第71話 霧島 実家に顔を出す。
年の暮れ、今年もそろそろ終わろうかという頃、私は実家に車で帰省していた。
実家は四国地方のなかなかの田舎にあり、大阪から片道で大体4~5時間といったところだ。
なんとなく早く帰りたかったので、i8で実家に向かうことにした。
ゆったり帰るならレクサスなんだけどね。
大阪ではたくさんのお土産を買って、普段ならひとみが座っているはずの助手席にそれを詰め込んだ。
高速道路の道中ではサービスエリアでB級グルメを堪能したりもした。
そして、やっとのことで実家に着いた時は驚いた。
思い出にある自宅よりもだいぶ大きく、だいぶ立派になっている。
元々田舎なのでかなり広い家だったが、増築したのだろうか、広さはさらにその二倍ほどになっており、家の前には見覚えのない外車が4台止まっている。
ピアノブラックのメルセデスベンツAMG S65ロング、真っ赤なフェラーリGTC4LUSSO、落ち着いたダークブルー、濃紺のアウディQ7、明らかに遊び車だとわかる真っ白なパール塗装までされているキャデラックエスカレード。
キャデラックについてはホイールのインチアップもされておりとにかくでかい。
アウディは普段使いかな?
フェラーリはもしかしてデート用…?
ベンツは仕事か。
そして、その4台に俺の真っ赤なi8が加わる。
まるで自動車ショーだ。
フェラーリに関してはもういろいろとあきらめた。
お金を稼いでいる私でさえも、なんとなくフェラーリを購入することは敬遠していた。しかし、実家の両親2人は違った。
遠慮する気配がない。
「父さんも母さんも車好きだもんな。そりゃこうなるか。むしろ抑えてる方だろうな。」
それもそのはず、2人が出会ったのはサーキット。趣味でサーキット走り回るくらいの筋金入りの車好きだ。
そんな2人が子供が生まれてからは一切の趣味を封印。
一心に親の愛を注いでくれて、
ここまで育ててくれてありがとうという気持ちはどうやっても尽きない。
そんな2人にはそれぞれに、役員報酬として、年俸で5億円程を渡している。
これからは趣味も大事にしてねという親を思う子心だ。
2人で10億。
おそらくかなりの割合が車に消えていることは想像に難くない。
しかしこれは憶測に過ぎない。
そもそも正直、自分の報酬もよくわかっていないのだから、両親の財布の心配をしてもしょうがないだろう。
「あきら!お帰り。」
「おう、あきら!よく帰ってきたな。」
実家のドアを開け、ただいま!と叫ぶと父、幸隆と母ひろみがやってきて出迎えてくれた。
まず両親にお土産を渡し、自分の部屋に荷物を置きに行く。
見覚えのない長い長い廊下を進むと俺の部屋があった。
「あ、変わってない。」
全く変化の兆しすらもない、自分の部屋に安心した私は、荷ほどきをし、スーツケースからお土産のワインと日本酒を出して、リビングに持っていく。
「はい、お土産その2。」
「あら。いいのに。」
「晩御飯何。」
「今日はお鍋。」
「ほーん。何鍋。」
「ふぐよ」
「ふぐね。」
晩御飯の時間になって、
家族三人でふぐ鍋をつついていると、父が言う。
「なぁ、あきら、お前今何しとるんだ?」
今更かとも思うが、あえて詳しいことも聞かずやりたいようにやらしてくれているのはありがたいと思う。
親としては気になるだろう。
「話せば長いけど、まぁ簡単に言うと投資家やってる。」
「儲かっとるんか。まぁ儲かっとるんじゃろうけど。」
「うん、まぁ。」
「あんたねぇ。うんまぁ。じゃわからんじゃろうがね。」
母は広島の出身なので時々こういう喋りになる。
「うーん、まぁ、少なくとも今日本でトップクラスに稼いどるとは思う。」
「ほーか。それならええんじゃ。」
父は母の影響もあってか、広島の人ではないが広島弁のような何かを喋る。
「お前ももう一人前に稼ぐようになったけんうちのことを話しておこうと思う。」
「なん?うちのことって。」
「うちはの、実は昔から続く地主の家なんや。」
「おう。それは聞いたことがある」
「ほいでの、戦争やらいろんなことがあって、その土地の大多数をうしのーてしもーたんよ。」
「どういうこと?」
「戦中やら戦後のゴタゴタで土地がほとんどなくなってしもうた。親戚もみんなバラバラじゃ?」
「まぁそうやね。北海道から鹿児島までいろんなところに親戚がおる。」
うちの親戚はなぜか日本中に散らばっているが、なぜかほぼみんな盆と正月にはこの家に来る。
「まぁそれはええんじゃが。
爺さんも本家の長男じゃったけん、なんとか家を再興させたかったらしいんやけど、最終的には普通か、普通よりちょっと裕福止まりやった。」
