第102話
裏に引きこもることをやめた途端に、寄付金をたかる集団が湧いて現れたらしい。
「寄付金かぁ。」
「甘いよね、寄付金だなんて。」
「ゲロ甘だな。」
「悪いことじゃないんだけどね。」
「うん、悪いことじゃない。
だから俺たちはすでに慈善事業団体を持っている。」
「そう。そうなのよ。そういうことなのよね。」
ひとみの相槌三段活用がさく裂した。
個人的に寄付金をお願いしに来られた場合はKYS財団に行ってくださいと案内して終わりである。
KYS財団とは、霧島家、結城家、清水家を主な出資母体とする慈善事業団体である。
そして、一度大きく表に出たことから、営業さんが以前の4倍ほど来るようになった。
特定の何かの営業というわけではない。
たくさんの業種の営業さんたちだ。
マンション、車、土地、その他諸々…。
全くどこから個人情報が漏れたのだろうか。
そして、それを受けて新たに窓口を作ることにした。
もともと俺たちは会社事務所というものを持っておらず、自宅を事務所兼居室としていた。
しかし営業さんからのアポイントメントの電話が増え始めた頃、危機感を覚えたひとみが事務所を別に作りましょうと、提案してくれたのだ。
今は事務所がグランフロント大阪の中にある。
事務所の所長さんはなんとマミちゃん。
なんでも、ひとみとマミちゃんは結婚式の後いろいろあって意気投合したらしい。
「こんな逸材を他社にあげるには勿体なさすぎるよ!!」
とはひとみの談である。
ひとみ曰く、マミちゃんは人のことをすごく見ているらしい。
それでいてニコニコしてて聞き上手。
高校を卒業してからずっと靴屋さんでアルバイトをしていたと聞いたが、その靴屋さんのアルバイトも、本人は普通のバイトという風に話していたが、実際は心斎橋店の店長でありながら西日本統括店長も務めるスーパーアルバイトさんだったらしい。
正社員になってもっと上に上がって欲しいとは会社から何度もお願いされていたが、なんとなく他にもっと輝ける場所がありそうな気がして断っていたらしい。
ひとみがマミちゃんを誘った時に、マミちゃんは即答でやる!と言ったらしい。
あきらくんの会社で働けて幸せって言ってたよってひとみからニヤニヤされた。
正式な窓口ができたことで、変な仕事やめんどくさい営業は全部そこでふるいにかけることができるようになったので楽だ。
マミちゃんをとても厚遇しているひとみは、会社の営業車ということで好きな車を一台プレゼントし、家も会社の近くのマンションをマミちゃんに選んでもらい、借り上げ社宅としてプレゼントした。
マミちゃん囲い込み作戦と黒い笑顔で言っていたのは聞かなかったことにする。
ちなみに好きな車と言ってマミちゃんが選んだのは1997年式の真っ赤なミニクーパーだ。
新車かと思うほどの良コンディションで、中身も相当にいじってあるらしい。
渋い…!
一方大学での生活である。
結構変な絡み方されるかと思いきや、意外と何も変わらなかった。
具体的には、遠まきにこちらの様子を伺う人と、絡みに来る人とで二分された。
絡みに来る人は前々から一定数いたが、その人数が少し増えたような…?
