第36話 霧島一人旅に出る②
香港からマカオまでは、最低でも約1時間おきに高速船が出ており、香港から日帰りでマカオに行く観光客も少なくない。
そのおかげか、飛行機で来た観光客はそのまま空港で船に乗り換えてマカオに向かうことができる。
飛行機を降りた私は、香港国際空港フェリーターミナルにそのまま向かい、高速船でマカオに向かい、少しするとついにマカオに降り立つことができた。
ラスベガスからの移動時間は待ち時間も含めて約20時間である。
しかし、ほとんどの時間はファーストクラスの機内におり、かなり快適に寝て過ごしたので、新幹線で移動したくらいの労力しか使ってないような気がする。
「とまぁ、マカオに来たわけなのだが…。」
マカオの町並みは、知識として知っているそれよりもかなり綺麗で活気があった。
お気に入りのリモワのスーツケースを引きつつ、船着場を出てタクシーを見つけ、
とりあえずホテルに向かうことにした。
「リッツカールトンマカオまで。」
「かしこまりました。」
私のやや粗野なアメリカ英語に対して、帰って来たのは流暢なイギリス英語、いわゆるクイーンズイングリッシュだった。
多少面食らったが、よくよく考えてみれば香港は少し前までイギリス領だったなと思いつつ、私としてはあまり得意ではない話し方に内心では少し辟易した。
リッツカールトンマカオについた私は、もう慣れたもので、なんの気負いもなくドアマンに挨拶をし、51階のフロントロビーに向かう。
「予約してないのですが、空き部屋はありますか?」
「こんにちは、ようこそリッツカールトンへ。
はい、お部屋をご用意することは可能でございます。
お部屋のタイプはいかがなさいますか?」
「なんでもいいです。あなたのオススメの部屋で構いませんよ。」
リッツカールトンの部屋は全て80平米を超えており、マカオの中でも部屋のクオリティといい価格といい、かなりラグジュアリーなホテルの部類に入る。
それを知っている私は、あえてオススメの部屋を聞いた。
「でしたらこちらのカールトンクラブスイートのお部屋はいかがでしょう?
もちろん名前の通りスイートルームになっており、なおかつクラブラウンジへのアクセスが可能ですので、景色も利便性もよろしいかと。」
「でしたらそこで。
2泊したいのですがおいくらですか?」
「ありがとうございます。
こちらのお部屋が、現金でのご利用でしたら、2泊デポジット料金込みのご案内で2万香港ドルでございます。」
「約40万円か。」
私は早速バンクオブアメリカのデビットカードでそのまま支払い、ベルボーイに荷物を持ってもらい、部屋に向かった。
一通り部屋の説明を受け私の心は大歓喜していた。
「ラッキーなことにシャワートイレだ…!
バスルームも総大理石で言うことなしだな!
部屋もゲストルーム付きだし、最高!」
ウォークインクローゼットの奥にある荷物置き場にだんだんと余白が少なくなってきたスーツケースを置き、勝負服に着替え、早速大人の遊び場に向かうことにした。
リッツカールトンマカオは統合型リゾート、ギャラクシー・マカオの中にある。
この中のリッツカールトンに泊まるか、競合しているJWマリオットマカオに泊まるか迷ったが、憧れのリッツカールトンという名前に惹かれ、もしここがダメだったらJWマリオットにしようということにしていた。
部屋を出て、まずどこかで食事をしようかなーと、思いながらロビーフロアに降り立った。
美味しそうな匂いにつられそうになるが、ホテルの高級ご飯は勝ってからにしようと、グッと気を引き締める。
そのままロビーフロアを通過し、エントランスを出るとすぐ横にカフェが。
霧島は、カフェなら日本にもあるし、マカオといえばポルトガル料理だな、と思い、ギャラクシーマカオ一番人気 (私調べ)の店、GOSTOに向かう。
GOSTOに入り、店員に一人であることを告げ、適当に持って来てくれ、と頼むと、すぐにエビのソテーやシーフードリゾットが持ってこられ、舌鼓を打った。
突然のダンスタイムもあり、なかなかに楽しい時間を過ごした私は気持ちが昂るのを感じた。
「ここからが俺の時間だ!」
と訳のわからないことを思いつつ、カジノに向かう。
最終的にはスカイカジノというところで勝負したいなと考え、とりあえず手持ちを増やすことを考える。
今手持ちにあるのは、
持ち込んだ米ドル約1万ドルを香港ドルに両替した分の約8万香港ドル。
ホテル代はラスベガスで得たお金をぶち込んであるバンクオブアメリカの口座から出したので手持ち資金に変動はなし。
とりあえずこれを切りよく50万香港ドルにすることを今日の目標とした私は、GOSTOの店員さんにどこのカジノがオススメかを聞いた。
「ここはラスベガスじゃなくて、統合型リゾートなんだから、カジノがたくさんあるんじゃないんだよ。
1つの大きなカジノがあって、そこでみんな楽しむのさ。
もちろんVIPはその限りではないけどね!」
「そうなんですね!
