第92話 男爵軍、出撃

 ヤシンカー男爵の軍が出撃していった。

 おれはこっそり男爵の軍に紛れ込む。

 諜報面がガバガバだな。


 もっとも敵の親玉が兵士になって紛れ込んでいるとは考えないか。

 俺は荷車を引く係だ。

 力に自慢があると言ったら、力比べをして選ばれた。

 荷車には樽が2個載っている。


 ヤシンカーの軍の中核は騎兵50。

 雑兵は歩兵だ。

 100ほどいる。


 雑兵に武器は大して良い物は与えられてない。

 ケチる所はケチっているな。


 ヤシンカー男爵の軍は俺の城塞の前に来ると。


「ウメオ、○○○男性器の小さい奴め、男なら出て来て勝負しろ」

「お前の女達はお前を殺して、俺達が可愛がってやるから安心しろ」

「おー、アンデッドくせぇ。鼻が曲がりそうだ。ウメオ、お前の体も臭いんだろ」」


 ヤジを飛ばし始めた。

 攻城戦をするほどの人数はいないからな。

 出て来てもらわないと困るというわけだ。


 俺は念話でリリムと連絡を取った。

 城塞の扉が開き始める。

 邪気が扉から漏れてきて、辺りは邪気に包まれた。

 敏感な奴は邪気を感じ取って震えあがる。

 気持ちが悪くなった奴さえいる。


「気分が悪い奴は聖水を一杯飲め」


 樽が開けられ、気分が悪くなった奴は聖水を飲む。


「武器に聖水を塗れ」


 武器に聖水が塗られた。

 武器は白いオーラを放つ。

 アンデッド達が出て来た。


「よし、突撃」


 兵士と騎兵が一団となってアンデッドに襲い掛かる。


「うー」

「この死にぞこない、土に還れ」


 アンデッドに対して聖水の塗られた武器を叩きつけると、受けたアンデッド剣が火花を散らし、押し込まれる。

 邪気も薄くなっているようだ。

 こんな光景が随所で見られた。


 雑兵に負けているようではな。

 ただ負けているアンデッドはゾンビが多い。

 進化してないゾンビならそんなものだろう。

 さすがにハイゾンビとかは雑兵に負けてない。

 騎兵には苦戦しているようだったが。



 戦況はヤシンカー男爵軍有利だった。


 アンデッドには邪回復の魔道具を持たせている。

 回復が基本装備されたアンデッドに徐々に男爵軍は押され始める。

 死んだ兵士はアンデッドになって敵に回る。

 死霊魔法を部下のアンデッドであるハイゾンビのカーカスに貸しておいた。


 カーカスは生命力吸収があるから、魔力が無尽蔵だ。

 こうなると男爵軍はどうにもならない。

 犠牲者が増える一方だ。


 アンデッドの方も全軍じゃないからな。

 リリムには敵と同数出せと言っておいた。


「撤退!」


 俺は荷車を引いて撤退した。

 荷車には使われなかった聖水の残りが積まれた。


「いいか。聖水の残りは死守しろよ」

「へい」


 俺はうやうやしく応えた。


 荷車を引いて雑兵の誰よりも早い足取りで、撤退する。

 リリム達は追撃戦は行わないようだ。

 アンデッドは追っては来なかった。


「お前、名前は?」

「プフラです」


 適当な名前を言った。


「荷車を引く速度はあっぱれだ。お前のことは上にも報告しておこう」

「ええとそれなんですが、俺実は他の貴族軍の義勇兵でして、手柄を立てたくて、今回の戦いに加わりました」

「ほう、ならどこに仕官しても問題ないな。あとで何か話があるやも知れん。どこの貴族軍だ」


 俺は潜入した貴族軍の名前を告げた。

 うん、敵軍で出世するつもりはないんだが、面白そうなので放っておく。

 めんどくさくなったら、逃げればいいだけだ。


 ヤシンカー男爵軍が撤退かぁ。

 うん、聖水を武器に塗ってもこんな感じとはね。

 少し強くなっただけだな。

 圧倒的に強いというわけではなさそうだ。


「聞いたか。ヤシンカーの軍が破れたってな」


 戻った貴族軍の兵士がそう言ってきた。


「おう、俺は手柄が欲しくてヤシンカーの軍に潜り込んだから良く知ってる」

「お前、大胆だな」

「でも勝てば一攫千金だろう」

「そうなんだが、あの人数じゃ勝てんだろう」

「まあな」


「ヤシンカー男爵は本気らしい。また聖水の樽が5個届いたって。さっきのは小手調べだと言っているらしい」

「へぇ、それは剛毅だな」


「そこで裏があるのよ。今度は教会軍に助力を求めに行ったらしい」

「教会なら金で動くだろうな」

「今度こそアンデッドがやられるかもな」


 教会の聖騎士は大したことがなかったけど、どうなんだろう。

 もっともあれは冒険者を遠ざける交通整理みたいな人員だったからな。


 教会の戦力が少し分かるかもな。

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