第93話 父 焦る。
side父 幸隆
あきらから渡された紙を見て驚いた。
まさか息子がこんなことをしているなんて。
発起人は我が息子、霧島あきら。
そして、「南の島買収プロジェクト」と銘打たれた計画の出資者と合弁企業の役員がえらいことになっている。
結城の親分
結城幸長
日本の不動産王
中村義秀
九州財界のドン
清水
「おま、まさか、ひとみちゃんて。」
「うん、幸長さんの一人娘のひとみちゃん。」
「お前明日すぐ芦屋行くぞ。」
「え、なんで?」
「ちゃんと挨拶したんか?」
「結婚の報告はまだやけど、おつきあいの挨拶はしたよ。」
「じゃあどっちにしてもすぐ行かんとだめやな。
相手さんの都合聞いてすぐセッティングして。」
「わかった。」
私の代で結城家と親戚づきあいが始まるとは夢にも思っていなかった。
うちの爺さんは結城家とも繋がりがあったらしいがそれも戦前戦中の頃の話。
爺さんが戦死して、戦後のごちゃごちゃで付き合いは薄れ、家長として親父は頑張ったが、人付き合いまでは手が回るはずもなく、どんどんうちは没落していったのだが、そんなうちがまた復活するとは。
中村義秀なんていうのも昔からよく聞く名前だ。
ビル開発や宅地開発の日本最大手不動産デベロッパーをグループ企業に持つ都市開発グループの総帥。
結城の親分が可愛がってたらしく、親分は中村さんとこの大株主らしい。
清水なんて、清水王国の清水だ。
九州で清水と揉めたら生きていけないとかいう噂もある。
あくまでも噂に過ぎないが、清水家は九州を独立国にしようとしてるとか。
今日は眠れないかもしれない………。
〜〜〜〜〜〜〜〜
料理が完成したところでみんなが大広間に集まった。
美味しそうな料理が所狭しと並んでいる。
今は春なので、伊勢海老、アイナメ、あさり、カンパチ、鱚、金目鯛、鰹、車海老、蛸、ツブ貝、鱧、蛤などなどとても豪勢なことになっている。
野菜はよくわからん。
肉料理もなんかすごい。
あとはお祝いなので霧島家の定番。四斗樽。
樽に巻いてある菰には霧島家の家紋が書いてあり、最近は特注で菰を作ってもらっているらしい。
この日ももちろん、しこたま飲み明かした。
三つ目の四斗樽が出てきたあたりまでは記憶があるが、そのあたりからもう意識はない。
起きると車の中だった。
ひとみの膝の上で横になっている。
「あきらくんおはよう。」
「え、ああ。おはよう。」
「あれ?え?なんで?
しかもちゃんとスーツ着てる。」
「朝起こしたら自分でちゃんとお風呂はいってスーツに着替えてたよ。」
「え?あ、そうか。」
なんとなくおぼろげながら記憶がある。
眠りからまだ目が覚めていないのをこらえながら風呂に入り、スーツを着て、
その時初めて、今日はひとみの実家に挨拶に行くことを、ひとみに伝えたのだった。
なお、その際に幸長さんとあやめさんにはすでに連絡していることもひとみに言うと、なぜか私の実家なのにあきらくんの方が可愛がられてる気がする、と釈然としない様子だったことまでは思い出した。
「で車乗った途端私の膝の上で寝始めたのよ。」
「あぁ。あ、これうちの車か。」
そう、今ひとみとあきらそして運転する母ひろみと助手席で寝ている父幸隆が乗る車はメルセデスベンツS65AMGロング。
4座席仕様ではなく、5人乗り仕様なため後部座席の二席を仕切るコンソールボックスは収納できる。そのためあきらは横になることができたのだ。
「もうすぐつくよ。」
「あぁほんとだ。」
「なんか緊張するな。」
「父さんいつの間に起きたん。」
「さっき。」
結城家での段取りはまず先にあきらがひとみのご両親に挨拶する。
その間両親は車で待機し、あきらが連絡してから顔合わせとなる。
「お、検問か?」
助手席に座る父が疑問を持つ。
「あ、違う違う、結城家の敷地に入るから門があるのよ」
「やっば・・・」
予想通り、門で警備員に車を止められる。
「おすおす。」
「あ~あきらやん、車買ったん?」
「これ実家のよ。」
「なるほどね。じゃ進んで。」
「はいよ~。」
特に入門書類を書くこともなく顔パスで進もうとした。
紛争地帯のような見た目をした検問を顔パスしたことにひとみが待ったをかけた。
「いや、あきらくんちょっと待って。
なんで顔パス効くの?私でさえ身分証の提示求められるんだけど?
ねえ、警備員さんも目をそらさないで?
いや解散しないで?
ねぇ!