教えてくれてありがとうございます!」
どうりでカジノ大国なのにカジノへの行き方がわからなかった訳だと思い、案内されたカジノへと向かう。
無事見つけることができたカジノエントランスで、身分証明書を提出し、メンバーズカードを作成すると、いよいよカジノへ。
私はラスベガスではVIP扱いをされたが、このマカオのギャラクシーカジノではまだまだ一般ユーザーである。
そのため、まずは一般フロアで、ちまちまと軍資金を増やすことにした。
とりあえず、ラスベガスでの作法に則り、軍資金を全額専用チップに変え、バカラのテーブルへ。
バカラは、プレイヤーとバンカー (胴元)に分かれ、配られたカードが9に近い方が勝ちという簡単なゲームだ。
勝てば2倍という単純なゲームだからこそ、ハイローラーにも愛され、ヨーロッパではルーレットがカジノの女王とされるのに対し、アジアのカジノではこれがカジノの王様と呼ばれている。
アジアのカジノ好きの間では主流なゲームである。
宅についてからは勝ったり負けたりを繰り返しつつ、ロレックスの力を借り、この倍々ゲームで、早々に10万香港ドルを稼ぎ出した。
コツは、小さく負けて、大きく勝つこと。
私が20万香港ドルを稼ぎ出したのはそこからわずか1時間ほどのことである。
これくらいまで大きくなると、あとはもう雪だるま式に増えていく。
10万が20万に。
20万が40万に。
40が50に、50が90に。90が170。170が300!
数時間もするとあっという間に、日本円にして6000万円を稼ぎ出してしまった。
気づけば周りは黒山の人だかり。
しまいには、次の勝負をしかけようとした私の元に、マネージャーがやって来た。
「お客様。これ以上のベットは、周りのお客様もおられることですし、VIPフロアでいかがでしょうか?
私共の方でお席を用意いたしましたので、ぜひ。」
私は、ひとみから、
出来るだけむしり取ってこいと言われていることもあり、その申し出を受けた。
結論から言うと、VIPルームでも大暴れした私は、マネージャーに名前を聞かれた。
「霧島あきらと申します。現在カジノ旅行中でして。」
「ら、ラスベガスの鬼…」
くそダセェ名前だな…と思いつつ、その話の出所がダニエルであると知った。
いや、言われるまでもなくわかった。
このネーミングセンスはダニエルしかいない。
まぁ、この話もダニエルに届くんだろうな、と思いつつ、自身の稼いだ、人の背丈ほどもあるカジノチップの山を見た。
ラスベガスでひりついた勝負を繰り広げ、肝がさらに太くなった私は、バカラと言う名の倍々ゲームで約1億香港ドルを稼いだ。
「まぁどっかの社長は100億以上溶かしたって言うし、これくらいもらっても大丈夫だろ。
それより日本での申告がめんどくさそうだな…。」
私の金銭感覚はもはや麻痺しつつあった。
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