第34話




「霧島様、ダニエル様がご到着です。」




「ありがとう。すぐ向かいます。」




霧島はそう言ってドアマンに100ドル札を握らせた。


部屋のベッドの上にも100ドルちゃんと置いてきたよな、と思い返しながらエントランスに向かう。




エントランスを出ると、ダニエルが昨日と同じ人懐こい笑みを浮かべながらオープンカーの運転席から手を振っていた。






う、う、ウラカン ペルフォルマンテスパイダー……。






説明しよう。


ウラカン ペルフォルマンテスパイダーとは2017年のモーターショーで発表されたランボルギーニ社のスーパーカーである。


ランボルギーニウラカンのハイパフォーマンスカーであるペルフォルマンテは全体的にカーボンパーツが多用され軽量化されており、そのままレースに出られるようなスペックを持っている。


それでいて、乗り心地は通常モデルと比べてむしろ向上しているとさえ言われている、お化けのような車である。






「すごい車だな…」




「一応、市販車になる前の車を特別に譲ってもらったんだ。



俺が今一番気に入ってる車だよ。」




朗らかに笑いながらダニエルはとんでもないことをさらっと言う。




「はー、すごいな。ラスベガス中の人から見られてる気がする。」




ダニエルはそうだろそうだろと満足げな笑みを浮かべている。




「よし、まずは時計から買いに行くか。」




霧島「悪いが、時計は俺が今つけているこの時計以外つけるつもりはないんだ。




思い出の大事な時計でね。」




「そうなのか。それは意外だな。じゃあ、服でも買うか!」




そう言ってダニエルは霧島をシーザーパレスに連れてきた。




「ここは?」

ラスベガス初心者の私は尋ねる。



「シーザーパレスに隣接してる、シーザーズフォーラムにある店は、

基本的にはラスベガスで一番いいものを取り扱っている。だからここに来た。」




「なるほど。じゃあなんで俺たちはシーザーズフォーラムじゃなくて、ホテルの方に来たんだ?」




「いいものがあるということは人がたくさん来る。

だから人混みがめんどくさいから、ホテルの方に持って来てもらうんだよ。」




私は絶句した。金持ちとはこう言うことなのか…と。




シーザーパレスの最上級スイートに案内された2人は部屋に入るとサロンのシャンパンが2つワインクーラーに入った状態で置いてあり、2人専用のホテリエが待機し挨拶をしてきた。




私が驚いているとダニエルは慣れた様子で




「じゃあいつもの通りに。」




と言った。




そこからは怒涛だった。

シーザーズフォーラムに店を構える高級店のマネージャークラスのスタッフが、店の商品の中で、イチオシのものを全て一通り持ってきており、私たちにプレゼンを始めた。




その中でごく少数いた、霧島に「なんだこいつは?」といった目を向けたマネージャーのブランドは商品のプレゼンをする前に帰らされた。




「こちらは俺が兄貴といって慕う日本の友人だ。



その友人に失礼な目を向けるスタッフはラスベガスに必要ない。




彼にとっても、それ以上に、このラスベガスに来ることを楽しみにしている観光客にとっても不愉快な接客だ。店についても今後対応を考える。」




そんなことを言うダニエルに、心の中で私は感動していた。


カジノやホテルをいくつも経営しているだけあって、ダニエルの視野は広い。


自分のホテルだけが勝てればいいという考え方ではなく、ラスベガスがさらにこれからどんどん発展していけるように、考えて事業をしているのだ。


運だけでここまできたと思っている自分にとっては身につまされるような思いだったが、だからこそ、この出会いに感謝し彼から学び取れることは学び取ろうと、自分なりに考えていた。




結局その日、霧島はルイヴィトンなどダニエルがプレゼンの許可を出した店のマネージャーが勧める品を一通り、約5万ドルずつくらい全ての店から購入した。


購入した商品を全て大阪の現在の自宅に届けてもらうように手配したところで料金を支払おうとしたらダニエルが「俺につけておいてくれ」と信じられないことを言い出した。




「正気か!?ダニエル!」




霧島はダニエルに掴みかからんばかりの勢いでダニエルに向き直ると




ダニエルは


「ブラザーと会えた記念さ。」

と言う。


「金で買えるものは大したものじゃない。


金が満たされると、それ以上に価値のあるものが見えてくる。


特に人との出会いや、日本では『縁』っていうんだっけか?それは金で買えるものじゃない。


この素晴らしい出会いに感謝を。」


と言いながら、ダニエルは私と乾杯した。


私はカジノ王の経済力に戦慄したのはもちろんだが、その考え方に強い感銘を受け、彼の好意を素直に受け取っておいた。




「日本に来る時は是非連絡してくれ。




俺が本当のジャパニーズホスピタリティをダニエルに見せる。




ラスベガスにきて、ダニエルと出会えてよかったよ。」




そう言って2人はまた親交を深めた。




そのあとダニエルとシーザーパレスで食事をし、パラッゾに帰った。




ちなみに、シーザーパレスでの食事ももちろんVIPルームで、食べたことのないような豪華な食事だった。


緊張しすぎてその味をほとんど覚えていないし、どんな料理だったのかも覚えていないが、酒が入るにつれ、どんどん楽しくなり、ダニエルが先に潰れたのだけは覚えている。

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