第107話 暗殺任務

「敵、アンデッドの幹部であるエルダーヴァンパイアの暗殺を命じる」


 隊長からそう命令を言い渡された。


 ツケの件で殺し屋とか放ってくるかと思ったが、こういう手で来たのか。

 考えてみれば、どういうふうに転んでも貴族軍幹部の得しかない。

 まず、暗殺に成功した場合。

 これは敵が弱体化するということで得だ。

 暗殺に成功した後に俺が殺されればもっと得。


 暗殺に失敗すれば俺が死んでツケがうやむやになる可能性大だ。

 これも貴族軍幹部の得。


 俺が任務から逃げても得。

 敵前逃亡は重罪だ。

 だが普通、一般の兵士ならほとんど何もしない。

 俺の場合は逃げたら、きっと指名手配して、捕まえられなくてもツケがうやむや。

 これも貴族軍幹部の得。


 よく考えた策だ。

 だが、相手が俺でなければの話だ。

 問題は死亡フラグ3人衆だな。

 こいつらを誤魔化さないといけない。

 幻影魔法はあるが。

 それだけだとな。


 凝ったシナリオが必要だ。

 それは追々考えるとして。


「了解しました」

「バックアップはする。聖水の小瓶と聖遺物を用意した」


 ちっ、アンデッドは聖の気配に敏感だ。

 そんな物を持って入ったら、殺してくれと言わんばかりだ。

 持ち込みに成功した場合も不味い。

 報告書にただ持ち込みに成功しましたなんて書いたら、きっと2重スパイ扱いされてという筋書きも考えられる。


「新鮮なゾンビの胴体を用意できませんか」

「なるほど、聖の気配をゾンビの肉で誤魔化すのか」

「ええ、肉の中に入れて運ぼうと思います」


 これで言い訳はできた。


「用意しておく」


 死亡フラグ3人衆は俺の顔を見ると、興味津々に寄ってきた。


「隊長から褒美でも出たか」


 ミタイナーは能天気だ。


「相手の城塞の中で暗殺任務だ」

「えっ、そりゃないぜ。俺達は活躍してたよな」

「うんうん。ぬるぬるのぐちょんぐちょんになるぐらい活躍してた」

「今度こそ死んだ。もう駄目だ」


「どうする。お前達が脱走するなら俺は目をつぶる」

「出来ないぜ。子供になんて言えばいい。任務から逃げ出して指名手配になったなんて言えない」

「婚約者が許してくれない」

「逃げたいけど、告白するより、暗殺の方が勇気は要らないから」


 馬鹿な奴らだ。

 さすが死亡フラグを背負っているだけのことはある。

 だが、嫌いじゃない。


 馬車での3人は無言だ。

 さすがに今回は軽口叩く余裕はないか。


 城塞の門が開く。

 3人が大きく息を吐いたのが聞こえた。

 緊張しているな。


 リリムに貢物を渡し。


「今回はリベンジャー様にも貢物があるのです。新鮮な処女の血です」


 これは、娼婦役の女の子の一人に協力してもらった。

 血を抜く装置は、魔法学園を出る時に作ってショウに渡したからな。

 スペアも当然ある。

 この装置、魔道具で痛くない。

 穴を開けて、精神魔法で麻痺させ、吸引で血を吸い取る。

 吸い取った後は回復魔法で治す。

 日本の物より高性能だ。


 リベンジャーは居室で椅子に腰かけて本を読んでいる。

 意外と博識の勤勉だ。


 ここからは前もって打ち合わせ通りだ。

 俺はミタイナー達に目配せする。


「処女の血が手に入りましたので」

「ご苦労」

「他にもあります」


 ミタイナーが木箱を開ける。

 木箱にはゾンビの肉が入っていた。


 この中に手を突っ込むのは嫌だな。


「【浄化】」


 そして、塵になったゾンビの肉体の中にあった聖遺物と聖水を取り出した。

 俺は剣に聖水を塗るとミタイナーに投げ渡した。

 そして、聖遺物を起動させる。

 ミタイナー達の役目は撤退路の確保だ。


 俺は聖遺物が眩い光を放つと共に、リベンジャーに剣を突き立てる芝居をした。

 幻影魔法発動。

 リベンジャーが灰になった映像が映し出された。


 済まん。

 リベンジャーの片手を落として、灰になったそれを小袋に入れる。


「【邪回復】」


 リベンジャーの片腕は復活した。

 ミタイナー達は既に部屋の外だ。

 城塞の中のアンデッドを警戒してる。


 アンデッドはほとんどが聖遺物で灰になった設定。

 姿を現さないように言ってある。

 通路の所々に灰の小山を作ることも忘れない。


「プフラ小隊長。アンデッドはほとんど死んだみたいだぜ」

「よし、逃げるぞ」


 コンヤックとツタエートは城塞の扉を開ける係。

 俺達が行くと二人は満面の笑みを浮かべた。


 馬車に乗り込み目一杯馬を走らせる。


「やったぜ」

「はははっ」

「ひゃっほう」


 3人とも大はしゃぎだ。

 ここに来る時が嘘みたいだ。

 さて、上層部はどうするかな。

 殺し屋が来るのかな。

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