第96話 進まない進軍

 攻城兵器を直しても、また岩を投げつけられて壊されたら元の木阿弥だ。

 なので、素早く脱出できるように、火魔法を使える奴が総動員で泥を乾燥させている。


 【火魔法、乾燥】、どこにいてもこの呪文が聞こえる。

 もちろん俺は雨を降らせ続けている。

 冷たい雨の下、作業する兵士の士気は最低に落ち込んだ。


 なんとか攻城兵器を修理して、ぬかるみもなんとかして、出発となった。

 攻撃するならここだな。


「【電撃魔法、雷】」


 雷光が走り、轟音と共に攻城兵器に雷が落ち、火が点いた。

 雷は次々に落ちる。


 全ての攻城兵器が消し炭になった。


「おいおい、俺達の苦労が。まるで神様を相手にしているみたいだ。嫌になるな。もう帰りたいよ」


 ツタエートが愚痴る。


「その気にさせられて勃ってから、女に逃げられ、一気にしぼんだ感じだ」


 コンヤックも愚痴る。


「防御結界ぐらい張れよ。俺だってそれぐらい分かるぜ」


 ミタイナーがやれやれとジェスチャーした。


「おい、攻城兵器を直すぞ」


 隊長が伝えに来た。

 俺は木材運搬の仕事に取り掛かった。

 嫌戦気分が蔓延してる。


 今度は防御結界を張るようだ。

 教会の聖騎士が多数来ている。

 教会軍に助けを求めたのだな。


 俺の雷をレジストできるかな。

 ちょっと見物だ。

 だが、攻撃するのは攻城兵器が完成してからだ。

 雨の中の作業は続く。


「くそっ、結界で雨を排除できないのか。全く嫌になるぜ」


 ミタイナーが愚痴る。


「仕方ないさ。人間に手が何本もないのと一緒。両乳を揉んだら、あそこは愛撫できない」


 コンヤックは相変わらず下品だな。


「こんなことなら兵士募集を断ったよ。でも、断ると風当たりがきついし。生きて帰れるかが問題だ」


 ツタエートが愚痴る。


 攻城兵器が完成した。


 ポチッとな。


「【電撃魔法、雷】」


 ドシャンガラガラというような轟音で視界が真っ白になる。

 目標とする攻城兵器は無残に焼けていた。

 だよな。

 魔力100万以上込めたからな。

 普通の結界魔法では防げないはずだ。


「あー、この忌々しい雨と雷をどうにかしてくれ。嫌になるぜ」


 ミタイナー、すまん俺の仕業だ。

 さてどんどんいくか。

 雷を落としまくった。


 攻城兵器がまたすべて壊れた。

 雷による怪我人も多数出てる。

 まあ、教会の回復役が治すんだろうけど。


 でも、死の恐怖を一度味わったら、なかなか精神的に立ち直れない。

 俺だってたまに魔王との戦いを夢で見て、汗びっしょりで起きることもあるぐらいだ。


「おい、お前達なら今後の作戦をどうする」


 隊長が俺達に聞きにきた。

 何でも軍議を開くらしくて隊長もでるみたいだ。

 俺達に画期的なアイデアを求めているようだ。


「隊長さん、とにかく兵士を暖かい家で休ませようぜ。疲労が蓄積してこんなのでは戦えない」


 ミタイナーが意見を言う。

 みんな頷いている。

 俺はレベルが高いから大して疲れてないが、兵士の疲労はピークなのだろうな。


 隊長もそうかと頷いて去って行った。

 そして、テントを張って2日の休みが与えられた。

 俺はミタイナー達3人と一緒のテントに入った。


「この戦いは呪われていると思うぜ。相手のウメオには邪神が手を貸しているに違いない」

「だな。ウメオが女を全裸でいたぶって邪神の貢物にでもしているに違いない。でないとあの雷は説明が付かない」

「生贄に1000人ぐらい奉げたのかもね」

「ウメオが進軍してきた近隣の街や村で人間がさらわれたりしたのか?」


 俺は気になったので聞いてみた。


「上がな。生贄スキルだから、そのうちに雨もやむって言ってるんだ」


 今までの攻撃は生贄スキルによるものだと考えているんだな。

 ウェイは俺が神なのを気づいてないのか。

 教会も何人か気づいていてもよさそうだ。


「生贄スキルじゃ無かったらどうするんだ」

「そんときゃ死ぬかもな」

「俺は腹上死と決めているんだ」

「俺達が何をしたって言うんだ。こんなの間違っている」

「俺が思うに上が無能なのが悪いんじゃないかな。特に英雄神様とやらがさ。前線に出てくるべきだろう」


 上層部批判をしてみた。


「そうだが、そんなことを言うと首が飛ぶ」


 みんなも上が悪いってのは考えているようだ。

 何か俺が神様だと認めさせるようなことをやれば相手の軍が崩壊するかも知れない。

 だが大規模魔法じゃだめだ。

 そんなのじゃ生贄スキルを使ったと言われるだけだ。

 何か考えておこう。

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