第22話


お互い話したいことを話し合った2人の間にふと沈黙がおちる。






「……ねぇ、一緒にお風呂…入ろっか…」






「え?」






「何回も言わせないで!!お風呂はいるの!」






うぉ、まじか…やべぇ、どうしよ


「わ、わ、わ、わ、わかった!


じゃあ先に入ってるから!」




なんとも初々しいカップルである。




「い、勢いで誘っちゃったけどどうしよ…」




先に入ると言って内風呂に向かった霧島の背を見送りながらひとみは羞恥心で悶えていた。




「つ、つまり、そういうことだよな?そういうことなんだよな?」


もちろん霧島も動揺を隠せないでいた。


私とて女を知らぬわけではない。


しかし、今日の相手はこれまでの経験などなんの役にも立たないような相手である。


私がどんな策を講じようとて、それは幼稚園児がパッキャオをパッキャオしようとするようなものだ。


そのことが、なまじ経験のある私にとっては、わかっていたからこそ動揺を隠しきれず、また、もはやもうどうにでもなれという心境にもなっていた。






浴室に入った私はとりあえず全身を、真っ赤になるほど洗った。




ひとみが入ってきたのは、霧島が真っ赤になった後だった。




「お、お邪魔します。」


ひとみはバスタオルを巻いて入ってきたが、その美しさは隠されるどころか、隠されているからこそ際立って感じられた。


派手すぎずに品良く染められたつややかで美しい髪。


真っ白な肌。ほのかに赤く色づく美しく整った顔。その全てが完成された美を体現していた。




「…あ…」




「なんとか言ってよ…綺麗とか。綺麗とか。綺麗とか。」




「き、綺麗です。」




言わせて見たけどこれはこれで恥ずかしい


ひとみは顔を赤くして自爆した。






これ以上に言及してしまうのは2人にとって (この小説が消滅してしまうという意味で) あまり良いことにはならないと思うのでこのくらいにしておく。




霧島「とにかくすごかった。」




結城 「とにかく (いろんな意味で) すごかった。」




~~~~~~~~~~

チュンチュン……




雀の声で目を覚ました私は、これが朝チュンか…などとどうでもいいことを思い浮かべながら目を覚ました。




隣には嬉しそうな顔で、眠っているひとみがいる。






幸せだなぁ。






きっと嬉しいことがここ最近で立て続けに起きた霧島はもう頭のネジがなくなってしまったのだろう。




ひとみを起こすと、朝食を部屋に持ってきてもらった。




「朝も夕もお部屋食なんだね。」




「今日の夜は別館で夕食だから、レストランだぞ。」




「それはいいですなぁ。」




ひとみは満足そうな顔でうなずいていた。




「今日のご予定は?」


とひとみが尋ねる。




「MOA美術館と三島スカイウォーク。時間があれば初島も行きたいな」




「初島?」




「首都圏から一番近い離島と呼ばれる島。


高速船で行くんだけど、面白そうだなって思って。」






「それはよいでふね…!船だけに…!」




霧島はあえて何も返事を返さなかった。


ひとみも何となく気恥ずかしくてそんなボケを挟んでみたのだろうが、自爆していた。






2人は駐車場から車を出し、最初の行き先をじゃんけんで決めた。






その結果三島スカイウォークから行くことになった。




三島スカイウォークとは正式名称を「箱根西麓・三島大吊橋三島スカイウォーク」といい、2015年にできた、歩行者専用としては日本最長の大吊橋である。




自分は高所恐怖症ではないと思っていたが、大吊橋の真ん中でふと下を見下げてしまった。


霧島はなぜか自分が空から谷底へ向かって落下しているような錯覚を感じ、谷底へ引っ張られるような感覚を味わってしまった。




霧島は腰が抜け尻餅をついてしまった。




「どうしたの!?」




「わ、わからん…腰が抜けた…」


ちなみにあとから霧島が知ったことだが、人間はかなり高いところから下を見下ろすと、高さに魅入られてふっと落ちているような感覚を覚えることがあるらしい。




「何してんのよ。」


ひとみは笑いながら霧島に手を差し伸べる。


ひとみに肩を貸してもらって、やっとの事で橋を渡りきった。




「お疲れ様でした。」




「いや、ほんとに。」


霧島は情けないやら申し訳ないで少し恥ずかしい。




道中、車の中で、三島スカイウォークで買ったジェラートを食べながら2人はMOA美術館へと向かった。






「着きました、MOA美術館。」




「おー!


ここでは何を見るの?」




「MOA美術館といえば?」


霧島は試すような口調でひとみに問いかける。




「三角縁四神二獣鏡と紅白梅図屏風と色江藤花文茶壺」




「三角縁神獣鏡のさらに細かい分類で言う奴初めて見た。」




「高校時代の愛読書は美術の教科書と日本史資料集でした☆

センター日本史は満点でした☆」


ひとみは満面のドヤフェイスで霧島の問いに答えた。




「こういうやつ一番うぜえ」




「キャピ☆」






2人はMOA美術館に入ると、ひとみの挙げた3つをメインに鑑賞した。




霧島曰く、ひとみの知識量は化け物。とのこと。






「中途半端な時間におやつ食べたから変な時間にお腹減ってきたねー」




美術館を出た2人はそんなことを話しながら車を走らせていた。




「じゃあ初島行って見るか。」




2人は車を初島行き高速船の発着ターミナル、伊東港へと向かった。




「船の時間ちょうどよかったね」




「そだねー」




「は?(半ギレ)」




なぜか半ギレのひとみに、霧島はビクビクしながら船に乗り、2人で初島に向かったが、帰りの船の都合もあり、実質2時間しか島に滞在することはできない。




急ぐ旅ではないとはいえ一刻も無駄にはできないなと思い、着いたらすぐにあらかじめ調べておいた食堂街に向かうことにした。




30分弱ほどで島につき2人は食堂街に向かった。




歩きながら適当に見つけた海鮮の食事処に入った2人は、席に着くや否や


「「海鮮丼!!」」と2人同時に店員に告げた。






出てきた海鮮丼は思いのほか量も多く、大変満足度の高いものだった。




「いやぁ、満腹。」




「右に同じ」




腹一杯に海鮮丼を食べ少し大きくなったお腹をさすりながら2人はホテルに帰った。






ホテルに帰ると、夕食まではまだ時間があるため、まだ堪能していなかった大浴場に2人は向かった。






「隈研吾が設計したらしいよ」




「ほう、熊ね。」




興味ないことはとことん興味ないんだな…。


美術やら日本史が好きなのになぜ建築に興味がないんだろう?




と、霧島はひとみの新たな謎を発見した気持ちだった。




私は男湯に向かい、湯に浸かった。


湯に浸かりながら霧島は、幸せってこういうことなんだろうな…と考え、昨晩のことを思い出してしまい、ニヤついていた。




男湯でニヤつく若い男。


周りからは相当奇異の目で見られたことだろう。




しかしそれに気づく霧島ではないし、そんな霧島を注意する結城ひとみも今はいない。


そこにはカオスが広がっていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る