第98話 邪気爆弾

「鉤縄を掛けろ!」


 士官が命令を下す。

 俺達は鉤縄を投げた。


「おっと、手が滑った」


 鉤縄は城壁の向こうに飛んでいった。

 それをみた兵士はみんな真似をする。


 戦意が衰えてない奴だけが真面目に城壁のフックを掛けてよじ登る。

 当然、魔法攻撃や、途中で縄を斬られ落とされる。


「お前ら、なにぼさっとしてる!」

「鉤縄がすっ飛んでしまったので。何せ初めて使うものなので勝手が分かりません」


 俺がそう言うと兵士がみな頷く。


「何でもいいよじ登れ。さあいけ」


 俺達は壁に手を掛けて、1メートルぐらい上がって、わざと落ちた。

 やれやれのジェスチャーしてまた登り始める。

 そんなことを繰り返す。


 周りの兵士も同じ事をした。


「よく見てろ、こうやるんだ」


 士官が城壁を登り始めた。

 そして、結界から出た途端、魔法を食らって黒焦げになって落ちた。

 それを見て兵士はさらにやる気を失ったようだ。


 逃げ出している兵士もボツボツいる。

 攻城戦てのはリスクが高い。

 定石だと包囲して兵糧攻めなのだろうけど、アンデッドにそれは効かない。

 餓死しないし、夜も寝ないし、精神的に参ったりしない。


 俺なら全ての魔力を合わせて圧倒的なパワーの魔法で押し潰す。

 ただ、これをするのは、儀式魔法になるんだろうけど、隙がでかい。

 結界を維持しながら、特大の戦略魔法を撃つのは無理だと思う。

 だから、ひっそりと軍を隠して儀式魔法だな。

 どうやって軍を隠すのかは工夫がいると思う。

 禁忌魔道具なら、その手の物がありそうだ。

 量産すれば可能になる。


 禁忌魔道具を良しとすれば教会軍は引き上げるだろうな。

 もしくは敵対することになる。


 何かを選べば何かを捨てざるを得ない。

 まあ、その辺を上手くやるのが腕の見せ所なんだろうけどな。


 戦況は、こう着状態というか、ウソツキー侯爵軍の打つ手なしと言ったところか。

 そして城壁から、1メートルぐらいの黒い物体が投げ込まれた。

 あれはやばい。

 神である俺がやばいと思うのだから相当やばい。


 それは結界に当たると、黒い闇をまき散らした。

 正体が分かった。

 凝縮された邪気だ。

 これを吸ったら俺以外全員死ぬんじゃないだろうか。

 リリムの奴、ウソツキー侯爵への恨みが積もっているな。


 聖遺物が発動され、邪気と相殺される。

 教会聖遺物をもってきたのだな。

 聖遺物と邪気爆弾の撃ち合いになった。


 やばいぞ。

 だって、邪気を吐き出す『邪なる者の香炉』はアンデッドの標準装備だ。

 これから出た邪気を集めたとしたらかなりの量になるはず。


 邪気を爆弾にするなんて、アルチはなんてぶっ飛んだ奴だ。

 まあ良いけど。


 聖遺物の残りが少なくなったのが兵士にばれたらしい。

 兵士が一目散に逃げ出す。

 俺も逃げるとしますかね。

 そして、撃ち合いは、邪気爆弾の勝利に終わった。

 城塞の城壁の前に動いている人影はない。


 城塞の扉が開くのが遠くから見えた。

 兵士には地獄の釜が開いたかのように思われたのだろう。

 みんなパニックだ。

 とにかく逃げるのに夢中。


 さて、3人は逃げているかな。

 俺は3人を探した。

 おお、無事逃げていたようだ。

 死亡フラグは今回は大丈夫だったらしい。

 彼らと合流する。


 アンデッドのオーガが駆け抜けて俺達を追い越した。


 俺達以外の兵士は何人も犠牲になっている。

 犠牲になった兵士は全員が士官だ。


 アンデッド達はウソツキー侯爵を探しているようで、偉そうな奴を狙っている。

 リリム、本気だな。

 ここでウソツキー侯爵の息の根を止めるつもりらしい。


 オーガゾンビが馬を貪り喰らっている。

 どうやらオーガの役目は馬を潰すことらしい。

 だから大股で駆けていって、馬を潰してる。


 俺のみた感じ走っている馬はいない。

 ウソツキー侯爵が生きていれば徒歩だろう。


「俺達、死ぬのかな」


 3人は悲観的だ。

 リリムの目標はウソツキー侯爵であって、他の者は眼中にないだろう。

 だが、それを言うわけにはいかない。


「見てみろよ。死んだのはみんな士官だ。希望を持て」

「士官をやるのは指揮系統を潰すためじゃないのか。これから残党狩りが始まって、俺達みんな死ぬんだぁ」


「これをやるよ。幸運のお守りだ」


 俺は青いリボンを3人に渡した。

 そして念話でリリムに青いリボンを付けた兵士は狙わないようにと指示を出した。


 さて俺はウソツキー侯爵を探すとしますかね。

 働かないとリリムにどやされそうだからな。

 そうでなくても潜入して遊んでる。

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