第94話 聖遺物

 太陽が落ちたと思われるほどの光で空間が真っ白に染め上げられた。

 だが、ただの光ではないようで、目が見えなくなったりしない。

 アンデッドが灰になっていくのがはっきりと見えた。

 口をあんぐり開けた兵士の顔も。


 だが、カーカス、リギッド、リベンジャーの3人は灰になっていない。

 こいつらは別格なのだな。

 俺が名前を与えたことで何かしらの変化があったのかも知れない。

 神が名前を付けるというのはそれだけ特別なのだろう。


 兵士が湧きたつ、もう3体のアンデッドのみだからな。

 だが、この3人を舐めないほうが良い。

 兵士が動くより先にリベンジャーが動いた。

 目にも止まらぬ速さで兵士の首を刎ねる。


 カーカスが死霊魔法を使って死んだ兵士をアンデッドにする。

 リギッドは兵士をミンチにし始めた。


「ええい、何をやっているのだ! たった3体だぞ! 囲んでしまえば終わりだ!」


 指揮官がそう怒鳴り散らす。

 カーカス、リギッド、リベンジャーは連携を取り始めた。

 リギッドが前衛で、盾兼ダメージディーラー。

 リベンジャーが遊撃。

 カーカスが後衛で回復役を担う。


「助けて、お母さん」


 片腕を斬り飛ばされた兵士が泣きわめく。

 兵士は恐慌状態に陥った。


 逃げる兵士が多数。

 聖騎士が倒されて聖遺物は俺の物となった。

 聖遺物をみる。

 それはネックレスで、すでにボロボロになっていた。

 指で突くと塵となって消えて行く。

 一回しか使えないのか。

 使い捨てじゃ、確保した意味がない。

 もっとも使い捨てじゃ無かったら、もっと聖騎士の護衛が付くかもな。


 カーカス、リギッド、リベンジャーの掃討戦が始まった。

 さてと、やられたアンデッドを蘇らせますかね。


「【邪復活魔法】。次は聖遺物にも耐えられるように名前を付けてやる。お前はイチだ」


 こうやって、復活させながら順番に番号で名前を付けた。

 リリムが様子を見に来た。


「凄い光だったわね。窓から入った光でアンデッドが何体かやられたわ」

「まあ、そうだろうな。だが対策の方法は分かった。それにしても教会は本気だな。聖遺物って高いだろうに」

「聞いたことがあるわ。信徒100万人が一年間祈りを捧げるとできるらしいわ」

「となると、集団魔法か魔道具の類だな。聖遺物と名前はついているが、パチモンだろうな」

「本物の聖遺物もあるらしいけど、こんな戦場では使われないでしょうね」


 聖遺物は光魔法か浄化の類なのだろうな。

 光で目が潰れなかったから浄化かな。

 浄化爆弾というのか正しいだろう。


 それから、日が暮れそうになるまで、アンデッドの復活をやった。

 ヤシンカー男爵は仕留められたのかな。

 しばらくして、カーカス、リギッド、リベンジャーが帰って来た。


「ヤシンカー男爵は仕留めたか?」

「うー、申し訳ありません。うー、逃げられました」


 逃げられたのか。

 まあ良い。

 ヤシンカー男爵に一矢報いてやれたからな。

 止めを刺す機会はまたあるさ。


 貴族軍に帰るか。

 貴族軍はヤシンカー男爵軍敗走のニュースで持ち切りだった。


「聖遺物が使われたが、敵の指揮官アンデッドが生き残って、それでやられたらしいぜ」

「聖遺物で生き残るアンデッドは恐ろしいな」

「ヤシンカー男爵は敗走の責任を問われて、これから査問に掛けられるらしい」

「先陣を切ったのに敗走したという理由だけで吊るし上げられたら堪らないぜ」

「今作っている砦もおしゃかになったら、俺達が査問に掛けられたりしないかな」

「俺は逃亡するか迷ってる」

「聖遺物の効果はあったんだ。本隊が出てきても平気さ。幹部クラスを囲んで討ち取りさえすればいい」


 色々な意見が飛び交う。

 上の方はさぞかしピリピリしているだろうな。


「英雄神様はどうなのかな?」


 俺は疑問をぶつけてみた。


「それよ。震えあがっているらしいぜ。聖遺物で倒されないアンデッドが恐ろしいのだろう」

「そういう時こそ。先頭に立つべきなのにな」

「おう、それでウソツキー侯爵が、次は自分が行くと息巻いているらしい」


 懐かしい名前だ。

 ウソツキー侯爵は勇者の支持派と言われているらしいから、勇者を見て動かざるを得なくなったのだろう。

 リリムが喜びそうな話だな。

 敵討ちが出来るからな。


 俺は念話でその事を伝えた。


『その時は私も出陣するわ。その時期が来たら教えて』

『お膳立てはしてやるよ。楽しみに待っておけ』

『ええ』


 教会は聖遺物の次は何を出してくるだろうな。

 まあ、何が来ても負けるつもりはないが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る