第58話

「君が僕と同じスコアの霧島くんだね?




僕は立命館大学ゴルフ部の主将を務めている、剣崎と言います。よろしく。」




「あ、どうも。阪大二回生の霧島です。」




二回生と私が言った時、周りがすこしざわついた。


剣崎は四年生で有名ゴルフ部の主将であるため、関西のアマゴルフ界ではなかなかに名前が知られている。


しかし、私のことを知っている人はこのとき誰もおらず、何者だろうかとみんな考えていたからだ。




「見たところ、君だけ専属のキャディについてもらっているようだが?」




「あぁ、今年から個人キャディOKになったみたいですよ。


スポンサーの意向で」




そう、今大会からひとみの父がメインスポンサーになったため、ルール改訂が行われ、個人キャディをつけることが許可されたのだ。


スポンサーとして相当の金を積んだらしい。

金持ちはやることがめちゃくちゃだ。




「まぁ、それは知っているが…。




私はこれまで何度かいろんな大会に出場したが、君とは初めて会うよね?


私と同じレベルの選手なら名前くらいは印象に残っていると思うのだが…?」




「あぁ、本格的に練習し始めたのは半年前くらいなんで。」




「はぁ?半年…??半年で俺と同じスコア…??




ふざけんなよ!!!」




「とは言いましても事実ですし…」




「はぁ……。




もういい。君がその気ならこっちも本気でかかる。


霧島くん、期待しているよ。」




剣崎はそう言って去って行った。




「彼なんて?」


ブラックベター氏は日本語がほとんどわからないので、ニヤニヤしながら見守っていただけだった。




ブラックベター氏にことのあらましを説明する。




「なんだ簡単な話じゃないか。




霧島くんが彼をコテンパンにぶちのめしてやればいいのさ!!」




それを聞いておじいちゃんになってもなお、めちゃくちゃ好戦的なブラックベター氏に頭が痛くなるのを感じた。


「まぁそういうとは思ってたよ。


よろしく頼みます、凄腕コーチ。」




午後のプレーが再開された。


私の組は午前中に前半9ホールを回っていたため、午後は後半9ホールをプレーする。




ちなみに真っ直ぐで全長600ヤード超の16番ホールにはドラコン賞が設定されており、全参加者の中で第一打を一番飛ばした人に賞金がもらえる。




食事をして勘が鈍っていると感じたので10番、11番では勝負をせずに手堅く規定打数通りで上がりパー (±0)を獲得した。




調子を取り戻して万全の体制で臨む16番ホール。

いつもより少し入念に体をほぐし、ドライバーを掴む。

ここまで圧倒的に飛ばし屋らしく振舞ってきたこともあり、周りのみんなも期待のまなざしで見守る。




他のメンバーは250から280ヤード飛ばしており、これは会社などで行われる普通のゴルフコンペでは楽々ドラコン賞を狙えるレベルの飛距離である。

さすが競技ゴルフに出るだけある。






霧島は渾身の力を込めドライバーを振るう。

いい具合に風も追い風。

ここしかない。




とんでもない爆音でボールを強打したら、ロケットのような勢いでボールが飛んだ。

ぶれることもなくまっすぐにとんだ。

周りからはどよめきが上がる。




「340yってとこだね。自己ベスト更新おめでとう!」




ブラックベター氏が褒める。


周りのメンバーもそれを聞いてどよめき、私を褒める。

ぜひあの立命館に勝ってくれと声もかけられた。

ちなみに340ヤードの飛距離は、アメリカのトップ選手くらい飛んでる。



ドラコンホールも終え、プレッシャーから完全に解き放たれたが、調子を崩すことなく、後半のホールを無事に回り終え、トータル7アンダーの65というかなりの好スコアでフィニッシュした。




