第106話 潜入任務

「プフラ小隊には敵城塞に潜入してもらい、情報を持ち帰ってもらう」

「了解しました」


 来たか。

 俺を殺すつもりかな。

 無茶な任務だ。

 本来ならな。


「仕事だ。敵城塞に侵入する」

「妻よ、まだ見ぬ我が子よ。俺はもう駄目らしい」

「娼婦と楽しんだ罰かな」

「何で俺達が」


「よく聞けよ。別に侵入さえできれば問題ない。俺は商人として堂々と正面から入るつもりだ」

「プフラには悪いが、俺達は門から離れた所で待たせてもらうぜ。逃げても悪く思うなよ」


「交渉は俺の得意分野だ。もし俺が殺されても、逃げて構わない」

「そうするぜ」

「悪いね」

「ごめん」


「謝ることはない。じゃあ出発」


 馬車に荷物を積んで、俺の城塞近くまで行った。


「いつ見ても、陰気だぜ」

「ここで待ってろ。話をつけてくる」


 俺は城塞に近寄ると、念話でリリムに開けてくれと言った。

 城塞の扉がオーガゾンビによって開けられた。

 俺は手でミタイナー達に合図を出した。


 ゆっくりと馬車が近寄ってくる。

 ビビってるな。


「ビビるなよ。これから会うウメオの幹部は人間だ。とって食われたりはしない」

「本当だな。信じてるぜ」

「俺達が一番最初にここに足を踏み入れるのかな」

「今日が命日にならなきゃいいけど」


 馬車が城塞の庭に入った。

 ミタイナー達が木箱を担ぐ。

 そこにはリリン家の家紋が入った日用雑貨が入っている。


 最初はおっかなびっくりだった3人も徐々に慣れて、軽口を言うようになった。

 死の恐怖を紛らわしているだけかも知れないが。


 謁見の間は腐臭もしない。

 アンデッドがいないし、浄化結界の魔道具も動作してる。


「リリン様に置かれましてはご機嫌麗しく」

「ご苦労様。貢物ですって、そんなことを言ったのは貴方が初めてよ」

「今後とも良しなに」

「ええ、プフラでしたっけ覚えておくわ」


「あの、厚かましいお願いですが、城塞の中を見て回っても良いですか」


 ミタイナーが小声で馬鹿死にたいのかと言った。


「どうして?」

「珍しいので記念に」

「いいわよ。アンデッド臭いけど堪能して頂戴」


 謁見の間を後にして、3人で手分けして、城塞の見取り図を作る。

 この情報ぐらい別に構わない。

 いざとなれば魔法で内部構造を変えるからな。

 隅々までマッピングして、リリムにお暇の挨拶をする。


「ありがとうございました。ご入用の物がある時はなんなりと」

「ええ、期待してるわ」


 城塞から出ると3人が大きく息を吸って吐いた。


「死んだかと思ったぜ」

「これで英雄になれるかな」

「愛しのあの子の顔が浮かんだよ」


「さて凱旋するぞ」

「「「おう」」」


 隊長に報告に行く。


「プフラ小隊帰還しました。城塞の見取り図を作ってきました」

「ご苦労だった。よく見取り図を作らせてくれたな」

「一日であの城塞が作られたんですよね。構造を変えるのも自由自在では」

「ふむそうだな。プフラ小隊の今後の活躍にも期待してる」


 俺に対して疑いの目が向いたようだ。

 もう一度中に入れと言われた。


 俺は小隊以外の人間を城塞に案内した。


「うむ、襲ってこないな」

「無防備というかなんというか」

「すぐに殺せるという余裕の表れだと思いますよ」


 案内してる士官に俺はそう言った。

 見取り図の正しさは証明された。

 だが、構造を自由自在に変えれるとの俺の意見もあって、大した功績としては扱われなかった。

 ミタイナー達はすっかり城塞に慣れたようだ。


「お前、血色が悪いな。ちゃんとめし食ってるか」

「うー、たまに頂いてます」


 ミタイナー達はアンデッドにも気軽に話し掛けるぐらいだ。

 なんというか能天気な奴だな。


「アンデッドって性欲ないのかな。どうよ」


 コンヤックよ、もっと聞く事あるだろ。


「ありませんね。しいて言うと血を吸う時に性的快楽に似た感じを味わえます」


「アンデッドはカップルになったりしないのかな」

「我ら吸血鬼は子を生せます。稀ですが」

「エッチできるんだな」


 アンデッドの下の話を聞いてどうするんだ。

 報告書に上げるとどやされるぞ。

 まあ、アンデッドの生態には興味があるけど。

 後で、3人には報告書を書かせて、俺の資料としよう。

 なんなら俺から金一封出しても良い。


 ほのぼのとした感じは、ある指令で粉々になった。

 リベンジャーの首を取って来いという任務。

 さてどうしたものか。

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