第3話
そんな事件から一週間ほどたち、かつての大騒ぎも生徒の心から忘れ去られ、いつも通りの時間が過ぎていた。
中村老人の話も忘れかけた頃、霧島の携帯に見知らぬ番号から電話がかかってきた。
はて、この番号は誰であろうかと思いつつ、電話に出る。
「中村ですが、霧島君かな?もしよければ今日君とご飯に行こうと思うんだが、今夜の予定はどうだろうか?」
「あぁ!中村さん!あの後お体の具合はいかがですか?
暇な大学生なもので今夜といわずに今からでも大丈夫ですよ!!
ぜひお願いします!」
「順調だよ、お陰様で。よし、そう来なくっちゃ!
じゃあ今日の7時ごろ迎えに行こうと思うんだが、大学でいいかな?」
「よかったです、何もお変わりないようで!
時間と場所はそれで大丈夫です。では七時に阪急の石橋駅のあたりでお待ちしております。」
「よし、それではまた七時に」
「はい、それでは失礼いたします。」
今日がバイト休みでよかったと思いつつ、社長さんの夜ご飯はなんだろうかと心を躍らせていた。
授業が終わり、少し時間を潰し、コンビニや大学生協で雑誌をチェックしていると、そろそろ約束の時間にちょうど良い頃になったので、阪急石橋駅のあたりに向かう。
車好きの霧島は、社長の車ってどんなもんだろうか?と思い
やっぱりLのマークの高級車だろうか?いや、スリーポインテッドスターの高級車の代名詞たろうか?などと思いを馳せていると、声がかけられた。
「霧島君!こっちだよ、こっち!」
声のする方に顔を向けてみた。
「そうきたか!」
私は中村翁の乗ってきた車を見てそう思った。
そこには電車のようにながーい車があった。
そう、ロールス・ロイスである。
ロールス・ロイス社の歴史は英国に始まり、時代を超えて世界各国の首脳や、国家元首に愛されてきた、名車中の名車である。
飛行機のエンジンなども作っている、ロールス・ロイス社の車といえば世界最高級車の一つでもある。
「中村さん、すごい車ですね!!!!」
ロールスロイスを初めて間近で見て大興奮だ。
だって田舎にこんなすごい車の人なんていなかったんだもん。
「まぁまぁ、そんなことはいいから乗って乗って!」
「失礼します!」
ドアを開け、乗り込む。
当たり前のように運転手がいることに、今更ながら感慨を覚える。
「すごいですね、この車。」
「まぁ仮にも会社の社長だからね、色々とあるんだよ笑」
そう言って笑い飛ばす中村をみて、この人は実はとんでもない大人物なんだろうなと、月並みな感想を思い浮かべる。それと同時に、今晩のご飯はどんなものだろうかという期待もどんどん膨らみをもっていく。
「今晩のメニューは、いつも僕が行ってるお寿司屋さんでいいかな?寿司が嫌いなら肉でもいいけど。」
「ぜひ寿司で!肉より魚派です!」
さすが、ご老人に囲まれ育っただけある。
私は洋食よりも和食派のヘルシー志向な若者なのだ。
「それでこそ、連れて行きがいがあるというものだよ。じゃ北新地までいこうか!」
北新地だって!初めていくよそんなところ!
北新地なんて貧乏大学生にはとんと縁のない土地である。
高まる期待に喜びを禁じ得ない。
「はいお願いします!」
車内では、なんともないような世間話をしつつ、店に着いた。
そこは、ただの大学生でも知っているような一見さんでは到底入れないような寿司屋だった。
看板にでかでかと書いてある「さえ喜」の文字。
私は感動に打ち震えた。
「さ、さえ喜…!!!!
まさかさえ喜にくる日が来ようとは…!!!
こんな普段着で来てしまった……!!!」
心の中の叫びである。
さすがに中村翁の前でそんな無礼な真似はできない。
連れてきてくれた中村さんに迷惑はかけられないからね。
かなり気後れしつつも中村さんに連れられ中に入る。
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