第124話 最終話
side 清水
DAYSホールディングスはそれからも順調に、順調に成長した。
世界に数々のイノベーションをもたらし、人々を幸福に導いた。
中でも宇宙開発分野での功績はめざましく地球の宇宙進出を1000年早めたともいわれています。
私たちが、個人差こそあれ、飢えることなく、平和に、幸せに生きることができているのも彼らのおかげなのです。
テレビでは霧島の追悼番組みたいなことをやってる。
そう、DAYSホールディングス 会長 霧島あきら氏と、その妻で、同社副会長の霧島ひとみ氏は自らの会社の航空宇宙ロケットに乗り、冥王星にある別荘に向かう途中連絡が取れなくなってしまったのだ。
「なんでだよ、霧島ぁ…。」
もう霧島と連絡が取れなくなってから1ヶ月ほど経つ。
すると1通のメールが届いたことをデバイスが知らせる。
なんだこんな時にと思いつつ、デバイスを操作すると立体ホログラムが今座っているソファの前に構成される。
メールアイコンをタッチすると差出人は不明。
しかし、メールを読んでいくうちに涙が溢れ出た。
「霧島ぁ…。」
《清水へ。
きっと今俺がいない世界は大変なことになっていると思う。突然連絡が取れなくなって申し訳ない。
連絡が取れるデバイスをやっと開発できたので、取り急ぎ清水に連絡した。
とりあえず今は無事に生きているということを伝えておく。
ひとみとも仲良くやってます。
それとまたしばらく戻れなさそうなので、DAYSは清水が舵取りしといてくれ。
よろしく。
p.s こちらに呼べるようになったら連絡します。》
そのメールとともに一枚の写真が添付されていた。
そこには明らかに若返っている2人の写真と雄大な自然の風景が収まっていた。
「色々とツッコミどころが多すぎる…。」
手紙を読み終えて思わず口から言葉がこぼれる。
「あきらの野郎自分だけ楽しみやがって!」
「まぁまぁ、りゅーちゃん。あっくんが任せたって言えるのもりゅーちゃんだけなんだから。」
「そりゃあそうだけど」
そういわれるとまんざらでもない顔をしてしまう。
「あっくんが帰ってくるまで、しっかり切り盛りしとこうね。」
「当たり前やん!そうと決まれば緊急人事会議だ!」
「ほいきた。」
いまからどんどん忙しくなるのにそれさえも楽しんで、
俺の隣で楽しそうに笑っている彼女の左手の薬指はキラッと光った。
俺はとりあえずこの文章をマスコミに公開した。マスコミといっても昔みたいなめちゃくちゃなマスコミではない。
というか今の時代はそんなことが許されるような世界ではない。
side 霧島夫妻
「あきらくん送れた?」
「おう、バッチリよ。」
俺たちは冥王星にある自分たちの別荘に行こうとしていたら突然現れたブラックホールに飲み込まれてどこかよくわからないところに飛ばされてしまった。
ということになっている。
実は、この転移、前々から予測していた。
この日、この時間、このスピードで、ここに発生するブラックホールに突入した場合、89%の確率で異世界に転移できるということを特定した。
それに向けて数年前のあの日から準備していたのだ。
卒業して数年がたち、どうやらそこそこの可能性で実現可能らしいということがわかってから、ひとみに打ち明けた。
その時の一言が
「でっけぇことってこれか!」
ほんとは国を興したいと思っていたんだけど、さすがにあの世界で新しく国を興すのは難しく、どうしたものかと考えていたのだが、まさか別の世界があるとは私も予想だにしていなかった。
「まぁそういうことです。」
「行きます!」
ひとみはやっぱすごい女だよ。
そうして私たちは計算通りの軌道でブラックホールに突入し、まんまと異世界に転移を果たした、
そこの植生や気候、その他諸々をスペースシャトルに付けている測定キットで検査した結果、ちゃんと人間が居住可能な惑星に着陸したことが分かった。
そもそも異世界に行くのなんて初めてなので、ありとあらゆる便利グッズは持参している。
さすがにどんな世界があるのかまでは分からなかったのだが、行ってみると
そこはいわゆるファンタジーの世界という世界らしく、途方にくれた。
しかしそこは意外となんとかなるもんで、簡易人工衛星を飛ばして、世界中のあらゆる言語、慣習、法則、ルールを取得。
持参してきていた化け物並みの処理能力を持つCPUに学習させ、即席で新世界に対応した。
我々がこの世界にやってくるときに乗ってきた宇宙船(俺たちの間では宇宙旅行はメジャーだったので普通にクルーザーと呼んでいた。)は上空の宇宙空間で待機させており、人工衛星として運用している。
随時世界中の情報を取得しており、地上で活動する俺とひとみのデバイスに最新情報が送られてくる。
最新技術と魔法や運で異世界の荒波を乗り切り、今はウィザードカンパニーという会社を設立してやっぱり社長をやっている。
