第101話 霧島 日常を過ごす

あれから俺たちはしばらく島に滞在してから日本に帰国した。






結婚式の余韻もまだ冷めぬ中、俺はひとみに告げることを決意した。




そう、運の件だ。






ある日の昼下がり、大阪市内を一望できる高層マンションの最上階でひとみに話す。


ひとみはリビングが見えるアイランドキッチンで料理をしている。


「ひとみ、俺は実はひとみに教えとかなきゃいけないことがある。」




「なになに、改まっちゃって。」




「俺の事業の件。」




「うん?どうしたの?」


手を洗って、アームボーテに特注したエプロンで手を拭きながらひとみがそばにやってきた。




「俺がここまでのし上がってきたのは、運の力っていうだけなんだ。


だから俺にはなんの力もない。


もし、運が失われたら全てを失ってしまうかもしれない。」




ひとみは目をまん丸に開いてポカンとした後、大笑いして言った。




「そりゃ誰でもだよ!!


世の中お金持ちが運以外で成功するわけないじゃない!!




たまたま時代がそういう風に転んだから、たまたま事業が成功したから、ほかにもたくさんのたまたまが重なってお金持ちが生まれるんだよ!




それを運だけだなんて!!


運だけが一番必要なんだよ!!」




「え、あぁ、そう、かな?」




「そうだよ!


運だけあればなんとかなる!」




「お、おぉん…」




「あきらくんはその一番必要な運を持ってるんだから何も心配しなくて大丈夫!


私がついてる!」




「そ、そうだな!」




「そうそう!何にも問題ない!!」




ひとみに、運のことを話せたことで幾分気が楽になった。




「じゃあ、結婚もしたことだし、これからは積極的にいきます!!」




「よし!それでこそよ!」




「ありがとう、ひとみ。」




「こちらこそよ、あきらくん。


ほら、もう料理できるから準備してね。」




その後美味しい遅めのお昼ご飯を食べた。






「俺考えたんだけどね、もっともっと沢山動いてみようと思う。」




「うん、いいと思うよ。具体的に何するの?」




「もっと稼いで、もっと表に出て、もっと世界を回す。」




「世界を回すって断言できる大学生はあきらくんだけだと思う。」




「でしょ?」




「かっこいいよ。」




顔が赤くなってしまった。








ご飯を食べた後、書斎に籠る。






「さて、何をしようかな。」




とりあえず、手慰みにインターネットで気の赴くままに株を買う。買う、買う。


そして売る、売る、売る。


気づいたらトータルで数十社8億株以上売り、数十社7億株以上買っていた。


買った株式はすでにグングン値を挙げている


ほんの数時間でだいたい100億円以上の儲けだ。


最初に投入する額がとんでもなく多いため、やはり動く額も多い。




「正直、お金を稼いで満足する段階はもうとっくに過ぎちゃったんだよね。






てことは、社会貢献か。」




さらに投資を加速させる。


社会貢献活動を積極的に行なっている企業をメインに投資しまくる。


おそらく日本円に直して2000億円程投資したと思う。






1日でそれだけの金が動いたのだ、社会に影響が出ないはずがない。


日本の企業では社会貢献が大ブームとなり、このことが今後の日本を大きく左右することとなる。




また、あきらが積極的な株式投資を再開したという情報は瞬く間に兜町を駆け巡った。


霧島が扱う銘柄はK銘柄と呼ばれるようになり、勝ち馬の代名詞となった。


その日から兜町はK銘柄の話題で持ちきりになったとかそうでないとか。






そして、表に出ることも厭わない方針を打ち出したため、ひとみや実家の家族たちと話し合った結果、あきらのマネジメント会社を設立することになった。


ある程度仕事を選り好みするためである。










大阪市内、某高級ホテルのスイートルームにて。




「本日は霧島さんにお話をお伺いできると聞いて、楽しみにしてやってまいりました。」




「楽しみにしていただけて光栄です。」




「事前情報でお伺いしましたが、やはりお若いですね。」




「はい、まだ大学生ですから。」




「そんなにお若いのに、今や世界の霧島さんですもんね。」




「そんなそんな、世界にはオマハの賢人と呼ばれた投資家やほかにも偉大な投資家は沢山いらっしゃいます。


そんな先輩方に比べたら私なんてちっぽけなものです。」




「そんなことはありません。素晴らしいと思います。」




あきらは、米国の経済誌ファイブスの日本語版の記者からインタビューを受けていた。




「ところで、霧島さんはどうして弊社のインタビューを受けてくださったんですか?」




「これからはどんどん表に出て、世界に貢献できたら嬉しいなと思って。」




「素晴らしいですね…!


今日は沢山お話を聞かせていただきます!」




「どうかお手柔らかに。」




「まずこれからの展望ですが、どのようなことをお考えですか?」




「はい、これからは社会貢献分野にどんどんと投資していこうと考えております。


傲慢な考え方とは思いますが、絶対に必要なのに資金がなく研究を進められない分野は数多くあります。


そのような分野へと投資をし、地球全体に貢献できたらと考えております。」




「なるほど、お若いのに素晴らしいお考えですね。具体的には…」




この後めちゃくちゃ取材された。




このインタビューにはもちろんはひとみも同席している。


そして記事には顔写真や大学などの具体的な個人情報は掲載されない。名前のみだ。












「ふぅー、疲れた。」




「あきらくん、お疲れ様。」




「ありがとう、ひとみ。」




「あきらくんの方が大変だったでしょ。




あの記者さん情け容赦なかったね。」




「たしかに。




まさかあんな詳しいとこまで聞かれるとはね。」




「そのおかげでだいぶ他のメディアにも牽制できたんじゃない?」




「そうであることを祈ろう。」






余談ではあるが、霧島の記事を掲載した雑誌は過去一番の売り上げを記録した。


ネット配信版もアクセス数は一位だったらしい。


英語や中国語、韓国語、ロシア語、スペイン語、フランス語などに翻訳されて全世界で読まれたらしい。


恥ずかしい。


牽制できたはずが逆に取材依頼が殺到した。




なんでだろう。


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