは頭を抱える。


「ヤクザにハマったのか…」




「あぁ!ブラザーがゴブノサカズキを交わしてくれたからな!」




適当なことを口走ってしまったあの頃の自分を悔やむあきらだった。






ダニエルとあきらの話が盛り上がり始めたところでひとみとダニエルの奥さんはひとみの部屋に消えて行った。




二人きりになったところでダニエルはあきらに切り出す。




「ブラザー。ここに住んでるのかい?」




「まぁそうだな。」




「そりゃ狭すぎるだろ。」




アメリカサイズの金持ちには狭く感じるのは当然かもしれない。




「そうかな?


でももしもっとでかい家に住むとなるとなぁ…。


手入れも大変だし。


住み始めたばっかりで内装も手を加えまくったし…。


引っ越すに引っ越せないんだ。気に入ってるしな。」




「にしてもゲストルームがないのは痛いぜ。」


そう、私たちの住むマンションにはゲストルームがない代わりにマンション自体に付いているゲストルームがある。

まぁ部屋は余ってるからゲストルームとして使ってもいいんだけどな。



「アパートメント自体のゲストルームがあるぞ?」




「そりゃ野暮ってもんさ。


ゲストを家に呼んで、同じ空間で同じ時間を共有するっていうことに意味があるのさ。」




「なるほど、一理ある。」




「セレブリティがホームパーティをしたがるのもそれが理由さ。」




「そういうことか。じゃあまた立て直すってことか?」




「何言ってんだ!アパートメントごと買えばいいじゃないか!!」




「えぇ!?」




「そんで最上階の部屋が他に空いてるなら全部ぶち抜きで一軒にしちまえばいいじゃないか。」




「なるほど。人がいる場合は?」




「こっちで引っ越しやらなんやら全部手配してやって詫び料で一億くらい払えば話聞いてくれるんじゃないのか?」




「なんかそういうやり方って好きじゃないんだよな。」




「そうかぁ。じゃあ空いてるかどうかだけ見てみてもいいんじゃないか?」




「そうだな!入居の時に挨拶はしたんだがその時は出てくれなかったんだよな。」






後日知ることになるが、最上階は他に二部屋あり、その二部屋ともが、様々な要因が重なって空き部屋となっていた。


不動産会社はなんとかして埋めたいが億越えのマンションで時期外れということもあり、買い手が警戒するためそう簡単に買い手がつかない。


そこで私が二部屋とも買いたいと言ってきたため、異常なスピードで話が進んだ。


結局他の二部屋だけではなく、ビルごと買った。


下の階の方の迷惑にならないようにこっそりと工事をしたため多少時間がかかったが1〜2ヶ月でネオ霧島ハウスが出来上がった。

この買い増しによって駐車スペースがさらに4台分増えたのが地味にうれしい。

いやもうマンションごと持ち物なんだけどさ。



最終的にかかった金額は、土地代も含めて総額1200億円程だったらしいが、詳しい話はよく知らない。


そして同時進行で一軒家を建てる計画もスタートした。場所は後々住むことも考え、一つ大きな本拠地が、実家とは別に必要だと考えた。


その結果東京都千代田区、港区辺りを予定しているが、それはまだまだ先の話。





話は戻って現在。

「それで結婚式はどうするんだ?」




「上げるつもりだよ。大学卒業と同時くらいかな。」




「そんなに待たせるのか!?!?」




「まずいかな?」




「男として早くウエディングドレス着せてあげなきゃダメだろ。」




「やっぱりそうだよなぁ…。」




「しっかり派手にやらなきゃダメだぞ?」




「それに関しては計画があるんだ。」




「お!?聞かせてみろ。」




こっそりと胸の奥に温めていた結婚式計画をダニエルに話す。




「……脱帽だぜブラザー。


恐れ入った。俺でもそんな計画思いつかなかったぜ。


だが、その計画、だいぶ早められる。」




「なんだって?」




「そして、その計画には俺も噛ませてもらう 。」




「おぉ!協力してくれるか!」




「あと、さっきの話に出てきた清水?とミスター中村?も明日呼べるか?」




「大丈夫だ。」


実は清水と中村さんには前もって計画を話してあり、あとはダニエルが噛むか噛まないかの話だった。今回の来日に際してすでに二人には連絡しており、もしダニエルの協力が得られなかった場合は、明日三人でさらに説得するという方針だった。


協力が得られた場合はどうなるのかって?


決起集会という名の大宴会だ。

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