第35話
翌朝といっても昼を過ぎたごろだが、パラッゾの自室で目を覚ました霧島は、はっきりしない頭で、どうやって部屋に帰ったんだっけ……と思い出そうとしていたが、結局時間の無駄だとわかったので、考えることを放棄した。
ベッドから起き上がり、リビングに行くと相変わらずそこに鎮座する、現金がぎっしりと詰まったルイヴィトンのトランク。
そりゃ現金が140キログラムもあるんだもんな。
ご丁寧に、ダミエグラフィットとモノグラムを同数ずつ揃えて、その中に現金を詰めてくれている。
昨日、販売に来ていたスタッフによると、アルゼール80という商品名らしく、通常の市販品の中で一番大きいトランクだということを説明してくれた。
値段を聞くと、こっそり、2万ドルくらいですと教えてくれた。
それが今私の前に目の前に5箱ずつ、合計10箱鎮座している。
この大量の荷物をどうしようかと考えていた。
もしこのまま二カ国目に行くにしても、荷物が多すぎる。
もし持っていくとしても、飛行機で荷物を預けると、この新品でピカピカの芸術品にも等しいトランクが粗雑に扱われることに納得できない。
そこでダニエルに相談することにした。
ダニエルのアドバイスによると、現地に銀行口座を作りそこに預けるのが一番楽で手っ取り早いらしい。
なにより、俺が着いていけば顔が利く。と言っていた。
なのでダニエルを連れて、というより、ダニエルに連れられて、ダニエルの車で早速バンク・オブ・アメリカに向かい、口座を開設した。
当たり前だが、海外に来ているので、パスポートなど個人証明書類などは持って来ており、そのおかけでとても楽だった。
なによりダニエルが付き添ってくれていたのがありがたい。
本来ならただの一旅行者に過ぎない私だが、どんな裏の力が働いたのか、ダニエルに対する大忖度の結果か、無事口座を開設することができた。
さらに、ダニエルが付き添っていてくれたおかげか、デビットカードは即日発行してくれ、クレジットカードは日本の住所に送付してくれることになった。
そのまま銀行に米ドルで1000万ドルを預けた。
あまりの約40万ドルは次の場所に向かうための航空券や、ちょっとしたお土産などのためにとっておいた。
とはいえ5000万円近い現金である。
扱いには注意したい。
残るは10箱のルイヴィトンの空のトランクだが、これもルイヴィトンに持って行き、箱を用意してもらってから、日本に送ってもらうことにした。
本当にダニエルには感謝しても感謝しきれない思いでいっぱいだった私はもう一度、改めてカジノ王ダニエルに感謝した。
「ダニエル、ありがとう。
俺はこの出会いをおそらく (豪快すぎる思い出として)一生忘れない。
ぜひ日本に来て、俺に日本を案内させてくれ。」
「俺の方こそまさか日本人のブラザーができるとは思ってなかったよ。
大好きな日本に、大好きな日本人のブラザーができて、俺の方こそ、この出会いに感謝している。
来年の秋くらいには、日本に行く予定だから、ぜひ案内してくれ。
日本の夏は暑すぎるから夏はカナダかマイアミで過ごすんだ。
それと、ぜひとも京都を案内してくれ。」
「任せとけ!
俺は京都の近くに住んでるから、いくらでも案内するぞ!
待ってるからな!」
そう行って2人は拳をぶつけ合った。
「ブラザーはいつこっちを出発するんだ?」
「明日のうちにこっちを出発して、次はマカオに行こうと思ってるよ。
マカオでも勝てたらモナコにも行って、モナコでも大勝ちしたら、日本に帰るつもりさ。」
「ブラザーは本当に勝負師なんだな…!
ブラザーなら絶対にマカオでも大勝ちするから大丈夫さ!
幸運を祈るぜ!」
「ありがとう。それじゃあ、また秋に会おう!」
そう言って2人は霧島が滞在するパラッゾの前で別れた。
私はフロントに向かい、支配人を呼んでくれとスタッフに告げると、すぐにGMであるジェイコブが出て来た。
「こんにちは、霧島様。ご出発なされますか?」
「何日でも滞在してくれていいと言っては頂いたのですが、次はマカオで勝負してみようと思ったので、挨拶に。
また来た時にはぜひここに滞在しますね。
お世話になりました。」
「とんでもありません。
私共としても、ラスベガスの王者に利用していただいて光栄に思っております。
ご出発は明日のご予定ですか?」
「そのつもりです。午前中はゆっくりしてからお昼過ぎごろの飛行機に乗ろうかと。」
「なるほど。
でしたら私は、ここまで霧島様のご活躍が聞こえるのをお待ちしております。
それではまた次の勝負も霧島様に神のご加護があらんことを!」
そう言ってジェイコブはお辞儀をして去っていった。
「いいホテルだったなー。」
絶対また泊まりに来よう。次はひとみも一緒に。
ラスベガスで10億勝ったことをひとみに電話で報告すると、「私も行きたかった!」とかなり怒られた。
次は必ず、と必死でなだめる私に、やっと矛を下ろしたひとみ。
マカオではその3倍は稼いでこいと発破をかけられた。
「彼女に期待されちゃ、答えるしかないよな。」
そう決意を胸にし、ホテルのランドリーサービスに出していた服の戻りを受け取り、荷造りをして、着々と出発の準備を整えた。
翌日、チェックアウトのためにフロントに向かうと、担当してくれたスタッフに、モートンGMからですと、お手紙を渡された。
そのお手紙には、神のご加護を!というメッセージとラスベガスから香港までのファーストクラス航空券が同封されていた。
「ラスベガスって本当にすげぇ…!!」
最後の最後まで圧倒されっぱなしだった。
買い物や食事、日本の口座への送金、様々な手を駆使して所持金をなんとか一万ドル以下にして、税関の申告から逃れ、私は一路マカオにむかった。
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