仕事仕事!とかいいから!」
「ひとみ?しずかに。田舎者だと思われちゃうから。ね?」
「ここは私の実家の敷地内だぁ〜〜!!!!」
一行はつつがなく御殿に到着した。
「じゃあ俺たちは待ってるから。」
「了解」
「お義父様、お義母様、行ってまいります。」
ひとみがにこやかな笑顔で両親に告げる。
「「キュン」」
両親の胸が高鳴る音が聞こえた気がする。
勝手知ったる嫁の家という様子で幸長さんとあやめさんが待つリビングに向かう。
もはや家族的な扱いを受けているので大広間ではなくリビングに直行だ。
「あらあきらちゃんお帰り。」
「おうあきら、待ってたぞ。まぁ座れ。」
「義母さん義父さんただいま帰りました。」
「うちの旦那が私の実家に馴染み過ぎな感について。」
「今日は折り入ってお話が。」
あきらのただならぬ様子を見て2人はニヤッと笑った。
「聞こうか。」
「あきらちゃん聞かせてちょうだい。」
「この度は、ひとみさんと結婚のお許しを頂きたく参上いたしました。」
「ほう。」
「あらぁ。」
「どうかお許しをいただけないでしょうか。」
あきらは三つ指ついて頭を下げる。
こんな突然挨拶って始まるものなの!?と思いつつ、ひとみもあきらに倣って頭を下げる。
「まぁ今更だよな。あきらも週一か週二くらいでうち来てるし。」義父が言う。
「えっ。」
ひとみは初耳だったようだ。
「うちのフイユモルトも競馬に出るみたいだし。」義母が言う。
「えっえっ。」
「何より、うちの娘のことをそんなに想ってくれている男になんの文句があるだろうか。」
「いや無い。」
義母と義父のコンビネーションが炸裂した。
「ありがとうございます。」
「これからも末長く頼むよ。」
「はい。今日はうちの両親も呼んでいるんですが、あっていただいてもよろしいですか?」
「馬鹿野郎てめぇ早く言え!!!どこで待ってるんだ!!!!」
「車で。」
「おい迎えに行くぞ!」
「急ぐわよ!」
義父と義母は急いでうちの両親を迎えに行き、リビングまで連れてきて顔合わせとなった。
「申し訳ありません愚息がお手間おかけしまして。」
「いえいえとんでもない。あきらくんは非常にウチにもよくしてくれますよ。
自慢の息子さんじゃないですか。」
おきまりの互いの娘息子を褒めあうやりとりをして、話は昔の付き合いがあった時の話になった。
「そう言えば、結城家さんとはうちの祖父が付き合いがあったようで…。
長らく疎遠になっており申し訳ありませんでした。」
「そうなんですねぇ。ちなみにお祖父様のお名前はなんと?」
「
「まさか!」
たいそう驚いた様子の幸長さん。
「と、いいますと?」
「昔陸軍のなかに霧島連隊というのがありましてね。」
「霧島連隊。」
「実際に何かの旅団とか隊があったわけではないんですけど、霧島さんという方のもとに集まって、自然にできたグループ名みたいなもんです。」
「ほう。」
これは初耳だったが、そういえばなんか爺さんの遺品とかで霧島連隊って書いてある懐中時計とか見たことあった気がする。
「それで、うちの祖父がそのグループにいまして。
存命の時は戦中に陸軍で可愛がってもらった先輩がいたとよく聞きました。
連隊長はいろんな遊びを教えてくれて、酒や飯をご馳走になったが、いよいよ恩返しする間も無く、どこに行くにも連れて行ってくれた自分を残して先に逝ってしまわれた。それだけが心残りだ。と。」
「そんな…!それが、うちの…?」
「色々と手を尽くして探したようなんですが、時代が時代ということもあり、名前だけしかわからなかったようで。
私が幸長という名前なのも幸嗣さんの幸の字をいただいたそうです。」
なんということだ。
家どうしで受け取り方も違うことに、少しだけ衝撃を受けた。
霧島家は、没落していったため、結城の親分を知りつつも疎遠に。
結城家は、隆盛を極め、うちの爺さんと交流をひいては霧島家に手を差し伸べようとしてくれたが戦後の混乱や動乱でそれどころではなく、霧島家とうちの爺さん、霧島幸三を紐づけることさえできなかった。
戦争という状況下でいろんなことが曖昧になってしまっていたのかもしれない。
出自も家門も関係ない、人間どうしの付き合いがそこにはあったのだろう。
「私もですよ。幸隆という名前も爺さんの名前から…。」
「これはもうご先祖のお導きのような…!」
「運命ですかね…。」
「そうに違いない!」
結城家と霧島家の繋がりはとても深かった。
まさかだった。
あきらとひとみも顔を見合わせて驚いている。
「今日は再び両家の絆が復活したことですから、お祝いですな!!」
「もちろん!盛大に祝いましょう!!!」
このあとめちゃくちゃ宴会した。
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