第95話 死亡フラグの3人

「貴様、ウメオ。なぜここにいる」


 やべ、陣の中でヤシンカー男爵にばったり会った。

 俺は剣を閃かせて、ヤシンカー男爵とお付きの者を殺した。

 すまないね。

 見てしまったのが不運だったな。

 当然、何事かと人が集まってくる。


 俺はアイテム鞄からグール3体を出した。


「アンデッドが現れて、ヤシンカー男爵を襲って、食っちまった!」


 俺はそう声を上げた。

 兵士が来てグール達を討伐する。

 済まんな、犯人役のグール君達。

 後で灰を掘り返して復活させてやるからな。

 それまで、しばらく地中の休暇を楽しんでくれ。


「陣の中にアンデッドが出たってよ」


 貴族軍に戻ると兵士が噂してる。


「ヤシンカー男爵が襲われたらしい。前の戦闘でそれなりの成果を上げただろう。その報復かな」


 俺もしれっと会話に混ざった。


「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ。それまで生きてられるかな」

「俺なんか、好きな人に告白しようと思っているんだ」

「俺は子供が産まれたっていう手紙がきた。子供の顔を早く見たいぜ」


 おいおい、この3人死ぬんじゃないだろうか。

 そろいも揃って死亡フラグ立てやがって。


「俺はプフラ。君達は?」

「俺、コンヤック」

「俺、ツタエート」

「俺は、ミタイナー」


 そうか、面白そうだから、しばらくこいつらと行動を共にするか。


「ところで出陣はいつだ」

「もうそろそろだな」


 ミタイナーが教えてくれた。


「アターシャのあそこの毛を貰ってくればよかった」


 下品な事を言うコンヤック。


「いいなぁ、俺なんか。そんなことを言ったら引っ叩かれちまう」


 ツタエートが愚痴る。


「俺は貰ってきたぜ。見せないがな」


 自慢そうなのはミタイナー。


「あそこの毛がご利益があるってどこの風習だ」


 聞いてみた。


「そりゃ俺達の故郷さ」

「そう言えば、俺の所にもそんな話があったな」


 地球の話だが、どこでもこういうのは変わらないらしい。


「お前ら、進軍するぞ。出立用意」


 士官が声を掛けて来た。

 俺達は装備を素早く身に着け進軍に加わった。

 ウソツキー侯爵が大将での出陣らしいが、かなり本格的だ。

 梯子車みたいな物があったり、投石機もある。

 荷車に尖った丸太を括り付けた物もある。

 攻城戦をやるつもりだな。


 別に城塞が攻略されても、俺は困らない。

 アンデッドも俺が生きていさえすれば、復活させられる。

 だが、ちょっと面白くない。


「【土魔法、耕し】【水魔法、豪雨】」


 土を耕し、雨を降らす。

 ぬかるみに車を取られて、攻城兵器が進まなくなった。

 俺は念話でリリムに連絡した。

 足の止まったウソツキー軍に奇襲をかけるのだ。


 やったのはオーガゾンビによる投石。

 大人ほどもある岩が飛んで来る。

 軍は攻城兵器を放棄した。

 岩で破壊される攻城兵器。


 兵士達はなすすべなくそれを眺める事しかできなかった。


「攻城兵器を直せってさ」


 やれやれと言った顔のミタイナー。


「直している間に襲撃を受けたら、どうしようもないな。生きて帰れるかな」


 コンヤックがぼやく。


「いかないと叱られるよ」


 ツタエートがそう言った。


「ああ、行くか」


 俺も参ったぜというような顔でバラバラになった攻城兵器を直しに向かった。

 リリムには完成間近になったら再び攻撃しろと言ってある。


 こういうのはそれが一番精神的にくる。

 俺は適当に木材を運んでやった。


 木材の集積場は新しく作っている砦のすぐそばだった。


「こっちも壊しておくか。【風魔法、突風】」


 立っていられないような風が砦を襲う。

 砦は崩れ去った。


「神よ見棄てるのですか」


 兵士が祈ってる。

 いや、神に盾突いているからこうなっているんだ。

 いい加減分かれよ。

 噂を流すか。


 俺は英雄神様が実際は神様じゃなくて、神を騙ったために、神の不興を買って天罰を受けたと言って回った。

 噂を振りまく時に幻影魔法で変装するのを忘れない。

 兵士はこういう話はほとんど信じたりしないだろうな。

 教会が火消しに必死になるはずだ。

 でも心の奥底にはモヤモヤした物が残るはずだ。


 とりあえずはこれで良い。

 10人のうち3人ぐらいが、嫌戦気分になれば良い。


 ウェイは撤退するわけにはいかない。

 この場所を突破されれば、王都まで障害はないからだ。

 ここは俗にいう要所というやつだ。

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