第61話 タネの仕込み

 俺は魔法言語の勉強のために本を買い漁った。

 金なら魔王城から分捕ったのがまだたくさん余っている。


 無くなったら、モンスターでも討伐して稼げばいいや。

 ショウが寄って来た。


「予選見てたぜ。大笑いさせてもらったよ。あの滑らせる奴って魔法か?」

「なわけないだろ。製氷水せいひょうすいってのがあってな。これを撒くとたちまち凍り付く」

「えっ反則じゃん」

「ばれなきゃいいんだよ」

「その製氷水せいひょうすいを見たい」

「危険なんだよ。取り扱いを間違うと、手足が腐ってしまう」

「嘘だ。絶対嘘だ」

「雪山の小説を読んでみろよ書いてあるから」

「おう、分かった」


 ショウは図書室に行って本を借りてきたようだ。

 授業もそっちのけで一心不乱に読んでいる。


 授業が終わり休み時間。


「本当に寒さで手足の指が腐るんだな。知らなかったよ」

「嘘は言わない。製氷水せいひょうすいの危険なのが分かっただろう」

「ああ」


 騙されやすい奴だ。


「だが、次は製氷水せいひょうすいは使わない。同じ人に同じ芸を見せないのと一緒だ」

「じゃあ俺だけに何をやるのかこそっと教えろよ」

「ピエロの芸でやっつける。対戦相手全てサクラだけどな」

「それは面白そうだな」


 さて特訓しないと。

 授業をさぼり、修練場の一角を借りて魔法の練習を始めた。


「【火魔法、ブレス】」


 炎のブレスを吐いた。

 大道芸っぽいだろ。


「【光魔法、蝶々】」


 光の蝶を生み出す。

 そしてその蝶を両手で挟むように叩いた。


「【光魔法、閃光】。目が目がぁ」


 目をつぶっていたのだが、目が見えなくなった芝居をする。

 うーん、芝居って難しい。


「目が目がぁ」


 何度も転がり回る。

 何十回もやってやがて納得がいく演技ができた。


「【毒魔法、毒ガス】」


 これは簡単で良い。


 今回の準備はこんなので良いかな。

 本戦の一回戦の準備は整った。


 さて、実技の授業でも見学するか。


 修練場に生徒達が入って来た。

 的に向かい合うと魔法を放ち始める。

 火魔法が人気らしい。

 まあ派手だからな。


「【炎魔法、火炎旋風】」


 生徒の一人が特大の魔法を放つ。


「【虚無魔法】」


 俺は暗黒魔法の一部である虚無魔法を放った。

 火炎旋風は消えた。


「あれっ、魔法が消えた」

「風で消えたんじゃない」

「壁で囲まれているのにか」


 納得いかない様子の生徒。


「きっと、コントロールをミスったんだな。精進しろよ」

「くそっ、こんなのじゃ。今回も1回戦負けか」


 虚無魔法も使えるな。

 他にやるとすれば。


「【氷魔法、玉、玉、玉】」


 俺は氷の玉を作ってジャグリングを始めた。

 ここからどう展開するかな。

 わざと落とすのも笑いを誘えるな。

 で落とした玉を蹴飛ばして、相手を攻撃する。

 うん良いかも。


 氷の玉が爆発するのもいいな。

 だが笑いがない。


 人間大の氷人形を作るのも良いかな。

 相方がいれば笑いを取るのも容易い。


「【氷魔法、人形】」


 氷で10センチぐらいの人形を作って、ダンスさせる。

 最初はぎこちなかった動きが1時間ほどやっていると滑らかに動くようになってきた。

 これなら、小芝居するのも出来るだろう。


 賠償で才能みたいなのも奪っているのかもな。

 コントロールを覚えるのが早すぎる。

 早いのにこしたことはないが。


 生徒が放った火球魔法が俺に向かって飛んで来る。


「【氷魔法、ガントレット】」


 俺は火球を握りつぶした。

 魔法を放った生徒はいなくなっていた。

 緑服の仲間に違いない。


 学園内で殺しにくるとはな。


「【賠償】。ステータスオープン」


 火魔法と魔力操作が増えているな。

 魔力操作は嬉しい。

 こういった魔法を持った奴がもっと攻撃してくればいいのに。


「プリュネ、大丈夫か」


 駆け付けたショウに、俺は見てろとジェスチャーして、手を握ると中の空気を吸い取った。


「【火魔法、ブレス】」


 小声で魔法を唱えて、炎のブレスを宙に向かって放つ。

 パンパンと手の汚れを叩いて落とした。


「プリュネ、お前、魔法が上手いな」

「芸人は器用でないと務まらない」

「器用って言っても、ほどがあるだろ」

「魔法は2時間前ぐらいから特訓し始めた」

「天才かよ。だよな、ピエロの化粧して学園に通う奴はまともじゃない」

「人をサイコパスみたいに言うなよ。【氷魔法、玉、玉、玉、玉、玉】」


 俺はジャグリングを始めた。


「確かに器用だな。この器用さありきか。俺も取り柄がひとつぐらい欲しいぜ」

「俺は眠っている間も芸の訓練をした」


 ショウの目が驚きに溢れたように見える。

 信じたのか馬鹿な奴だ。

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