第14話 霧島 口説く

私がレクサスを受け取ってから一ヶ月ほどたったある日、毎日せっせと通っている大阪大学法学部ではある話題が持ち上がっていた。




大学の駐車場に、とてもいかつい車が止まっており、なおかつそれが生徒所有のものであるという話題である。






その話を学内の友人から聞いた私は

「やべぇ、十中八九俺の車じゃん」

という感情を押し殺しつつも


「へえー、そうなんだー、ちなみになんて車なん?」

と私は返した。





「なんか、レクサスのでっかい四駆らしい」

おー、なるほどなるほど。

それは私の車ですね。




「そうなんや、めっちゃ高級車やん」




と言いつつ平静を装った。




とにかく、その話を聞いたが、


「どうかバレませんように」

と心の底から祈っていた




講義室で、学生が、


あのレクサス乗ってみたいなー


などと言うのを聞くたびに、そう言うことを言う奴は絶対に乗せないと心に固く誓った。




それからというもの、止めるところは法学部から少し離れた駐車場に車を止めるようになり、学生に、特に知り合いの学生になるべくバレないように自動車通学をするようになった。






「知り合いやら顔見知りにバレて車にいたずらなんかされたらめんどくさいしな」

とポツリとこぼす。





とはいうものの、季節は夏真っ盛りで、溶けるほど暑い大阪の夏。


わざわざ涼しい車で大学に通いつつ、学生にバレることを気にして法学部から離れたところに車を止め、暑い太陽に照らされながら法学部に通うことなど、意志薄弱な私にはできるはずもなく、その計画は早々にリタイアした。




例年通りか、もっと暑いか、毎年感じているような気もするが。

そんな夏、ある計画を練っていた。




サークルにも入ってないし、ましてや部活にも入っていない私だったが、友人と旅行に行きたいなと思っていたのだ。


サークルをやめた一年の冬に彼女と別れ、(むしろ同じサークルにいた彼女と別れた冬に、サークルを辞めたともいう。)そこから半年と少し彼女がいなかった。

しかし、最近になって少し様子が変わっていた。




たまたま同じ授業で隣に座った女子大生(まぁ大学で出会う女の子はみんな基本的には女子大生なのだが。)と仲良くなり、そこから定期的に連絡を取り、良い感じの仲になりつつあったのだ。


その彼女は、名を結城ひとみという。




私は、そのひとみ嬢と旅行に行きたいなと思っていたのだ。




ここで蛇足かもしれないが、「霧島」の容姿について説明しておこう。


一言でいうなら彼の容姿は「普通」である。


取り立てて優れた容姿ではないが、10人が10人好印象を持つような、小ざっぱりとしていて優しそうな顔である。


コミュニケーション上手で、話し上手。物事を少し気にしすぎなきらいがあるが、血液型はO型のためおおらか。しかし、その反面こだわりが強い部分があるが、おおむねのことは許容できないほどではない。といったところの性格で、彼を初対面で嫌いという女性はまずいない。


しかし、本人から女性に対して積極的にアプローチすることはあまりなく、いい友達どまり。彼の周りの女友達たちは少し物足りなく感じているというのが現状である。



「さて、どうしたものかね。ひとみちゃんと旅行に行きたいけど2人だと怪しまれるし、かといって大勢になるのも嫌だし。」

そんなことを考えながら、最近は過ごしている。





私は大勢で何かをするというのが苦手である。


文化祭など大掛かりな行事は苦にならないが、プライベートの時間を大勢で過ごすという行為がどうしても好きになれないのだ。






「しかも旅行に行くってなったら十中八九金のことがバレてしまう…。大学生にもなると、彼氏のことを金で見る奴もちらほら出始めるしなぁ…。」






実は私は前の彼女とは金銭的なトラブルで別れることとなった。


前の彼女はデート代は男が出して当然と言う考え方を持っており、そのことで度々衝突していた。


彼女がクリスマスはディズニーで過ごしたいと言い出したため金銭的な面で言い合いとなり、結果クリスマスを待たずして別れることとなった。






現在の私の総資産は既に200億円を優に越しており、もうすぐ300億に届くといったところで、間違いなく阪大で1番の金持ちであった。




私は、うじうじしていても仕方ないと思い、とりあえずラインしてみよう。と連絡を取る。






霧島『ひとみちゃん今大丈夫?』




ひとみ『お、霧島くん。おつかれ。大丈夫だよ?どしたの?』




霧島『明日ちょっとご飯行かない?美味しそうな和食屋さん見つけたから、どうかなって。』




ひとみ『お!!いいねぇ!! 霧島くんセンスいいからこれは期待大だね!!!』




色好い返事がスタンプと一緒に返ってきて一安心。




霧島『じゃあ、最後の講義が終わったら一緒に行かない?』




ひとみ『OK!!じゃ一緒に授業うけよ!!』



「一緒に○○しよ」という文言に非常に弱い私は

こういうことをナチュラルに言ってくるところがかわいいんだよなぁ

などと思いつつ


霧島『わかった! じゃあまた明日よろしくね!』


と、返事を返すと




ひとみ『はーい!』

と元気いっぱいの返事がひとみから返ってきて大きく安心した。






「とりあえずは一安心だな。」




大学生が持つには大きすぎるお金のことを言うべきか言わぬべきか悩みつつ、とりあえずは車を見せてその反応を見て決めようと結論を出した。






「明日のご飯楽しみだな。どこ行くか決めとかないと…。」




と考えながらその日の授業をこなしていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る