第24話



東京に着いた2人は、ひとみの指示でまず銀座のGUCCIに向かった。




「ここではセミフォーマルくらいの、ちょっとおしゃれなジャケットとパンツを買います。」


「お、おおぉん。」



なぜかひとみの雰囲気がガラッと変わっており、なんか思ったのと違うと感じた私はうまく返事をすることしかできなかった。



店頭につくや否や店員さん方がすっ飛んできた。

「いらっしゃいませ、結城様。」




「こちらの霧島さんのジャケットとパンツを。」




「かしこまりました。」



なぜかばなれている風のひとみにみんなが動かされ、

私は自分が何かの材料になったのかと思うほど全身のサイズをくまなく調べられた。




この時私は「あ、吊るしを買うんじゃなくてオーダーするのね」

と少しばかりビビっていた。




生地や形、刺繍などを2人で選択し、完成までは約2ヶ月ほどかかるとのこと。






「続いてはブリオーニに向かいます」

またしても監督のようなひとみ。



「はい。」

私は返事を返すのでいっぱいいっぱいだった。



ブリオーニに着いた結城監督は霧島にこう告げた。




「ここではフォーマルを仕立てます。




ドレスコードありのパーティにも出席できるレベルのフォーマルなので、タキシードと、もう一つ普通のブラックスーツね。」


「はい!」

私は新兵か?





「いらっしゃいませ、結城様。」

ここでも顔役のひとみ。

私はもう怖いよ君が。





「こちらの霧島さんにタキシードとフォーマルをビスポークで。」

後から聞いたがビスポークとはフルオーダーのことらしい。

お客さんと要望をじっくり話す=Be spoken ということでビスポークらしい。




先ほどの店に続き、簡単に挨拶を交わした2人の間にはもはやプロのような空気感が漂っていた。


プロに言葉はいらない、とその空気が告げていた。

じっくりと話すんじゃないのかよ。




「ちなみにブリオーニはタキシードに自信ありのメーカーだから、期待していいよ。




例の殺しのライセンスを持ったスパイもここのスーツを愛用してるの」




楽しげに笑うひとみだが、ひとみは霧島にダブルオーのライセンスでも持たせる気であろうか。




ブリオーニでスーツをビスポークオーダーした2人は足早に次の店に向かった。




「続いてはダンヒル銀座本店です。」




「ダンヒルまで行くとなんかよく聞くから馴染みやすそうだな!」

この時何も知らなかった私は気持ちが楽になると思っていた。



「さて、どうだろうねぇ?


ここでもオーダーメイドで作るから、普通のダンヒルとはわけが違うよ。




日本でこの銀座本店だけしかビスポークでオーダーできないんだから!」




「早くも暗雲立ち込める。」




「スーツはここで終わりだから頑張って!」




「はい……。」




「ようこそ、結城様。本日はお父様ではなくこちらの…。」




「こんにちは、木村さん。そうです、私の自慢の彼氏が、男前のスーツをオーダーしたいと。」


先ほどとは打って変わって外行きの笑顔を浮かべるひとみ。






「あの小さかった結城様が…。


わかりました、この木村が誠意を込めて作らせていただきます。




結城様は是非サロンでお待ちください。」




「では、お願いします。




じゃ、あきらくんサロンで待ってるね。」




霧島は心細さを感じたが、先ほどまでの店との対応が少し違うことに気がついた。




私はひとみに手を振り別れた後でその木村さんと話をした。




「結城家とは古いお付き合いなんですか?」




霧島は木村にそう尋ねると、


「はい、今の旦那様の普段のスーツは全て私が作っております。ひとみ様のスーツやドレスも私が担当を…。申し遅れました、ダンヒル銀座本店 オーダースーツの部門を担当しております、ダンヒルジャパン顧問の木村と申します。」




そう行って木村は霧島に名刺を渡した。



木村さんはすごい人だった。

「あ、すいません、霧島です、本日はよろしくお願いいたします。」




木村は霧島と世間話をしながらも採寸の手を緩めることなく、霧島が気づいた時にはすでに2人は生地やラペル、切羽、ボタンの選択に入っていた。




霧島はダンヒルで夏用冬用のスーツと、冬用のロングコート、スーツ用のシャツ、ベルトを購入した。




スーツとコートに関しては現物が届くにはまだまだかかるとのことだった。だが霧島がたくさんの品物を衝動買いしたのは、木村の人柄に惚れてのことだった。




「外資の会社で上り詰めるだけあるわ…。」


と、内心でつぶやき、心地よい時間を過ごせたことに感謝した。






霧島とひとみは木村に感謝をすると次の場所に向かった。




「次はちょっと歩いて丸の内まで!靴を買いに行きます!」




ダンヒルで気を良くした霧島は上機嫌で返事をした。




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