第97話 攻城戦

 2日の休暇が終わった。

 そして、支給されたのは鉤縄。

 ロープの先にフックが付いた奴だ。

 何に使うかと言えば、塀や城壁をよじ登るために使う。

 攻城兵器を完全に諦めたようだ。


 鉤縄に頼るとはな。

 進軍が始まった。

 兵士達の顔は暗い。


「あー、早く帰って子供の顔をみたいぜ」

「婚約者といちゃいちゃとえっちしたい」

「告白はどこでしようかな。夕日が見えるお花畑の丘かな」


 3人が現実逃避している。


「こんなに苦労するのはどう見てもおかしいだろ。相手に邪神が手を貸しているなら、こっちも神の助力があってよさそうなものだ」

「そんなことを言ってもな。じゃあどうしろと」


 俺の言葉にミタイナーは諦め気味の口調で応えた。


「なるべく後ろの方でうろうろしているんだよ。戦うふりだけしとけばいい。負けそうになったら逃げるんだ」

「おう、それが賢いかもな」

「だな。俺はそうする」

「俺も」


 3人にボイコットさせることには成功した。

 あとはこういう話が広く伝われば良い。

 放っておいても広がるかもしれないな。

 まあ、念には念を。

 俺は幻影魔法で顔を変えて、ボイコットするように話して回った。


 誰も彼も嫌になっているので、賛同する奴が多い。


「お前、スパイだな。憲兵に突き出してやる」


 こういう奴も中にはいる。


「運がなかったな。さよなら」


 憲兵に俺を突きだそうとした奴を殺した。

 そしてグールを出す。

 後はお決まりのパターンだ。


 何度か憲兵に突き出されそうになった。

 そのたびにグールが出現した。

 このゲリラ戦みたいな戦いは士気を更に落とした。


 戦うという強い意志をもった兵士は次々に死んだ。

 聖騎士の巡回が増えたが、そんなの関係ない。

 人の管理がザルだから、いくらでも他人に成りすますことができる。


 中世ぐらいの軍隊だとちゃんとした名簿なんてないんだろうな。

 あっても、チェックするのは手間がかかる。

 指針剣みたいな便利なスキルもあるんだから、使えよと俺だったら思う。


 どうやらスキルを使ったらしい。

 スパイが何人か死んだ。

 他国のスパイだが。


 俺の所には来ない。

 ああ、俺はスパイじゃないな。

 敵のボスだ。


 ウメオの居場所という調べ方なら一発で分かるが、そんな調べ方はしないのだろうな。

 敵の大将が敵陣に潜り込んでると考える方がどうかしてるか。


「スパイが一掃されたみたいだぜ。これでグールが突然現れたりしなくなるなら良かったな」


 俺もしばらくは静かにしておこう。

 ボイコットの種は蒔いたからな。


 俺の城塞が見えて来た。

 空に黒い点が現れそれは次第に大きくなって、兵士がどよめいた。

 岩を投げられたな。


「落ち着け!」


 士官が怒鳴る。

 兵士は右往左往。


 俺達も逃げた。


「勝手に逃げて怒られないかな」


 ツタエートが心配そうだ。


「戦略的撤退だよ。防ぐ手段を用意してない上が悪い」

「そうだよね」


 しばらく戦場から離れていたら、隊長が探しにきた。


「お前達、軍法会議ものだぞ」

「そんなことを言ったって、空から岩が飛んで来たらにげますぜ」


 ミタイナーが反論する。


「口答えするな。とにかく戻れ。処分は戦いの後だ」


 ほとんどの兵士が逃げたらしい。

 合流する途中、他の兵士と話したがどこも似たようなものだった。


 大岩をメイスの一撃で砕くとかそんな人物はいないのかな。

 合流したら、結界の盾があった。

 あれで大岩を防ぎながら進むらしい。

 となると魔法とか使われたら、いちころだな。


 結界に大岩がガンガン当たり始める。

 なかなか大迫力だ。

 結界を張る魔法使いは忙しそうだ。

 あの魔力増幅薬を使ってる。

 ショウが売り込んだのかな。


 別に敵に売っても問題ない。

 俺だって無限の魔力を持っている。


 城壁に近づいた。

 城壁の上には魔法を使えるアンデッドが並ぶ。

 そして魔法を放ち始めた。

 結界を物理と魔法の両方で張ったようだ。

 攻撃はウソツキー侯爵軍には届いてない。


 薬がある間は持ちこたえるだろうな。

 ただ、ウソツキー侯爵軍から攻撃しないとジリ貧だ。

 上はどういう作戦でくるか。

 鉤縄で人数に任せてごり押しとかだったら、多数死人が出るな。

 まあ、これが戦争なんだけど。


 正義だろうが悪だろうが死人は出る。

 意見のぶつかり合いみたいな物だからな。

 ただ俺の軍はほとんどアンデッドなので、死人は出ない。

 消耗戦なら俺達の勝ちだな。

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