ある日の大学でのこと。
「おぉー、あきらぁー!席とっといたぜ!」
なんて知らない人から話しかけられた時なんかは少しゾッとした。
「すいません、知らない人とは話さない主義なんで、そういうのやめてもらっていいですか?」
と、以前のように全力で切り捨てると、周囲の反応は落ち着いた。
それをきいた清水が爆笑していたのはいい思い出だ。
時々大学周辺に取材しようとする週刊誌の記者らしき人がいたので、そういう人たちには清水の連絡先を教えておいた。
逆に絡まれたい清水には以前から、そういうことがあったらその記者を回して欲しいと言われていたためだ。
「表にで始めたら案外いろんなことがあるもんだな。」
「そうね、みんなこっちの財布の中身が気になってるんでしょう。」
「そんな大したもんは入ってないけどな。」
「総資産は具体的に今いくらくらいあるの?」
「少し前に聞いた時はもう2兆円は超えたらしい。」
「うわぁ…。」
「モナコのマンションも完成したしね。」
そう、オテルドパリに滞在した時にモナコの街が気に入った。そのときに、モナコグランプリのコース上にマンションを建設していたのだ。
そのマンションがつい先日完成したと連絡を受けた。
内装は全てエルメスとカッシーナで統一しておきましたとエマが言っていた。
「そのマンションいくらしたの…?」
「怖くて聞いてない…。」
「そうね…。」
「後保有してる株式がすごい多くて、それがどんどん値上がりしてるみたいで…。」
「…どれくらいあるの…?」
「1.3兆円分くらい…。」
「なんかもうすごいね。」
「多分このペースで行くと、ファイブス日本版の億万長者ランキングで来年の日本一になるとおもう。」
「まだ大学生なのにね…。」
「でも他の人もこの好景気でだいぶ伸びてるみたいだよ。
だいたいみんな去年の倍くらいの総資産になるみたい。」
「なんかもうすごいね。」
「うん、実感はないね。」
「私そんな人のお嫁さんなんだぁ…。」
「そうなりますね。」
「いつもお疲れ様です。」
「こちらこそお疲れ様です。」
余談ではあるが、実際に発売された日本版ファイブスの1位は霧島、そして、なんと4位には清水がランクインした。
幸長さんと中村さんはどういう方法で隠したのかわからないがランクインしていなかった。
ーーーーーーーー
週刊誌記者が来た清水side
大学の駐車場で車に乗ろうとしていたところで記者たちに捕まった。
嬉しい!こんなの初めて!
「今話題の大学生金持ちさんですよねぇ!!!」
「他人が羨むほどのお金持ってどんな気待ちですぅ?」
「ちょっとくらい分けてくださいよぉ〜!!!」
絡まれる嬉しさを押し殺し、表に出ないようにしつつ冷静に答える。
「とりあえず名刺貰えます?」
「いやぁー名刺切らしてて!」
「僕なんかは名刺まだもってなくて!!」
「名刺って美味しいやつですか?!?!?!?」
この記者にバカにされてる感じテンプレ!!
嬉しい!!!
「あぁー、じゃあまず僕のことって誰かわかってきてます?」
「そりゃ話題のねぇ!」
「そうそう!」
「大学生起業家!」
「じゃあ名刺お渡ししますね。」
名刺を渡しながら自己紹介する。
「清水隆一と申します。」
「え、清水?」
「おい、やべぇんじゃねぇのか?」
「清水ってあの清水?」
3人の記者の間に動揺が走る。
この、実はすごい人でした的展開!!!
滾る!!!
「どの清水かは存じませんが、九州の清水の次期当主の清水隆一と申します。」
面白いくらい顔が青ざめていく。
たまらんwww
「いやいや、清水様、飛んだご無礼を…。」
「清水ってなんだよ!おい!何びびってnウグゥっ!!!」
清水の名を知らぬ記者をもう1人がぶん殴る。
「てめぇは今は黙ってろ。な?死ぬか?」
3人の記者のうち名刺って美味しいやつですか?とか言ってたやつが生意気な口を聞いた記者を黙らせる。
「まぁそういうことなんで、静かにしてていただければと思うんですが。」
「そりゃもう!!
ぜひ、ぜひ静かにさせていただきます。」
「それはありがたい。
これからもぜひ、賢いおつきあいをよろしくお願いしますね。」
「「はい、もう喜んで!!!!」」
先ほど名刺を出さなかったくせに喜んで名刺を差し出す2人。
残りの1人は伸びている。
名刺を差し出すと脱兎の如く去っていく3人。
「ふぅ。やれやれだぜ。」
俺は愛車のメルセデスベンツC63Sクーペに乗り込む。
そしてここで種明かし。
なぜあの記者たちがびびっていたのか。
それは広告料だ。
俺は個人でいろんな週刊誌に広告を出している。
主に求人とかではあるが。
ほかにも実際に広告を出しているわけではないのだが、スポンサーにはなっている雑誌もある。
そしてそれに加えて、大手出版社にはそれなりの額を出資している。
だから、それなりに長くやってる記者の中には名前くらいは聞いたことあるっていう奴もいるんだろうな。
メディアは味方につけろと小さい頃から親父に叩き込まれてきたからな。
そういうこともあって、これまで記者につけまわされたことはなかったんだが、ここに来て初めての記者デビュー!!!
霧島に記者回してくれって頼んどいてよかった〜。
今日はとても良い気持ちで眠れそうだ。
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