第102話 慰問公演

 それにしても、貴族軍は腐っているな。

 俺が納入した物資が兵士に届いてない。

 幹部が独占しているようだ。


 だだ広い天幕で会議中。

 髭を生やした偉そうな男達がテーブルに着いている。

 俺は末席に腰かけた。


「現在、ヤシンカー男爵が敵に痛手を与え、ウソツキー侯爵が敵に大打撃を与えた。喜ばしいことだ」


 参謀だろう人がそう説明した。

 えー、どこを取ったらそうなるんだ。

 拍手が上がる。

 こんなのでいいのか。

 敵だけど兵士がちょっと可哀想になった。


「諸君、ここで更なる鉄槌を浴びせて、英雄になろうという者はおらんか」


 将軍らしき人がそう言って見回した。


「これは異なことを、英雄なら既に英雄神様がおられるではないですか。その方を差し置いて、英雄などとてもとても」


 高慢そうな貴族がイヤミを言った。

 参謀と将軍が顔をしかめる。

 英雄神様に出撃をの声が上がる。


「ええい、臆病者しかおらんのか。誰でも良い建設的な意見を述べたまえ」


 参謀の言葉に乗せられたわけじゃないが、俺は手を上げた。


「言ってみろ」

「物資に余裕があるはずです。ここはそれで兵士に十分な休養と食事と補給を行うべきです」

「ふん、それではまるで我が軍が負けて、士気が下がっているみたいではないか。脱走など関係ない」


 みたいじゃなくてそうなんだけど。

 俺の発言の意味は、きっと却下されるから、却下すると幹部への不満が溜まる。

 脱走兵も増えるって塩梅だ。


「兵士の脱走は厳罰に処すべきだ!」


 貴族の一人がそう言って、声を荒げた。


「だから、脱走兵を出さないためにも慰撫策です」


 俺はさらに主張した。


「ふむ、ならば芸人に慰問公演させよう」


 斜め上のことを言い始めたな。

 無能だから別にいいのだけども。


 今の兵士に必要なのは休養だと思うのだけどな。

 会議は終り、俺だけ手招きされた。


「ツケで芸人を手配しろ」


 いきなり言われた。

 全く厚顔だな。

 たかりもいい所だ。

 まあ、受けるしかないけどな。

 踏み倒されたら賠償スキル炸裂だ。


 近場の街に言って、芸人に声を掛けた。


「陣で公演をしてほしい。お金は弾む。通常の倍出そう」

「そんなに頂けるのなら」


 慰問公演が始まった。


「ラー♪あなたに永遠の愛を♪」


 口笛が吹かれ拍手される。

 兵士の喜びようったら。


 驚いたことにそれなりの効果があった。

 幹部はまるっきり無能というわけでもないのかな。


「あの歌手、実に良いではないか」


 幹部がめんどくさい事を言う。


「ああ、あれね。夜のあれですか。分かりました夜になったらひとりでテントにいて下さい」

「おお、よろしくな」


 夜、幹部のテントの所で幻影魔法を掛けて、精神魔法も掛けた。

 天国に行った夢を見ているに違いない。

 ピクピクして嬉しそうだ。


 幹部が眠ったので外に出る。


 芸人の荷物を運ぶ馬車を多数水増しして用意した。

 脱走兵を逃がすためだ。


「急げ」

「助かったよ」

「礼は良い。早く行け」


 多数逃がしたが、問題になるかな。

 幹部とかは、脱走兵のことは気に止めてないらしい。


 なぜなのかすぐに分かった。

 兵士が補充されたのだ。

 給金はツケにして集めたらしい。

 勝てればいいけど負けたら暴動だな。


 証文乱発とか、末期だな。

 この国は滅びそうだ。


 リリムが喜びそうな商品を思いついた。

 リリムの家であるリリン家の紋章入りグッズだな。

 文房具、短剣、靴下、まあ色々だ。

 これなら喜ぶだろう。


 今回の慰問公演は儲けたな。

 相場の10倍ぐらい吹っ掛けたからな。

 証文払いだから、気にしないで払ってくれた。

 少しぐらい幹部にキックバックするか。


 幹部へ紋章入りの文房具を送った。


「君、分かってるね」

「それはもう。皆様の勝ちを願ってますよ。そうすれば証文が紙くずにならない」

「うんうん、いいね。手柄を立てたら隊長に推薦してやろう」

「ありがとうございます」


 ありがたくはないがそう言っておく、

 この軍での出世はほどほどで良い。


 さて、いつになったら任務とやらがくるのかな。

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