第92話 霧島 挨拶する。

『もしもし?俺だけど。俺俺。』




『うちに詐欺師みたいな息子はいません。』




『ひとみちゃんと結婚しようとおもうんです。』




『あらぁ。』




『つきましては一回家に連れて行こうかなと。』




『いつでも大丈夫よ、今日でもいいくらい。』




『いや今日はいかんけど。』






そんなやりとりが私の実家と私の間であった後、ひとみはあきらの実家にサプライズでつれていかれることとなった。






「今日はちょっと遠出するよ。」



「どこいくの?」



「ちょっと遠目のいいところ。服装はなんでもいいけど、真面目そうな服装だといいかも。」



「真面目そうな…?そりゃまた珍しい注文だね。」



「まぁまぁ気にせず気にせず。好きな格好でいいよ。」



「???わかった。」




2人がレクサスに乗って数時間。


ひとみはドライブ気分で上機嫌だった。




「はい、次で高速降りまーす。」




「おー!ちなみに最終目的地はまだ教えてくれないんですか?」




「まだでーす!」




「ここまでくるともうどうにでもなれって思うね。」




「諦めの境地!」




しばらく車を走らせると。


「ねぇ、あきらくん!


すっごい広いお家があるよ!日本庭園がすごい!昔のお殿様の家かな?」




「 (うちの実家です※まだまだ増築中)すごいなぁ!行ってみるか!」




「うん!」




さらに車を走らせて門のところに突き当たる。


「あれ?門から車入れるの?」


今日行くことを実家にメールしたところ家の駐車場の止め方が年始の頃と異なるため入場手順なるものが送られてきた。


そのため迷うようなことはなく、スムーズに駐車場に向かう




「そうみたいだよ?」




「あれあれ?もしかしてここ民家?」




なんとなく歴史資料館などとは違う雰囲気を感じ取ったのだろう。


普通、歴史資料館にフェラーリやらベンツ、アウディは止まっていない。




「そうだよ。降りる時横気をつけてね。」


あきらはベンツとフェラーリの間の空いたスペースに真っ白のレクサスをとめる。




「え?いいの?」




「うん、ここうちの実家だから。」




「!?」




「サプラァーイズ」




「ちょっともう勘弁してくださいよぉ〜。」




「自然体でいて欲しかったからね。」




「いやいやいやいや!ねぇ!」




「だってさぁ、緊張して気合い入れて、ひとみ頑張りすぎて取り繕っちゃったら多分辛いでしょ。」




「うん、たぶん。でも頑張るよ!!」




「いや頑張って欲しくないのよ。」




「え?」




「ぐずぐずになる程甘えさせ倒したい。


もう俺なしでは生きられないくらいにもうぐずぐずになるくらい。」




「もうなってるよ…。」




赤面する2人。




「ま、まぁとにかくね!自然体でいて欲しくて!」

無理やり話しの軌道修正を図る。

あぶねぇあぶねぇ、ここ実家だぞ。



「そ、そっかぁー!!」




「だから結婚の挨拶ということで。」




「いきなり現地でそれを聞くのは胃に悪いよね。」




「あと、近々にひとみの実家もいくからね。」




「結婚の挨拶に?」




「うん。煮るなり焼くなり好きにせぇよとは言われたけど、筋は通さんと。」




「なるほど。」




玄関扉を鍵で開ける。




「帰ったよーーー!!!!!」


どたどたどたという足音ととともに父母が出てくる。




「おぉ、ようこそひとみさん。ぜひ中へ。」




「よくきたわね。さぁさぁ中へ。」


両親も緊張しているのだろう。

なんとなく固い。




「は、はひ!」


ひとみはもうガチガチだ。




たぶんこの家はもう自分の生まれ育った部屋以外は全く違う家というほど増改築が進められている。


道案内がなければリビングにもたどり着けない。


正に城のような実家となっていた。




私の部屋はもともと二階の端っこあった。


しかしなぜか今は二階の真ん中にある。


もともとは二階建てだったのだが、今は6階建てになっている。耐震性は大丈夫だろうか。


今は地階もできているらしい。

両親とも車の運転が好きなため車がさらに増えることも見越して、母屋とは違う場所に地下駐車場を作り地下室とつなげる計画も進行中とのこと。






リビングで母がお茶を入れてくれ、父とひとみはなぜか正座。


自分だけはあぐらをかいている。




「粗茶ですが…。」




「いやこの度はうちの愚息と…。」




「いえいえとんでもない…。」




なんか難しそうな話がたくさん出ているので庭の木々を見つめることにする。






「そういえばあきら、式はどうするんだ。」




「一応卒業までにはあげようと思う。」




「じゃあ学生結婚になるのね。」


