第103話 サキュバス魔道具

 幹部達が味を占めて、娼婦を手配しろと言い出した。

 腐ってるな。


 だが、好都合だ。

 まあ、俺は娼婦についてはとやかく言わない。

 日本だと法で禁止されているが、異世界では別に違法じゃないからな。


 だがな、証文乱発で手配しろと偉そうに言われても気にくわない。


「アルチ、幻影魔法プラス精神魔法のサキュバスみたいな魔道具を作れ」

「どうせなら、精力吸収も付けとく。すっきりするよ。あんたが使うの」

「軍のお偉いさんが所望だとさ」

「そんなことだと思った」


 近隣の村や街で娼婦を集める。

 そして魔道具の使い方を説明した。

 魔道具の名前は『一夜の蝶の羽ばたき』。

 手筈はこうだ。

 テントに入って、相手を脱がす、魔道具を発動、ビクンビクンしたら綺麗にして、そこを後にする。

 まあ介護の仕事だと思ってもらうしかない。


 幹部達は日に日にやつれた。

 よほど気持ちよかったのか毎晩依頼が来た。


「幹部達、毎晩ご乱行らしいな」


 兵士の一人がそう言って唾を吐き捨てた。


「まあな。俺もこんな仕事はしたくないが、やらないと首が飛ぶのでね」

「つらいな」

「まあ慣れたよ」

「テントから出る女の子が笑顔なのがやるせない」

「まあ金額は弾んでる」


 事がない仕事としてはな。


「貧しさってのは罪なのかな」

「無抵抗なのが罪なんじゃないかな。無駄死にも良くないが、生きるために抗うのが真っ当な生き方ってものだ」

「逃げるべきなのかな」

「それなら、良い男を知っている」

「決めたぞ。この軍での貴族の堕落ぶりを吹聴して回る。脱走兵になってやる」


 こんな感じで脱走兵が出る。

 でもどこかから補充されてくる。

 聞くと村では仕事がないそうだ。

 かと言って街に出る伝手もない。

 一攫千金を狙って兵士になるが、あまりの酷さに辟易する。

 食い物ぐらいまともな物を食わせてやってもいいと思うが。


 貴族軍なんてこんなものか。

 頭がキレる奴がそういるはずもない。

 頭がキレる奴は勝つ見込みの薄さに逃げるだろうな。

 ちょっとスキルを使えば誰が神なのか簡単に分かる。

 分かった上でやる奴は馬鹿しかいない。

 欲と野心で理性が働かない奴が有能なわけない。


 兵士達の士気は上がらない。

 ウェイはどうしているのだろうな。

 まあ、俺がウェイなら、自分が神じゃないのは知っているから、逃げの一手だな。

 ただ逃げると王女との結婚もご破算になる。

 だから、採れると手としては自己暗示を掛けて神だと信じて、俺に特攻してくることだと思う。


 そこまでの度胸もないのか。

 幹部達もさすがにご乱行が過ぎたと思ったのか娼婦を呼ぶ回数が減った。

 で体力を回復するために、美味い物を用意しろと言ってきた。


 さて、どうするか。

 近隣の街でそんな食材は手に入らない。

 幻影魔法を掛けてオークの睾丸でも食わせるか。

 うーん。


「悩みごとか」


 ミタイナーが俺の相談に乗ってくれるらしい。


「精力が付く美味い物が要るんだ」

「それならビッグタートルだな」


 亀のモンスターか。

 硬いが、俺にとってはバターだ。


 ミタイナーに聞いて、ビッグタートルの出現場所に行くと、そこは霧の立ち込める沼地だった。

 いかにも何か出そうだ。

 ズシンズシンと重たい足音がする。

 見ると丘ほどの亀がいた。

 ビッグって言ってもこれはでかすぎだろう。

 だが、幹部達全員に行き渡るな。

 兵士達にもおすそ分けできるかも知れん。


 これを討伐して軍に尽くす必要もないが、幹部達にはご乱行を続けて欲しい。


「【次元斬】」


 ビッグタートルの首が刎ねられた。

 血がもったいないので傷口を凍らせる。

 死骸をアイテム鞄に入れて、村に持ってった。

 村人総出で解体、調理が始まる。


 亀尽くしの料理が出来上がった。

 幹部達にそれを持って行く。


「実に良い匂いで美味そうだ。なんの肉だ」

「ええと、ミュータントミドリーの肉です」

「聞いたことがないな」

「じつに手強い奴らで、なぜか芸術家の名前を冠してます」

「ほう、それは美味そうだ。芸術的なのだろう」


 幹部は誰もビッグタートルの料理を褒めた。

 体が精の付く物を欲しがっているんだよな。

 空腹は最高の調味料。


 幹部達のご乱行がまた始まった。

 前にも増してだ。

 それを知った兵士達はみんな嫌気がさしている。


 そろそろ、攻撃しなくていいのかな。

 まあ兵士の休みにはなっているけど。

 なんだかんだ言って、幹部は全くの無能でもないが、有能でもない。

 そんな評価だな。

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