第72話

まだ年が開ける前、12月31日の午前中には親戚のほとんどが集結していた。




北は札幌で絵描きをしている新造おじさん。


南は鹿児島の大学病院で先生をしている岳大たけひろおじさん。


東は東京で銀行で働いている明美おばさん。


西は金沢で大学の先生をしている芙美ふみ姉さん。芙美姉さんは「芙美姉さん」か「芙美姉」と呼ばないと怒る。


そして、雄次兄さんのおせちも昼ごろには完成して持ってきてくれた。


パッと見ただけで100人前くらいある。


「あきら。ありがとうな。こんな晴れ舞台用意してくれてよ。」




総勢7家族32名が集まった。


その32名と近所の人やらなんやら知らない人やら知ってる人やらが集まって庭やら家の中で語らったりしている。


子供たちは庭で鬼ごっこをしている。


もはやカオスだ。


何が何やら全然分からない。






しかし年末行事は進んでいく。




去年はやってなかったような行事もたくさん増えていた。


朝はどこからともなく、立派な杵と臼が出てきて、大餅つき大会などが始まった時は、もう意味がわからなかった。




ある程度行事をこなしたあと、やることもなくなったので、冬休みの宿題をしている高校生やら中学生の親戚の子供たちに勉強を教える。


アルバイトで塾講師をしていた自分にとってはいい暇つぶしになるし、子供たちからすると宿題が早く片付きそうで嬉しい。




夜は親戚たちとしこたま飲む。


だいぶ酒が少なくなってきた。


そしたらまた明日には第二便が届くらしい。

いよいよ重弘おじさんは店の在庫を本格的に空にするつもりのようだ。

酒を呑み倒しているときに、こんなに在庫を飲んで大丈夫か重弘おじさんに聞いてみると、酒屋はどうやらたたむらしい。



酒屋をたたんで、雄次兄さんと霧島家の料飲部を管轄するとのこと。




「霧島家の料飲部?」




「そう料飲部。」




「なんそれ。」




「飲食店やってる親戚が多いからまとめるの。」




「なるほどねえ。」




「元々みんなそれぞれの地方でそれなりに上手いこと行ってた人だからねぇ。


みんな今の店はたたむなり引き継ぐなりして、この近くに店開くんじゃない?」




「へぇー。うちってそんな家だったんだなぁ。」




「あと、顧問弁護士がつくよ。」




「だれがやるん?」




「アメリカのおじさんがおるじゃろ?」




「うん、ジョージおじさん。」




「譲治な。譲治は弁護士や。日本の弁護士資格もアメリカの弁護士資格も持っとる。」




「は!?!?知らんかったんやけど!」




「幸隆とひろみはだいぶアドバイスもろーとるみたいよ。」




「教えてくれたら良かったのに。」




「その譲治がこっちでも事務所開くらしい。」




「じゃあ法律関係は丸投げしとったらええんやね。」




「そうなるね。」


「税理士さんはおらんのん?」




「おるよ。明美が税理士も会計士も持っとらぁ。」




「え、知らんやった。じゃあ今の付き合いがあるところから変えた方がええんかな?」




「明美に話したら多分なんとかするやろ。」




ちなみに、村上氏の税理士事務所は明美おばさんが吸収した。

というか資産管理会社が吸収した。

私が資産管理会社を設立する方向で動いているというと、すでに父母が設立したとのことだったので、ついでにそちらにすべて巻き取ってもらえた。

これ幸いとばかりに関係各所に丸投げしておいたので、あとは村上事務所の皆さんが頑張ってくれるだろう。


そして、一族のメインバンクは明美おばさんが以前勤めていたメガバンクになったが、年が明けてすぐ、わざわざこんな田舎まで頭取たちが挨拶をしに来るらしい。


後に挨拶に来てくれた時にわかるが、

明美おばさんに挨拶をする彼らは、明美おばさんを見ると目がキラキラしていた。


明美おばさんが何をしていたのか、どんな繋がりがあるのか、どんな力が働いたのかは分からないが、明美おばさんは彼らのことを子飼いの犬みたいなもんよ。と言っていた。


怖すぎて聞けなかった。




「じゃあ個人資産やら全部任せてええんかな?」




「そりゃそうやろ。それが資産管理会社の仕事やき。」

自分がめんどくさいことはしなくてよくなるので年内にすべてのカタがついて大ハッピーだ。




朝にみんなで搗いた餅で雑煮を作って、重弘おじさんと話しながら食べていると、父がやってきて明日の予定を話してくれた。




「明日は紋付袴を着てみんなで神社に初詣行くぞ。」




「わかった。」




「で、なんか話ししよったけど伝えとくことあるか?」




「資産管理会社設立したんやろ?」




「そうなるね。」




「具体的なポストやらはもう好きにやっといてええき。」




「わかった。」




「俺の資産も管理下に入れて運用しといて。」




「まぁそれがええやろな。」




余談ではあるが、岳大おじさんがこっちに移住してから開業した病院は地方で1番大きい病院になり、最終的に日本で1番大きな病院ネットワークを形成することになる。


そして、岳大おじさんを始め、本家の近くに移住してきた親戚たちは、軒並み世界規模で事業の成功を収める。成功した親戚は資産をどんどん資産管理会社の管理下に入れ、会社の管理する資産は年々倍々ゲームで増えていき、ほんの数年ほどで数兆円規模の資産を管理することになるのはまた少し先の話。






そうこうしていると除夜の鐘の音が聞こえ始めた。






「今年はいろんなことがあったなぁ。」




「俺もやわ。」


父がつぶやく。




「まぁ父さんと母さんはね。申し訳ないと思ってる。」


父には勤めていた会社を辞めてもらい、最初は俺の個人会社の役員をやってもらっていた。

そして、これからは最初に設立した会社の金時計は資産管理会社に吸収される。

そこでは1事業会社となり、父も母も持ち上がりで資産管理会社の役員も兼務することになっている。




「でもな、毎日楽しいぞ。サラリーマンやってた頃よりよっぽど楽しい。給料は多いし、休みはきっちりあるし。」




「楽にしてあげたくて会社の役員やってもらってるのに、それで大変になったら元も子もないからね。」




「そりゃそうだ。」


周りの親戚たちもみんな笑っていた。


怒涛の1年は笑い声とともに暮れていった。

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