学生結婚という響きに隠しきれない目の輝きを放つ母。




「学生身分で結婚っていうのもどうかと思ったけど、よくよく考えたら働いてるし税金も納めてるしいいかなと。」




「まぁそうだな。お家再興も成りつつあるし。何がどうなろうと問題ないだろうしな。」




「式は一応2人で決めていこうと思う。」




「よし、わかった。2人は晩飯も食べていくだろ?」




「そのつもり。ひとみも大丈夫?」




「はい、お願いいたします。」




「あ、ひとみはお酒得意じゃないから。アレルギーだからそこだけ。」




「すいません。飲んだらすぐ倒れるっていうわけでもないんですが、得意じゃなくて。コップ半分くらいなら大丈夫なんですが……。」




「大丈夫よ、ひとみちゃん。


うちは男衆は大酒飲みばっかりだけど女衆は飲まない人の方が多いから。


だからあきらも女性がお酒を飲むことに抵抗があるみたいでね。見慣れてないから。子供でしょ?」




思わぬところで流れ弾が飛んできて苦虫を噛み潰したような顔をするあきら。


「悪かったな、子供で。」




「よかった。私気を使われてるのかと思いました。私は飲まないけどほんとは一緒に飲んで欲しいのかなって。」




「そんなことあるわけないわ。この子わがままだから。」




「そうだよひとみちゃん。こいつに気を使う必要なんてこれっぽっちもないからな。


この実家でも気なんか使わないでくれよ?


ほんとの実家みたいにくつろいでくれてていいんだからな?」




「ありがとうございます。」




「よし、じゃあ今日は宴会だ!母さん!集合かけてくれ!」




「もう続々集まってますよ。」




「気の早い連中だ…。」




どたどたと、玄関方向からたくさんの足音が聞こえる。




「おうあきら!結婚だって?」


「すげえ美人な嫁さんだ!」


「うちの嫁さんと交換しt…あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!」


「大丈夫か雄次ィ!!!!!」


「雄次が泡吹いてるぞぉ!!」




そこからは阿鼻叫喚だった。


霧島当主の結婚の報告なんて、昔でいう大名の輿入れみたいなものだ。




大騒ぎする男衆を冷ややかな目で見つめつつ、女衆はあきらのもとにやってきて根掘り葉掘り聞き倒す。


あきらも自重せず惚気倒す。女衆は、さらに盛り上がる。




そうこうしているうちに我が家の料飲部長重弘おじさんが食材や酒を持ってきた。




「うちのエース料理人が伸びとるやんけ。起きろ。」




重弘おじさんは台所でやかんに水を汲んできて雄次兄さんにぶっかけた。




「…うぉっ!!!」




「ほら。起きろボケナス。当主の嫁さん来とるのに恥晒す気か。」




一見厳しい対応にも見えるが、重弘おじさんなりの優しさである。


まだ霧島家のことがよくわかっていないひとみに、雄次兄さんのわかりづらいボケは荷が重い。




「すんません。じゃあ料理作らしてもらいます。」




「あ、私手伝います!」




「じゃあひとみちゃんは私と。」


母ひろみがひとみとご飯を作ってくれるようだ。




「じゃあ俺は大皿料理作ろうかな。」


雄次兄さんはみんなで摘める大皿料理を作ってくれるらしい。




「じゃあ私たちもなんか適当に作りましょうか。」


他の女性陣も何かしら作ってくれるらしい。






あきらと他の男衆は暇になってしまったのでこれからの計画を話すことにした。




「父さん、式のことについてちょっと。」




「おう、どうした。」




「海外であげようと思うんだよね。」




「おぉそうか。じゃああの長い儀式はパスするか?」




「できんの?」




「俺もやってないからいいだろ別に。」




「やってないんかい。いや、いいよ、式あげた後戻ってきた時にやるよ。」




「おう。わかった。で?どこであげるの?」




「南の島を買おうと。」




「……?は?」




「いや、買おうと思って。計画はもう進んでる。」




「相手の親御さんは?」




「そんな面白そうな話に噛まないわけがないって。」




「そりゃうちも噛むけど。」




「結婚式に使った後はリゾートアイランドとして活用しようと思ってるから大丈夫。


元は取れると思うよ。噛む?」




「うん、噛まないと親としてねぇ。」




「了解。今回は島の開発から進めてるからだいぶ値段かかるけどいいよね。」




「まぁ御祝儀だな。好きにやれ。元はお前が稼いだ金だ。」




「よっしゃ。じゃあ合弁企業設立するから。」



「なんか大掛かりになってきたなぁ。ちなみに誰が噛むんだ?」



「一応メンバーはこうなってる。」

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