第105話 査問会

「軍の食料などの物資をお買い上げになりましたよね。ツケを払って頂きたいのですが」


 会計の士官にそう言ってみた。


「今はそんな暇はない。シェパードの奴が大暴れしていてどうにもならんのだ。国庫に入るはずだっだ貴族の税収も途絶えている」

「それ、私に関係ありますか?」

「くっ、とにかく今はどうにもならない。戦いが終わるまで待て。シェパードを焚きつけたのはお前ではないだろうな」

「いえいえ、シェパードなる人物には会ったこともありません」

「くっ、戦いも上手くいかん。軍資金も底をついてる。どうすれば」

「貸しましょうか」


「おっ、貸してくれるか。それはありがたい」

「担保として身柄を指定して下さい」

「それは奴隷契約ではないか」

「いやですね。労働契約ですよ。労働で返してもらいます」

「それぐらいなら。その契約は兵士でも良いのだろう」


「ええ、構いません。それで物資のツケはいつ」

「まあ待て、金貨1万枚を上層部に報告してからだ」


 金貨1万枚の貸し付けが決まった。

 踏み倒すつもりなんだろな。

 娼婦のツケも払われてない。

 金貨1万枚から、物資のツケも払われない。


 上層部は金貨1万枚を自分の懐に入れた。

 分かるよ。

 国元が火の車なんでしょ。

 それもこれも娼婦で遊んだツケなんだけどね。


 さてと、物資のお金を払わないそうだから、もう賠償取れるよね。

 金貨1万枚を用立てたのだから、これで払われなかったら詐欺だと思う。


「【賠償】。ふはは、金貨が小山だ」


 物資の賠償を取ると、金貨の山が出来た。

 誰にも見られないように、金貨の小山をアイテム鞄に収納する。


「シェパードは今度は国庫を狙ったらしい。大慌てだぞ」

「凄いな。俺もシェパードに入りたい」

「シェパードが娼婦のツケを払ったって話は本当か」

「本当だろう。娼婦にはお金が確かに払われている。ただ渡りをつけた商人から貰ったっていっているらしいけど」


 兵士がそう噂してた。


 俺は査問に掛けられた。

 シェパードの関連を疑われているらしい。


 査問会の天幕では、貴族軍のお偉方が勢ぞろいしてた。

 どの貴族も険しい顔をしている。

 国元が危ないからな。


「商人プフラの査問を開始する。嘘判別スキル持ち、準備は良いか」


 裁判官役の貴族がそう言って査問会は始まった。


「はい」


「では始める。シェパードにツケの取り立てを依頼したか」

「してません。会ったこともないです」

「本当です」


 ひそひそと声が聞こえた。

 そんなはずはないだとか。

 シェパードは義賊ではなくただの盗人だとか。


「金はどこから工面した」

「今までの商売や討伐からです」

「本当です」


 査問会に出席してる貴族から疑いの声が上がる。

 そんなに富豪ならなぜ兵士になったとの声。


「なぜ、兵士になった」

「魔法学園都市で商売してまして、学園長がウメオに殺されました。関りがあったので、兵士になりました」

「本当です」


「何でもいいシェパードに関して情報はないか?」

「シェパードがいるなら、スキルを使ったのではないですかね」

「本当です」


「推測など求めてない。証拠が欲しいのだ」


 貴族が手を上げる。


「どうぞ」

「この商人は証文でどうやって取り立てるつもりなのかな」

「おう、そうだ。答えろ」

「そこは、最終的には商業ギルドに証文を売るつもりです」

「本当です」


「そんなことをされたら」


 小さい声でこの男を殺せと聞こえた。

 商業ギルドとの取引を凍結されたら、領地の商売は死ぬものな。

 その前に俺を殺そうという腹積もりらしいが、殺せるかな。

 俺は掛かる火の粉は払う。


 査問会は終わった。

 踏み倒すためにあの手この手を使ってくるのは間違いない。

 踏み倒すつもりで借金するなよ。

 ちなみに、証文の半数は印章が偽者だと俺は知っている。

 兵士が盗用した証文と比べたから分かる。

 だが、賠償スキルは印章が偽物でも取り立てる。

 偽者ならかえって取り立てる金額が大きくなる。

 詐欺だからな。


「国にも火が点いたな。俺はてっきり戦いで決着が着くと思ってたよ」

「この国はもう駄目だ」

「どこで間違ったのかな」

「英雄神様が神ならば助けてくれよ」

「一度も戦闘に出て来ないのはなぜだ」

「もう終わりだ」

「くそ、雨はいつ止む」

「ウメオの方が強いってことだな」

「いまからでも投降するか」

「みんな滅ぶんだ」


 兵士が色々と噂してた。

 兵士達の顔は一様に暗い。

 総攻撃は近いかな。

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