第95話 霧島 大学に行く

幸長さんも中村さんもダニエルもそれぞれの仕事で出かけているとき、清水が計画の打ち合わせをしたいと言ってきた。




2人が集まったのは大学の食堂。


まさかこんなところで世界規模の計画を話しているとは思わないだろう。




私はカレー、清水はカツ丼を注文して空いている席に着いた。


2人は大学ではもうすっかり有名人で、遠巻きにヒソヒソと話題にされていることがうかがえる。




「なんか視線を感じるっちゃけど。」


そりゃあそうである。


爆音のAMG C63S クーペで毎朝ちゃんと学校に来る清水。


ボディはもとより、アルミホイールまでマットブラックの塗装が施してあるいかつい車である。

塗装されていたため気づかなかったが、アルミホイールは純正でその上から塗装をしているだけらしい。塗装といってもシールだと言っていたが。

そして、車高もマフラーも変えているのかと思ったらあれで純正らしい。


恐ろしい車だ。




清水が学内の駐車場に止めていることから、私も学内に停めるようになったので、もう隠してはいない。真っ白のレクサスLXに乗って通学している私。

2人そろって、とんだバブリー大学生だ。




その見てわかる財力から、ロクでもない身の程知らずの学生に、時々ではあるが、友達でもないのにお金かしてなどと言われる。


大抵は冗談で済むのだが


一度とてもしつこい奴がいたので


「すまんが、お金を貸す必要があるほど困窮してる人間と友達になった覚えがないのだが。」


その時たまたま隣にいた清水は


「よかったら金融屋紹介しよっか?


ギリギリグレーだけど。」


と2人で言い放ったら誰も言ってこなくなった。




そんなことを言う2人だが実は慈善団体を持っていたりする。


私は学生向けのアパートの運営や返済不要の奨学金を交付する財団。

中村さんも一枚噛んでいるやつである。


清水は九州出身の子供達の進学支援財団。

清水の財団に関してはすでに親の代から始まったもので、50年以上の歴史と延べ数万人以上の子供たちを支援してきた実績がある。





さて、話は戻って大学の食堂。

清水はあんなに綺麗な英語を話すのに、私や友達しかいない場面になると九州弁に戻る。


「さて、計画の進み具合を確認しようか。」




「とりあえず出資金は1兆円と少しほど集まったけんその旨報告。


内訳は霧島んとことひとみちゃんとこが三ずつ。


うちと中村さんとことダニエルが1.5ずつ。


まぁうちからはご祝儀と言うより本当に出資金やね。」




このリゾートアイランド計画に関しては面倒なところはほぼほぼ清水が一手に引き受けてくれている。

なんでも暇だからとのこと。


この計画は五者で合弁企業を立ち上げ、計画の各段階でそれぞれが所有する企業に仕事を割り振る形になっている。




ちなみに島はもう購入済みらしく、700億円程だったらしい。

広さは大体東京都くらいで、半分程度は開発が済んでいる。

開発済みというよりかは途中で頓挫したと表現するほうが正しいかもしれない。


そこから生活可能エリアに、現地政府の協力のもと、ライフラインを通し、石油備蓄基地を建設し、再生可能エネルギー発電施設を設置し、港を整備する。


特に再生可能エネルギー発電施設に関しては、実用化は世界初のシステムが搭載される。


この辺は親戚で学者の芙美姉さんが専門分野なので、知り合いの学者仲間を連れて色々と思考錯誤している。


飛行場を建設する計画もあったが、広さとランニングコストを考慮した結果断念した。


また、のちのちリゾートアイランドとして運用していくことを考えれば、船でしか行くことができないという希少価値が当たるかも。ということだ。




不動産取得は中村さんと幸長さん、うちの実家の会社が担当。


インフラ建設、ホテル建設などは清水と幸長さん。


ホテル誘致はダニエルとうちが担当している。




特に清水家と結城家の建設会社はいわゆるスーパーゼネコンと言われるかなり大きな総合建設会社で、環境の配慮もバッチリで最新技術の粋をあつめた建物ができるだろうとのこと。




「そりゃ1兆円以上もあればなんだもできるだろうよ。」




「まぁそうやね。


出資者のみんなも回収できる公算がでかいけん出すとよ。


あと節税。」




「なるほどなぁ。」




「一応もう工事は進んどって、世界中から技術者とか労働力集めてやっとるけん、多分完成は相当早まるばい。」




「そうか!よかった。」




「一応メインは半年程度で完成予定やけん。」




「半年!?」




「まぁ港とホテルね。


短期でできる代わりにコスト馬鹿みたいに高い工法とかをふんだんに使うっていいよったけん。」






「それ大丈夫なの?」




「一応、島は仏領ポリネシアにあるからポリネシア政府とフランス政府にも許可は取っとーばい。


フランスからも技術者、学者たくさんきとるみたいやけん。ヨーロッパは環境工学のメッカやけんバリありがたいっちゃんね。」




「すごいなぁ…。


ってそこじゃなくて予算!」




「あぁ、足りる足りる。」




霧島はまだ知らない。


この5人での半ば趣味のようなリゾート開発が世界中にもたらす影響を。


1兆500億円は大体95億ドル


タヒチを管轄するポリネシアのGDPが大体50億ドル。


つまりGDPの約倍の金が流れ込むのだ。


まさにゴールドラッシュ。一時期のドバイなどのように一気に国が潤う。


その効果は世界中に波及し、このときはまさに世界が今から空前の好景気に沸く、嵐の前のような静けさだった。




そしてこの計画を実行してのけた5人はフランス政府から勲章を頂き、なぜかイギリス政府からも勲章を頂く。


いきなり外国から栄誉ある勲章をいただいた若者がいるということで、フランスイギリス両政府から遅れること数ヶ月、日本政府も文化勲章をくれた。


なんとも外圧に弱い日本政府である。






「あと第一陣で誘致するホテルも決まったと。」




「どこにしたよ。」




「ダニエルのとこと霧島のとこ。」




「なるほど、まぁこうなるか。」




「サンズのほうはもう好きにやってくださいって。」




「あぁ、よかったよかった。」




「あとお前今自分の肩書き知っとーと?」




「ん?なんの?」




「サンズの。」




「支店長くらい?」




「いや、CEOやってさ。」




「またまたぁ!」




「もうそういう決定らしいけん。頑張れ!」




「でもなんも知らせ来てないよ?」




「多分秘書のエマさん?が全部なんとかしとるらしいばい。」




「有能だなぁ。」




「社長代行って感じやね。」




「エマに譲りたい。会社。」




「あぁ、もう霧島グループに入れちゃったって。」




「あ、そう。」




「なんか本当に財閥じみてきたな、お前のとこ。」




「清水のとこは昔から財閥じゃん。


財閥解体もうまいこと乗り切ったんでしょ?」




「まぁね、ゆるーく繋がっとった企業体って感じでなんとかね。


その実ガッチガチの財閥やったけど。」




「おそろし。」




「うちの実家も霧島と関係持てて幸せって言っとったけん!


これからもよろしくな!」




「道連れにするな!」




大学での楽しい一コマであった。

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