第104話 ツケ回収

 さて、そろそろ、回収を始めるか。


「金額が金額なので、娼婦の手当だけでも払ってくれませんか」


 俺は会計を預かる士官にそう言ってみた。


「あー、戦いが終わるまで待て」


 まあ、そう言うよな。


「商売の慣例では月末にまとめてツケを払うことになってます」

「そうだな。平民が使う飲み屋とかはそうだ」

「では」

「ここは戦場なのだよ。それに客は貴族だ。分かるだろ。長生きしたければ待つんだな」

「踏み倒すというわけですか」

「馬鹿なことをいうな。戦いが終わったら払うと言っている」

「では、いついつまでに払うと言った証文を書いてもらいましょうか。借金のツケの保証人になってもらいます」

「なんだと。話にならん。とにかく知らん。帰れ。いいかこのことで騒ぐんじゃないぞ。分かったな」


 もうこれは賠償取れるよね。


「【賠償】」


 士官の所から引き上げて、スキルを使う。

 俺の足元は金貨で埋まった。

 まあ、儲かったな。

 証文は手元にあるわけだし、この戦いに勝ったら、ウメオの名前で請求しよう。

 きっと震えあがるに違いない。


「士官が娼婦のツケを払わない。酷いと思わないか」


 顔を幻影魔法で変えて、俺は兵士のひとりにそう言ってみた。


「そうだな。楽しむだけ楽しんでおいて踏み倒すなんて許せない。それより許せないのは俺達が泥にまみれて悪戦苦闘しているのに、上の方はそんなことをしてるってことだ」

「まったくそうだな」


「いいこと考えたぜ。娼婦を呼んで、士官のツケにしてやろうぜ」


 兵士はそんなことを言い始めた。


「どうやって?」

「やつら印章の管理がずさんなんだよ。机の上に置いてある。トイレなんかの時に目を離すこともしょっちゅうある」

「ほう、じゃあ。白紙証文を量産できるわけだ」

「おう、声を掛けてみんなでやろうぜ」

「俺は娼婦の手配をしてくれる商人に渡りをつけてやる」


 偽造というか、盗用して作った証文で誰の所に賠償が行くか興味がある。

 サキュバス魔道具、『一夜の蝶の羽ばたき』が大活躍だ。

 やり部屋ならぬ、やりテントがいくつもできて、その前には行列ができた。


 女の子達もニコニコだ。

 布で綺麗に拭くだけだからな。

 そんなに大変じゃない。


「どう」


 俺は女の子に訊いてみた。


「爺さんの世話より簡単ですね。良い仕事です」


 本当に気分は介護だな。


「つらかったらいつでも辞めていいよ」

「こんな良い仕事は辞められません」


 確かに割り切れば良い仕事だよな。

 俺は証文を多数入手した。


 さて、賠償タイム。


「【賠償】」


 金が出てきたが、誰の金だろうな。

 兵士達は貧乏だから、上の奴らかな。


 息抜きの福利厚生も軍の責任になるのかな。

 よく分からんが、まあいいや。


 連日、こういう状況が続き。

 ついに誰から金が出ているか分かった。


「貴族が続々破産しているらしいぜ。国元の金庫が空になったってよ」


 兵士が噂してる。

 だよな。

 兵士の不満解消は軍の幹部である貴族がすべきだ。

 それにもし裁判になったら、印章は紛れもなく本物。

 となると責任の所在は貴族にある。

 どうやらそういうことらしい。


 もう、軍が空中分解するのも間近かな。

 それにしても、印章から目を離すとは馬鹿な奴らだ。


 賠償スキルで貰えるのが、美術品や骨とう品になり始めた。

 そのうち、家屋敷の権利書とかも手に入るのかな。

 兵士の数は多いからな。

 金貨1枚の娼婦を100人が使えば、一晩で金貨100枚が飛ぶ。

 実際の数はもっと多い。


「なぁ、女の子の数に対して男が多過ぎないか。彼女らが壊れないか心配だ」

「ええ、そこは回復魔法を使っているんですよ」


 俺はそう嘘をついた。


「そうか。それなら良かった」

「気兼ねなく利用して下さい」

「だよな。女の子はいつも笑顔だから。男が多過ぎてとかだったら、表情にでるよな」

「ええ」


 兵士は薄々、魔道具のことに気づいている。

 だが、気持ちよくなって気分が晴れればそれで良いらしい。


 印章の盗用がばれた。

 兵士が何人か処刑されて、兵士の士気がますます落ちた。

 ただ、貴族はどういう仕組みで国元の金庫が空になったかが分からない。

 義賊説が今のところ有力だ。

 脱走兵が義賊に転身。

 娼婦のツケを回収してというストーリーだ。


 その歌もできた。

 みんな義賊がいると信じてる。

 義賊の名前は『シェパード』。

 羊飼いだ。


 『シェパード』の手口はみんなを眠らせて、お宝をごっそりいくらしい。

 眠りの象徴である羊を使うからそう名前が付いたようだ。

 そんな奴はいないが、何かの時は利用できるな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る