第117話



今日は久々に学校に行く日だ。


卒業に必要な単位をほとんど取り終えてからはゼミのある日しか学校には行っていない。




「じゃあ行ってきまーす。」




「はい、いってらっしゃい。」




ひとみの作った朝ごはんを食べて、ひとみに見送られながら家を出る。


とても贅沢な気分で家を出る。




本日のコーディネートはアルマーニのパンツにジルサンダーのTシャツ。


靴はニューバランスM1500。


日差しがまだまだきついのでトムブラウンのサングラスをかけている。


バッグはバーキンのエトゥープ色で、モナコで買ったものだ。


サイズが大きいので非常に重宝している。


そのバッグの中にsurfaceと財布とiPadと、ごちゃっとしたものはリモワの小さいケースに入れて、入っている。




便利と思って買ったiPadだが、最近はもはや書類を見るだけの板と化している。




今日の車はアストンマーチンヴァルキリーだ。


この車は非常にうるさいが今日はその気分なので仕方がない。


それに、清水も最近はフェラーリやブガッティ、ケーニグセグで学校に来ているので、今更自分だけ優等生ぶってレクサスで行くのもめんどくさい。


どうせ清水もいるので、目立つことは少ない、と思う。






ヴァルキリーの爆音を響かせながら阪大に入構する。


学生たちは驚いている。




「あれ、思ったより目立ってる?」




心の中で、それはそうかと思いながらいつもの定位置に車を止める。


隣にはやはり清水の車がある。


今日はフェラーリF8トリビュートで来たようだ。


真っ赤な目を惹く車体に、スパルタンな車内。


やはりかっこいい。


自分が買っても良かったかもしれない。






そんなことを思いながらゼミが行われる教室に向かう。






あきらは国際私法ゼミに入っている。


ゼミ回りをした時になんとなく教授と馬が合いそうで、なおかつ実務的に役に立ちそうだと思ったからだ。


最近はもっぱら週一か2週間に一回しか会ってないが。




卒論のテーマは株取引についてで、タイトルは


国際的な企業買収における問題点とその考察。


である。


今日はその進捗具合の報告にやってきた。






「お疲れ様です、霧島です。」




「はいどうぞ。」




担当教官の待つ教室に入ると他のメンバーめ既にそろっていた。






「じゃあちょっと早いけど始めようか。




担当教官の一言で少し前倒しにされてゼミが始まる。








結論から言うと、あきらの卒論の進み具合はやっと完成が見えたくらいだが、時期を考えると非常に早い。


他のメンバーはやっとテーマが決まったところという者もいる。


進み具合と完成度の高さに教官もニンマリだった。




ゼミが終わると他のゼミメンバーに話しかけられる。






「ねぇ、霧島くん、このあと暇?」




名前が出てこないがゼミメンバーの女の子だ。


確かリーダーだったかな?




「いや、暇じゃないけど何?」




「このあと勉強会するんだけどこない?」




「何の勉強会?」




「ゼミの!」




「ふーん、まぁいいけど。


どこでやるの?」




「とりあえず近くのカフェとか?」




「歩くのめんどくさいな。」




「車は?」




「うん、いや確かに車だけど。」


確かに車だけど、お前は載せたくないという一言を理性で止めた自分は偉いと思う。


「霧島くんの車乗ってみたいなー、なんて。」


何言ってんだこいつは。


自分の車なんて、相当親しくないと載せたくないのに、なんで名前も覚えてないようなやつを載せなければならないのか、甚だ疑問である。




確かにこいつの顔立ちが整っていることは認めよう。


しかし、毎日ひとみの顔を見て幸せな気分になっている自分からすれば何の感動も湧かない。


そもそも妻がいる自分の車に乗りたがるのが信じられない。


そこまで思ったところで、大学内では自分が結婚している情報が回ってないことに気づく。




確かに左手薬指には指輪をしているが、大学生で彼女とそんなことをしているやつは珍しくない。


自分の結婚指輪をそう言う風に見られてのはいささか腹がたつが、向こうも悪気はないのだろう。




しかし、だとしても彼女持ちの自分にアピールしてくるのはいかがなものだろうか。


実際は彼女ではなく妻だが。






「嫌だよ。なんで乗せないといけないの。


俺の車の助手席は奥さんだけのものだから。」




「えっ、奥さん?」




「言ってなかったっけ?