元々は自分とひとみの2人で始めた会社だが、今では社員数700万人、売上高は日本円換算で4000兆円を誇る世界最大の会社となった。
人は我々のことをギルドと呼んでいる。
今は社員総出で地球とここをつなぐ方法を考えている。
メールが送れるようになったのは大きな進歩だといっていいだろう。
ひとみと話をしていると、部屋のドアをノックする音が聞こえる。
ちなみにこのドア材は人工世界樹でできており、ノックするととても良い音がなる。
その人工世界樹は我が社のヒット商品でもある。
「どうぞ。」
声をかけると、失礼しますという言葉とともに入室してきたのは秘書室長の吉田くん。猫族だ。
「社長、チグリス王国の国王から会談の申し込みが来ていますがいかがなさいますか。」
「うん?そんなんで経済制裁やめると思ってんのかな?」
チグリス王国では先日弊社社員がチグリス王国の役人に害される事件があったため、昨日経済制裁を開始した。
幸いにして、社員には身代わり社員証を身につけさせているため、殺されても一度だけ会社の医務室に転移できるようになっている。
流れでいうと
害される→医務室に転移する→総務部へ向かう→社員証再発行手続き
→書類の理由欄に身代わり社員証使用の理由を書く
→受理した総務部から取締役全員に転送される
→臨時取締役会議で認可を受けて経済制裁開始
ということだ。
ちなみに身代わり社員証が使用された時点で総務部は情報をキャッチ
書類受理した段階で自動的に臨時取締役会の会議出席依頼が各役員に送信されるため
害されてから最短で2時間で経済制裁が開始される。
昔、一度役員が害されたことがあったが、
その時は経済制裁をすっ飛ばして、10分後に宣戦布告。
30分後には武力制裁が開始され、60分後には王族その他中枢部の制圧。
役員が害された翌週にはその国は更地になっていた。
国民の避難に4日ほどかかってしまったが、その時に我々の会社は「大規模な人数の避難方法」のノウハウを獲得した。
経済制裁の場合、内容としては輸出規制、店舗閉鎖、亡命補助が主な手段だ。
最後の亡命補助に関しては、その国の国民が国を脱出する際に補助するというものだ。
この時にウィザードカンパニーに入社したいという人が結構いる。
そういう場合は更地にして買い取った大規模な土地に教育施設群を建てたのでそちらに移送することになっている。
その教育施設で3年の見習い期間を経て、試験を受けて、合格すれば晴れて正社員になる。
現在われわれと揉めているチグリス王国はその経済制裁によって、国力を大幅に落としている。
敵対する国々から食い尽くされるのも時間の問題だろう。
しかし大きな戦争が起こることはない。
世界中の物資を握っているのは我がウィザードカンパニーだからだ。
昔は頻繁に起こることもあった戦争だが、弊社が世界中の物資と物流を握ってから、戦争をするにもいちいち我が社の許可が必要になった。
出る杭は打たれるというが、目にまとまらぬ速さで飛び抜ければ、出る杭を打つ不届きものを逆に滅多打ちにすることができるようになる。
なぜ、そんなことができるようになったのかって?
それはまた今度。
「おそらくそうかと…。」
「じゃ会談突っぱねていいよ。」
「かしこまりました。」
吉田くんは一礼をして社長室を後にした。
「許さないの?」
ひとみが尋ねる。
「社員は家族だからな。
なめてもらっちゃこまるのよ。」
「たしかに。」
それから数日して、チグリス王国は崩壊し、旧チグリス王城はウィザードカンパニー チグリス支店社屋ビルになった。
「城を手に入れた。」
「さすがに日本でもそれはてにいれたことなかったよね。」
「たしかに。」
「これからもよろしくね。」
「こちらこそ。」
奇しくもその日は結婚記念日だった。
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これまで長きにわたり本作をご愛読くださりまして
ありがとうございます。
もしかしたらお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、
新しく準備しておりました作品は
「放課後のピアニスト」です。
カクヨムでは
「放課後のピアニスト 凝り性のなんでも極める大学生が今度はピアノをやるようです。」
https://kakuyomu.jp/works/16818023212677504363
という名前で連載をしたいと思います。
題材はピアノと音楽になっております。
「豪運」同様毎日更新で、できる限り頑張って更新していきますので
もし、ご興味を持っていただけましたら読んでいただけると幸いです。
豪運 突然金持ちになったんですけど、お金の使い方がよくわかりません。【カクヨムコン9 特別賞受賞!!!】 マリブコーク @bass_band0908
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