第33話

目を覚ますと、最後に確認できた時刻から5時間ほど経過しており、場所も自分が酔いつぶれたVIPルームのままで、ダニエルはまだ寝ていた。




部屋にはブランケットに包まれた私とダニエルが残されており、ロレックスを見ると飲み始めた時からもうすぐ24時間が経とうとしていた。






「飲み始めが昼で、最後に時計を見たのが朝の6時だから結構寝たのかな…。」

二日酔いもなく頭は割とすっきりしている。






自身の記憶がある最後の瞬間にはまだ美しい女性が何人かいたが、彼女たちは、2人が寝てしまうと、寝てしまった彼らにカシミヤ製と思われるひざ掛けのようなブランケットをかけ、部屋を出たようだ。




「てか、VIPルームをこの長時間占拠してて文句の1つと言われないとはさすがカジノ王だな…。」




そう思いつつダニエルを起こそうとしたが、カジノ王ということを思い出し、この眠らない街ラスベガスで毎日忙しいんだろうと思い、そっとしておくことにする。




カジノのスタッフに紙とペンをもらいダニエルにメッセージを残すことにしたが、渡されたペンがモンブランであることに気づき、「VIPルームクオリティしゅごい」と、どうでも良いことを感じながらメッセージを書き終えた。






部屋を出て、チップを1080万ドルに換金した霧島はさきほどまで自分たちがいた部屋の使用料を払おうとしたが、カジノのマネージャーに固辞されてしまう。


しかし私も、ダニエルから兄貴と呼ばれたこともあり、引き下がれない。


霧島は、これがジャパニーズサムライの流儀だから受け取っておきなと、カッコをつけて40万ドルをその場に置いてその場を後にする。

マネージャーが「もらいすぎです!」と叫んだため、霧島はみんなで上手いことしておいてくれと言葉を残してベラージオを去りパラッゾに戻った。




ベラージオからの好意で、残りの現金の1040万ドルはホテルの側でアタッシュケースを用意してくれ、宿泊しているホテルの部屋に届けてくれるということになった。




パラッゾに戻るとホテルのロビーが騒がしくなった。


するとパラッゾの支配人らしき人がいそいそと出てきて私に言う。




「パラッゾのGMを務めておりますジェイコブ・モートンと申します。


昨日はベラージオでお楽しみだったご様子で。」


まさかそのことを知られていると思わなかった私は驚いた。




「ダニエル様から連絡があった時には驚きました。




当ホテルのお客様の中にも、昨日のベラージオでの霧島様のお姿を見ておられた方もたくさんおられるようです。」




「なるほど、だからこのざわめきなのか。」






「左様でございます。



当ホテルのといたしましても、そのような男の勝負を繰り広げられた霧島様からお金をいただいて泊めているとあってはカジノホテルの名折れ。


どうぞ心ゆくまで何泊でもなさってください。


勝手ながら、霧島様のお部屋も当ホテル最高グレードの部屋にアップグレードさせていただきました。」




「そんな!いいんですか!?」




「もちろんでございます霧島様。




もともとラスベガスにはコンプカードという制度がありまして、カジノをたくさん利用していただいたお客様には宿泊費やショーの代金、食事代などさまざまなサービスがございます。




そのサービスを利用したと思ってくだされば。」

なんか初めて聞いた時にはよくわからないシステムだったが今ならよくわかる。

こういうことか。



「感謝します。次にここに来る時にも是非利用させていただきます。」




「是非にお待ちしております。」




そう会話をしてジェイコブは去り、私はベルボーイに新しい部屋を案内してもらった。




部屋に入るとその豪華さに一瞬呆けたが、気を取り直し、ベルボーイに100ドル札をチップとして渡した。




ベルボーイは大喜びで、感謝の気持ちを表し部屋を辞した。




部屋に入るとリビングにはルイヴィトンの大きなトランクケースが10個置いてあった。

まさかと思い、ケースを開けると現金がぎっしりと詰まっていた。



「ラスベガスってすげー!!!!」




ルイヴィトンのトランクと現金を愛でているとスマートフォンにダニエルからの連絡が入っていた。




ダニエルに電話を折り返す。




「霧島です。ダニエルか?」




「よう兄弟!昨日は先に寝ちゃって悪かったな!


部屋代も払ってくれたみたいじゃねぇか!


ベラージオのマネージャーが必死に感謝の言葉を伝えてくれたぞ!


さすがは俺の兄貴でジャパニーズサムライだな!」


ジャパニーズサムライという言葉を気に入っているダニエルはことあるごとに

ジャパニーズサムライと言っている。



「お詫びと言っちゃなんだが、今日は買い物いかねぇか!?」




「気にしなくていい。




今度飲むときは俺が先に潰れるかもしれないからな。


いいね!買い物行こうか!


俺はパラッゾに泊まってるから迎えにきてもらってもいいか?」




「お安い御用だ!




じゃあ2時間後にパラッゾのエントランスの車止めでいいか?」




「了解!じゃまたあとでな!」



「OK!」




そう会話を締めくくり、身支度をする。




私は熱めのシャワーを浴び、体にわずかに残ったアルコールを抜くと、以前購入したGUCCIで身を固める。


抜かりない男霧島、オリバーのサングラスも忘れない。




準備をし、ホテルのラウンジでお茶をしつつダニエルを待つ。




ダニエルを待っている霧島の元に、ホテルのドアマンが駆け寄って来る。

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