第20話 霧島 二人旅に行く

「熱海に行きます。」




「はい。」




そんな会話からスタートした、八月上旬のある日。




定期テストが終わり、張り詰めたものがふっと解き放たれるのは、この2人も例外ではない。




私はテスト終わりで自分たちをねぎらう意味も込めてかなり高級なホテルを予約していた。




それは、かの有名な星野リゾートが展開する高級ホテル。界 熱海である。






「星野リゾート一回泊まってみたかったんだよなぁ。」




と、ホテルマニアでもある私は考えて予約した。




「それでは出発しましょう。」




そう言いながらひとみはETCカードを差し出した。




「ひとみ、ありがとう。ちなみに、車で今回は熱海まで行くので5時間の移動と考えています。」




「ひゃー、5時間!おもったより長旅やねぇ!」






「車買ったから、ちょっと長旅に挑戦してみたくて。」


私の言葉に納得の表情のひとみ。

「そいえば、この車自分で買ったの?買ってもらったんでしょ?親御さんお金持ちなの?」




「いや。自分で買ったよ。これを買うために頑張って貯めた。」




なんとなく自分が稼いでいるということを大ぴらにするのもはばかられ、

資産のことがバレないように少しの嘘を交えながら、そう話した。




「そうなんだ!でも最近羽振りいいよね。


スーツケースも私が知ってる高級なやつ3つも買ってたし、しかもバイトもしてないし。」




そう。私はバイトを辞めていた。


四月にシフトを減らしたが、資産が10億を突破した頃に辞める旨を塾のほうに伝え、5月いっぱいで塾講師の職を辞していたのだ。

その五月もほとんどシフトには入っていなかったが。




「まぁ、これまで貯めた分もあるし、ネットで色々稼いでるからねー。」


少しぼかして答えた。




「ネットビジネスかー。なるほどなぁ。羽振りがいい人は羨ましいですなぁ!」




「そういう結城さんこそあんな豪華なファミリー向けマンション住んでおきながら、人の羽振りがどうのこうのよく言えますなぁ。」




もうすでにひとみの家は何度か訪れていた。


しかし、なんとなくタイミングが合わずに、まだ2人でお泊まりはしたことがなく、この旅行が初お泊まりとなる。




「まぁあれは自社物件だから。


実家が箕面の方でちっちゃい不動産屋さんやってるんだよね。


そのおかげであんないいマンション住めてます。」




「なるほどね、じゃあ正真正銘のお金持ちってことか!


いやぁ、羨ましい限りで。」


総資産400億の大学生がよく言うよな、と内心で思いながらひとみと会話を楽しんでいた。






期間がまだ盆休みに入ってないと言うこともあり道は比較的空いていた。

レクサスLXに搭載されているクルーズコントロールもその真価を十分に発揮し、存分に活用することができた。




「クルーズコントロールって便利だよなぁ。アクセル踏まなくても自動でスピード維持してくれて進んでくれるんだもんなぁ。」




「あ、それ知ってる。うちの車にもついてる。」




「いい車乗ってんねぇ。」




「うちの親は金持ってるからねぇ。」




そんなたわいもない会話を楽しみつつ、途中のサービスエリアで何度も休憩を挟みつつ、とうとう熱海までやってきた。




沼津インターチェンジを降りたあたりから、ひとみが霧島に尋ねた。




「今回泊まるホテルは?」




「界熱海。」




「お、星のやつ?」




「そうそう、お星様の。」




そう答えた霧島の言葉にひとみは期待と興奮を隠せないようだった。


ひとみは楽しみだなぁ〜としきりにつぶやいていた。




朝7時過ぎに大阪を出発し、現在は昼の12時を少し過ぎたあたり。


2人はホテルに到着した。




2人が泊まる本館の駐車場に入るとすぐに係員がやってきて、運転席側の霧島に声をかける。




「本日はようこそ、星野リゾート 界熱海へいらっしゃいました。お客様のお名前をいただいてもよろしいでしょうか?」




「予約しておりました霧島です。」




「失礼いたしました、霧島様。


お荷物がございましたらお預かりいたします。」




別に失礼ではないのだが、高級なところではこのような物言いをすることが多い。霧島調べだが。

そんな感想持ちつつ、「ありがとうございます。」と返事をする




霧島はエントランス前の車止めに車を置き後ろの荷物スペースからご自慢のリモワと結城のトランクを取り出す。




積むときもしかしてと思ったけど、また下ろすときにちらっと見たがひとみのトランクもグローブトロッターだった。

やっぱり裕福なんだなぁ。




私は二つの荷物を係員に渡す。




「とりあえずチェックインの手続きだけしておきたいのですが。」




「かしこまりました。ではご案内させていただきます。」




係員はそう霧島に告げ、案内を始めた。




チェックインカウンターに着くと、




フロントのスタッフによって、宿帳はすでに用意されており、ようこそ霧島様と声をかけられ、またしてもホテルのホスピタリティに感激していた。


案内する際に係員がインカムでフロントに伝えていたようだ。






「高級ホテルのホスピタリティしゅごい…。」






チェックイン手続きをした私たちは荷物を預け、昼時ということもあり食事を兼ね観光に向かった。




2人で先ほど止めたばかりの車を出し、伊豆半島ジオパークに向かった。




「龍宮窟っていうのがあるらしくて、それ行ってみたいんだよね。




「よしそれいこう。」


ひとみは即決で返事を返した。




伊豆半島ジオパークについた2人は、龍宮窟に向かい、大地のハートを鑑賞したり、海の青さに心奪われしばらく呆然としたりしていた。




「ほんとに神秘的な空間だったね…」




「でも夏休みだからか、ちょっと人多かったね。」




2人は笑い合いながら伊豆半島ジオパークを探検した。




そうこうしているうちに18時ごろとなり、2人はホテルに一旦帰ることにした。




ホテルに着くとすでに部屋が用意されており、その部屋を見てひとみが大騒ぎした。


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