「いっつも爺さん言いよったね。」
「うん、わしもその頃の話やら聞いとったけん、なんとかして家を再興させたいっていう気持ちはあるんよ。」
「ほんで?」
「ほんで、もしお前が良かったら、今は親戚らぁはみんなここに戻ってきたいらしいけん、元々持っとった土地をできるだけ買い戻すなりなんなりして、みんなを再集結させたいんやけど、どう思う?」
私は考えた。
確かに今はやりたいことが多すぎる。
人手はいくらあってもいい。
親戚なら赤の他人よりは信頼できるか。
みんながこの周辺に住んでくれるならお互いに変なことはしないだろう。
むしろ変なことをするには大きくなりすぎた感はある。
そして何よりロレックスが賛成している。
いや、賛成しているような気がする。
「ええと思うよ。」
「わかった。ありがとう、あきら。」
父はそういうと、席を外した。
「あきら、ありがとうね。」
母はなぜかとても感謝していた。
何か釈然としない気持ちでいると、父が帰ってきた。
「今日明日で親戚多分ほとんど全員集まってくるから。」
「え、マジで?」
「マジもマジも大マジよ。
御前会議を開くから。」
「なん?御前会議て。」
「一族当主のお披露目よ。」
「だれ?当主って。」
「おまえしかおらまーが。」
「ほぁーーーー。ワシですか。」
「ほうじゃ、お前じゃ。」
まったく状況についていけないまま何とかして事態を飲み込んだ。
「とりあえず何すればええの?」
「袴着て座っとくだけでええ。お前の袴はもうある。」
「わかった。」
「そうと決まれば準備やな。母さん。」
「はい、パパ。」
どうでも良いが、母は父をパパと呼ぶ。
父が連絡したからか、近くに住んでいる親戚はすぐに来た。
チャイムが鳴らされ、父と母が出迎えにいく。
来客一番乗りは近くで酒屋を営む重弘おじさんだ。当主のお披露目ということで、店の中の在庫の酒のほとんど全てを持ってきたらしい。
霧島一族は酒をよく飲む。本当によく飲む。
特にこのおじさんは、止められなければ永遠に酒を飲む。
そんなおじさんが持ってきた冷やす酒はガレージの業務用冷蔵庫に。
おじさんの店の若い衆が片っ端から入れている。
「こんなガレージあったっけ?」
「増築したんじゃ。」
「家の様子も様変わりしとるけぇそれはわかるけど。」
「元あった家の周りを取り囲むように増築したんよ。」
と答えるのは母。
「どういうこと?」
「元の家に箱をかぶせた感じって言ったらわかるかね。」
「箱。」
「昔のお城みたいに、元あった家をお城本体として、その周りにどんどん増築したっていう感じ。」
「お城。」
「まぁ家の中見て納得しんさい。」
「はい。」
重弘おじさんに始まり、来客が続々とやってきた。血は繋がっていないが、近所のおじさんおばさんもやってきた。
霧島家が復活すると聞いて、老人ホームに入っている近所のおじいちゃんおばあちゃんもやってきた。
家に来た近所の、小さいころお世話になったおじいちゃんやおばあちゃんはあきらの手を握り、ありがとうありがとうと言う。
昔うちの爺さんに助けてもらったという話や、曾祖父さんに助けてもらったという話をみんながする。
あきらは、そんな爺さんが、曾祖父さんが、この家が誇らしく思えた。
しかし、すぐに正気に戻る。
「いや、こんな話大きくなるとか知らんかったんやけど!!!!」
「いや、ほんまそれな。ワシも分からんかった。」
正直父さんも、火をつけたくせに大事になり過ぎていてかなりビビっていた。
あっという間に家はぎゅうぎゅうになり、庭を解放した。
あまりにも人が来るので、用意していたおせちの量が明らかに足りない。
すると、近所の割烹を営む、従兄弟の雄次兄さんから電話がかかってきて、今家にある食事は全て消費して大丈夫と言われた。
我が家では年末用おせちというものがある。
年末の来客をもてなすためのおせちだ。
いつもならほとんどお客さんなんて来ないので、3が日くらいまでは持つ。
それがとんでもない勢いで消費され、まだ大晦日までは日があるのに底をつきようとしていた。
この緊急事態に雄次兄さんは
また夜には新しいのを作って持ってくるということになった。
さらに元旦には腕によりをかけて新しいおせちを持ってきてくれるらしい。
雄次兄さんが話したいというので、自分も電話を代わったが、よくやった!とひたすらに褒められた。
そうこうしている間にも続々人がやってくる。
今年の正月はなんかヤバそうだと感じた。
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