結婚したよ。」






「えっ、えっ?」




「しかも結構前。」




「なんで言ってくれなかったの?」




「いや、なんで言う必要があるの?」




「私と霧島くんの仲じゃない。」




「申し訳ないけど、名前も覚えてないから。


ごめんね。


なんか最近そう言う人が多くてさ。」




なんかリーダーはショックを受けているみたいだったが、放置することにした。






ゼミが終わったので車に向かっていると清水がいた。






「お、あきら。」




「お、清水。」




「お前ゼミの女の子になんかしたろ。」




「なんで知ってんだよ。」




「さっきお前のゼミの前通った。」




「なるほど。」




「でもね、それが正解。」




「え?」




「あの子俺のとこにも来たよ。」




「あ、やっぱり?」




「就活やりたくないのかなんなのかわかんないけど気づいたらなんかアピール聞かされてて、私を雇え的な。」




「やっぱ、それなりに頭いい大学だと変わった人多いよな。」




「俺たちとかな。」




「うん、俺たちとかな。」




「そういえば博多弁どこいったお前。」




「なんか最近いろんな人と話してたら忘れちゃった。」




「そんなことってある?」




「でも時々気が緩んでると出るよ。」




「なるほどな。」




そんな他愛もない話をしていると駐車場に着いた。




普段学生があまり来ないところに止めているので、人だかりができているということもなく、スムーズに清水と別れ、帰宅する。






「ただいまー。」




「おかえり!お疲れ様!」




「せっかくだしどっか遊びに行く?」




「行く行く!」






そうして2人がやってきたのはロールスロイス大阪本町。




「えっ?」




「ここ。」




「ここカフェでもなんでもないよ?」




「ちょっと取りに来たものがあってね。」




「なるほど?」


ロールスロイス大阪本町は家から歩いていけるので、歩いてきた。






「お待ちしておりました、霧島様。」




「お久しぶりです。竹中さん。


できてますか?」




「もちろんでございます。」




そこで簡単に書類にサインや手続きをして鍵を受け取った。




「え、ロールスロイス買ったの?」




「うん、買った。」




「なんで!?」




「ひとみの送迎用。」




「一瞬頭くらっとしたわ。駐車場なくない!?車庫証明は?」




「帝塚山で取った。帝塚山ももうすぐ完成だしね!」




「なるほど…。」




車種はロールスロイスファントム エクステンデッドホイールベース。


何ヶ月か前からオーダーしていたもので、ボディカラーはひとみが好きな花紺パール。


アウディR8よりも明るめの青だ。




「前々からセダン買ってもいいなとは思ってたしね。」




「まぁそうだけど。高かったでしょ?」




「そうでもないよ。その他諸々含めて8000万くらい。」




「あなたの車よりは安いわね。」




「まぁあれはね…。」




「でも嬉しい、ありがとう!」




「俺が暇な時はこれで送るね。」




「私も車好きだから時々はこれで送ってあげるね。」




「ありがとう。」






ロールスロイスを納車してもらったのでせっかくなのでドライブをする。






「ちょっと帝塚山行ってみようか。」




「賛成!」




帝塚山の邸宅は小高い丘の上にあり、景色も素晴らしい。


外装は建築事務所の人と話し合っていい感じのヨーロッパ調でまとめてもらった。


駐車場はかなり大きめのものを地下に作ってもらい、ガレージ兼倉庫として使う予定だ。




車を走らせること数十分。






「おー!できてるできてる!」




「わー!かわいい!素敵!」




外観は予定通りで、ヨーロッパのマルタ島を思い起こさせるような飴色のタイルが目を惹く。


そして植木などもすでに運び込まれており、良い雰囲気を醸している。




工事の進捗状況は逐一気明かされており、それによると、内外装ともに完成とのこと。


あとは家具の搬入待ちらしい。






門をくぐり抜けちょっとしたロータリーを経由するとそのまま地下駐車場に入る。ホテルのようだが、この構造はあきらが譲りたくなかった点だ。




「やっぱこれいいな。」




「言われてた時はよくわかんなかったけど確かにいいね。」




地下に車を止めて、地下の玄関から中に入る。




地下はガレージの他には物置しかないが、そこもいちいち作りの良さが伺える。


階段を上ると、地上玄関に出る。




大きな靴箱と、姿見、そして大きな一面窓ガラスからは庭が見える。




「「おぉ…!」」


2人の感嘆の声がハモった。






あらかじめ出されていたスリッパに履き替えて玄関からダイニングルームへと向かう。




広いリビングダイニングは、お洒落な家具と照明で構成されていた。


ひとみが望んでやまなかった大きなペニンシュラキッチンもおしゃれにまとまっている。




以前になんでアイランドじゃないの?と聞いたら


これだから素人は…みたいな目で見られたのがなつかしい。




アイランドは汚れや匂いがきになるらしい。




広いリビングダイニングには大きな窓があり、天井も高い。


今はまだ使うことがないが、床暖房も入れてある。




庭の植栽はまだ馴染んでいないと言うもののすでに風格があり、外から家の中は見えず、かつ広く見えるという当初の要望をきっちり果たしてくれている。






「最高かよ。」




「最高だね。」




風呂場は二階で、やはりこちらも広い。


最新式の設備を入れてあるので使うのが楽しみだ。




ベッドルームも申し分ない広さで、キングサイズのベッドが無理なく2つ入るくらいの広さだ。


ちょうど朝日が昇る方向に大きな窓を開けており、朝日で目がさめると言う理想のシチュエーションを果たせる。






他にも数部屋あるがゲストルームはだいたい似たような感じだった。




「完成楽しみだね。」




「うん、楽しみ!!」




そのあとはロールスロイスでマンションに帰り、ひとみに最近運転してなかったアポロieを運転してもらってロールスロイスと二台で帝塚山に向かい、ieを帝塚山に置いてきた。




もともとieがあったところには今はロールスロイスが置いてある。


ieは正直飾って楽しむ車のような気がする。






そのあとは家でひとみの手料理を食べて一緒に寝た。

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