「この成績が安定して出せるようになるとプロゴルファーになれるよ。」


ブラックベター氏は1日の講評をそう締めくくった。

そう、プロはこれくらい安定して出すのだ。

私みたいに調子が良くて65ではない。

いつも大体65前後なのだ。プレッシャーがあろうが、天気が悪かろうが大きくは崩さない。



「こんなスコアを出せたのもブラックベター氏のおかげです。


ありがとうございました。」




「前から言おうと思ってたんだけど、ブラックベター氏なんて呼び名はよしてくれよ。


デビッドと呼んでくれ。




またいつでも呼んでくれ!」




「ありがとうございますデビッドさん!」




スコアを提出し終わったら、あとはコンペ室と呼ばれる会議室で結果発表を待つのみとなった。




「霧島くん。お疲れさま。結果発表が楽しみだね。」




「そっすね。」




剣崎がめんどくさく絡んできたので、特に取り合うこともなくスルーする。




そしていよいよ、結果発表。


大会実行委員長が、コンペ室に入ってきた。




委員長が普通の挨拶をしながら結果発表が始まる。




まずはドラコン賞から発表。


霧島は340.6ヤードでぶっちぎりの優勝。


剣崎は306ヤードだった。

界隈では飛ばし屋としてちやほやされていたのだろう剣崎の歯ぎしりが聞こえる。




ニアピン賞も安定の優勝。


ピンそば3cmであわやホールインワンの記録に勝つとなればそれはもうホールインワンを出すしかない。




そして本戦の結果発表。


10位から順に発表され、上位2人を残して私と剣崎の一騎討ちとなった。




「2位、前半32、後半34、トータル66、6アンダー、剣崎悟。」




おぉー、という声と拍手が送られる。


剣崎は悔しそうにこちらを睨みつける。




「1位、前半32、後半33、トータル65、7アンダー、霧島あきら。」




おぉー!というどよめきが上がり、先ほどよりもさらに大きな拍手に包まれた。




私は実行委員長から優勝者の証としてジャケットを着せてもらい、優勝カップを手渡された。




優勝者から一言ということでスピーチを任される。






「あー、本日は優勝に加えドラコン、ニアピンも取ることができてとても嬉しく思います。


まだゴルフ歴は浅いですが、これからも努力を忘れず、精進していきたいと思います。」




当たり障りのないスピーチを披露し、その場が御開きとなったところで、ひとみとエマと合流する。




2人を見れば100人が100人美人と評するであろう2人を、道行くゴルファーたちはチラチラ見ながら通り過ぎて行く。


そこに私とデビッドがやってきた。


ひとみは私を見るなり駆け寄ってきて抱きついた




「すごかったよ、あきらくん!!!!




ニアピンの時とかほんと入るかと思った!!!」

地元のケーブルテレビ局が中継に来ているのでクラブハウスでその様子が見れたのだろう。




「ありがとう、ひとみに応援してもらってたから元気でたよ。」




2人が誰も邪魔できないような空間を作り出しているとこちらの方をすごい表情で睨みつけている男がいた。剣崎である。




剣崎が私の方に近寄ってくる。


そのことに気づいたひとみは私から離れる。




「女連れでいいご身分だな、霧島。」




「別にいいだろ。というかお前には関係ない。」




「くっ…!」




「そもそもあきらくんに負けた男の嫉妬なんか見苦しくて見てらんないね。




あきらくんがくる前ずっとこっち見てたでしょ?


声もかけられないんだったらそういうのやめてくれる?怖い。」




「ひとみ容赦ねえな…もっとやれ」と思いつつ剣崎に言う。




「じゃ、そう言うことだから。




またいつか会うことがあれば声でもかけて。」




「待て!」




「OK!で?なに?」



「えっ、あっ」



「先考えとけよ。」

待てと言われて待つ人もいる。



こんどこそ剣崎を振り切って4人で車に帰る。






「お疲れでしょうから車は私が運転します。」




「助かるよ。エマ。」




エマの運転で4人はホテルに帰る。


ホテルに着くと、今日は選手組の私とデビットが疲れているということもあり各自、自由行動となった。




ひとみはエマと一緒にひとみの実家に帰って一晩過ごすらしい。

仲良くなってくれて喜ばしい。




あると便利だろうと思ったので、ひとみとエマに車の鍵を貸してあげた。




霧島がシャワーを浴びたあとゆっくりしていると、部屋にブラックベター氏がやってきた。




「あきら、ちょっと飲みに行かないか?」




「いいですね!どんなとこがいいですか?」




「日本には女の子が接客してくれるお店があると聞く。」




「わかりました!」

英雄色を好むというがデビットもそうらしい。



2人は、鬼の居ぬ間になんとやらとばかりに、タクシーをホテルに呼び、三宮の有名なキャバクラに向かった。




何件も何件もはしごして、2人は浴びるように酒を飲み、男2人で祝勝会がわりにたいそう豪遊した。

そのあとはもちろん福原も行った。

この時二人が神戸の夜の街に落とした現金は500万円とも1000万円とも言われているが詳しいことは定かではない。



なお、その時のことがバレないように現金払いで全て決済した。




翌日昼前に、ひとみの運転で2人はホテルに帰ってきて、そこで霧島とデビットも合流しチェックアウトをしてから、4人で伊丹空港に向かった。




途中高速道路のサービスエリアでおやつやお土産を買い込み、伊丹空港の飛行機に乗るときには大荷物になっていたのはご愛嬌。




4人は無事マカオへと帰っていった。

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