第91話 水攻め
相手の砦が出来上がるのを待つ。
完成したらぶっ壊しに行こうと思う。
ただ、気に食わない点がひとつ。
こっちの城塞は平らな位置に建てた。
まあ、建て易かったからだ。
相手の砦は丘の上。
なんとなく見下される感じだ。
じゃあこうかな。
「【土魔法、隆起】」
相手の砦の下の土をうちの城塞の下に持って来た。
相手の砦が窪地になるまで魔法は続く。
この事態に、貴族軍はまたかなりの数が撤退した。
窪地にある砦なんか水攻めしたりするのに最高だな。
何せ魔力無限だものな。
完成したら、水浸しにしてやろう。
さて、暇だな。
俺は兵士の恰好をして、俺は貴族軍に潜り込んだ。
「お前どこの軍だ」
「アソーコーの街だ」
「遠くからご苦労だな」
「戦況が悪いって聞いたが」
「おうよ。相手の城塞みてビビってる奴が多くてよ」
「へぇ。で、勇者様は?」
「馬鹿。英雄神様と言わないと鞭で打たれるぞ」
「その英雄神様は?」
「もう喚き散らして手に負えないらしい」
「上の奴の苦しみって奴か」
「だな。英雄神様の話には色々と矛盾があるんだよ。魔王戦で魔王に傷をつけたが引き分けだったと。それで後日その傷が元で魔王が死んだとなっている」
「それのどこに矛盾が?」
「聖剣さ。魔王との戦いで失われたとされている。最初は壊された。ウメオって奴が持っているのを見て、奪われたになって。次に魔王軍が修理したんだとか」
「そんなの些細なことだろ」
「魔王と引き分けた一撃が手を斬り飛ばしたとか、最初言っていた。で止めはなぜ刺さなかったのですかの問いに、聖剣が折れたと言った。で次に魔王の鎧を引き裂いて傷を与えたが、聖剣が折れたになったんだ」
「ふーん、話がコロコロ変わると何かあると思ってしまうな」
「そうなんだよ。勘弁してほしいぜ。下の者の士気とか考えてほしいものだ」
作り話が上手くいってないな。
行き当たりばったりで説明したんだろ。
「聖剣については俺も噂を聞いたことがある。魔王討伐から転移で帰ってちょっとの間、聖剣を持ってたって。騎士団の騎士がそう言っていたぜ」
「それが本当なら謎だな。何か言えないことがあったんだろうな。そろそろ飯の時間だ」
「おう」
料理係が料理したのを椀で受け取る。
くそ不味いスープだな。
こんな料理じゃ士気は上がらない。
敵軍ながら可哀想だ。
しかし、こうも簡単に侵入できると、裏工作が簡単にできる。
貴族軍はあてにされてないのかな。
何となくそう思った。
騎士団や教会軍への侵入は流石に無理だろう。
「やってられるか」
突然キレだした兵士がいる。
「まあまあ落ち着けよ」
年配の兵士がなだめに掛かる。
「落ち着いてられるか。砦の場所が窪地になっただろ。あんな砦は捨てるべきなんだ。もとの丘に戻せだって。そんなの出来るか。
出来なきゃ縛り首なんて言われたら逃げたくもなるぜ」
士気最悪だな。
撤退する奴が出るのも頷ける。
よし。
「【水魔法、雨】」
雨を降らせた。
あの砦の周辺に。
「いまいましい雨だな。なんで敵は砦の周りに雨を降らせる魔力量がある?」
「相手は復讐の神なんだろ。だからさ」
俺は言ってやった。
「これでまた上の方がピリピリするぜ」
魔力無限っていうのはいいな。
できかけの砦は水の中に水没した。
どうするのか見ていたら、その砦は放棄して、別の場所に砦を作り始めた。
完成しても同じ事なのに。
「砦作り見てるだけだと暇だな」
俺はそう言ってみた。
「おう、土魔法使いだけじゃ埒が明かないっていうんで、兵士を動員して砦を作るらしいぜ」
「まったくまた水没させられたらどうするんかね」
「今度は魔法で防御結界を張るらしい」
防御結界がどの程度かは知らないが、俺の魔法に対抗できるのかな。
ちょっと力比べしてみたい。
貴族軍の中に見知った顔を見つけた。
ヤシンカー男爵だ。
この戦いで地位を上げようという腹積もりだな。
手に取るように心が分かる。
ヤシンカー男爵の軍はいま戦闘準備中。
先駆けするつもりらしい。
勝算はあるのかな。
ちょっと興味が湧いて来た。
兵士の噂に耳を澄ます。
「ヤシンカー男爵は聖水を樽10個集めたらしいぜ」
おお、聖水をアンデッドにぶっかけるのか。
金でなんとかしようという考えはなかなか良いな。
だが、既にそんなのは対策済みだ。
『邪なる者の香炉』という魔道具がある。
俺のアンデッドの標準装備だが、聖なる力と相殺する。
聖水を掛けられたたら、プラスマイナスゼロになるだけだ。
ちょっと経過を観よう。
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