第93話 再戦

 ヤシンカー男爵が再度出撃する。

 今回は武器が最初から眩い白いオーラを放っている。


「ええと、あれは何?」


 俺は雑兵の一人を捕まえて聞いた。


「おう、教会が聖別してくれたのよ。神の武器を握って戦えるなんて光栄だぜ。聖戦の宣言もなされた」

「ほう、ありがとよ」


 聖別とか言っているが、光魔法を掛けただけに過ぎない。

 でも放つ光の輝きからみるに相当に力をいれたな。

 ある意味で本番に向けての試験なのだろう。

 教会の魔法がどれだけ役に立つかの。

 聖水の今回の使われ方は、武器に塗るのではなくて、アンデッドに掛けるらしい。

 柄杓も荷車に積まれた。


 そして、重要そうに運ばれる一台の荷車。

 引いているのは驚いたことに聖騎士だ。

 聖騎士が人足の真似をするとはな。

 あの荷車には最終兵器みたいな物が積まれているとみた。


「出陣!」


 出陣の合図が掛った。

 俺は荷車を引いて、最後尾の方にいた。


「勝てるかな」


 不安そうな兵士の顔。

 俺としては勝たれては困るのだけど。


「勝てるさ」


 別の兵士が見るからに空元気を出してそう言った。

 前に負けてるので、ヤシンカー軍の空気は重い。

 教会の助力では不安をぬぐえないようだ。


 俺はリリムに今回は進化したアンデッドを出すように念話で言った。

 これでアンデッド側の被害は少なくなるだろう。


 前と同じでヤジから戦いが始まった。

 城塞の扉が開くと誰もが唾を飲み込んだ。

 鳥が一斉に羽ばたいたら、逃げそうな雰囲気だ。

 まあそう言うのは近くにはいない。


 最初にオーガゾンビが姿を現した。

 ヤシンカー軍に緊張が走る。


「ええい手筈通りに突撃だ」


 兵士はみんな聖水をすくった柄杓を持っている。

 そして中身をこぼさないようにアンデッドに向かっていき、聖水を掛けた。

 ビビッているので聖水が手前の地面を濡らしただけに終わった。


「臆するな。十分近づくのだ」


 そう言って士官はオーガゾンビに近寄ると聖水を掛けた。

 オーガゾンビは手の届く所に来たのでパンチを繰り出す。

 士官は慌てて避けた。


「どうだ。こうやるのだ」


 オーガゾンビの聖水が掛った所から煙が上がり、ダメージを与えているのが見て取れた。

 続々と後詰のアンデッドが出てくる。

 聖水を掛けてから、武器による攻撃が始まった。

 邪回復の魔道具もあるし、聖水のダメージはそれほどでもないな。

 ただ、武器に掛った光魔法は強い。

 ただのゾンビだったら、やられていただろうな。


 俺は兵士が空の柄杓を回収してきたので、それで聖水をすくって手渡す。

 今回は出し惜しみしないようで、聖水をケチれとは言ってこない。


 戦況はヤシンカー軍の劣勢。

 聖水の残りが少なくなった。

 これがなくなった時に軍が崩壊するのだろうな。


 ただ、滅ぼされたアンデッドも多数いる。

 俺の魔力が尽きないので、邪復活はめんどくさいがそれほどの手間でもない。

 今回の損害はないようなものだ。


 カーカス、リギッド、リベンジャーが見えた。

 リベンジャーは長い爪で、兵士を斬殺してる。

 聖水も光魔法も効いてないみたいだ。


 リギッドはオーガらしく、パワープレイだ。

 何人もの兵士がミンチになった。

 聖水、光魔法を気にしたふうがない。


 カーカスは死んだ兵士に死霊魔法を掛けている。

 そして魔力切れになると兵士に取り付いて、生命力を奪い、魔力を補充する。


「くっ、ここまでか」


 ヤシンカー男爵の右腕らしき人物が、弱音を吐いた。

 聖水がなくなった。


「皆のもの固まれ」


 俺達はあの聖騎士が引いて来た荷車の周りに集まった。

 アンデッドがその周りを囲む。


「おい、やばいぞ」

「だが、逃げるのは囲いを破らないと」

「だよな。どうするどうする」


 兵士の動揺が激しい。

 だろうね。

 こんな感じで包囲されたら、もう全滅しかない。


「静まれ。これより最終兵器を使う。聖遺物だ。邪なる者は全て滅ぶのだ。起動するまで絶対にやられるな。持ちこたえてくれ」


 おお、最終兵器は聖遺物ね。

 アンデッドが全部やられても、後で復活させればいい。

 聖遺物とかは何回も使えるのかな。

 まあ、持久戦になったら、たぶん俺が勝つ。

 こっちの魔力は無限だからな。


 さて聖遺物の威力を見せてもらおうか。

 しょぼかったらそれはそれでがっくりだな。


 ぶっちゃけ、アンデッドが全滅しても俺の魔法だけで勝てるような気もする。

 それだと皆殺しコースだから、さすがの俺でもちょっとためらう。

 戦う意思のない人間は逃げてほしい。

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