第40話 リリムの迷い

 オークの領域に入ったようだ。

 アンデッド達がせっせとオークの死骸を運んで来る。

 普通の死霊術師はこんなにもゾンビは作れない。

 入念に準備して、1ヶ月に1体が良いところだ。

 なぜかというと莫大な魔力を要求されるからだ。

 魔力が足りないと術者の生命力とかを持って行かれる。

 禁忌スキルは本当に性質が悪い。


 だが俺はレベルと魔力が高い。

 準備などなしにほいほいと作れるわけだ。


 もう俺のアンデッド軍団は3000を超えた。

 小さな都市なら落とせるだろう。


 だが、国ひとつ落とすにはまだ、数が足りない。

 オークの領域に入ってアンデッドの怪我人が多くなった。

 オークはCランクモンスター。

 進化したゾンビと同格だ。


 生命力吸収があるので持久戦になれば有利だ。

 だが、オークは武器を持っている。

 俺の配下のアンデッドには武器を支給してない。

 盗賊が持ってた武器を渡すとするか。

 だけど質が悪いんだよな。


 かと言って大量発注は不味い。

 武器の大量発注は反乱の前兆だからな。

 どこも神経をとがらせている。


 少しずつ買いそろえるしかないか。


「私達、いる意味がないんだけど」


 リリムが不満げに言った。


「オーク程度じゃ運動にもならないだろう。オーガとやれる実力なんだし」

「そうだけど」


「聖騎士もうようよしている。聖騎士と出会ったらどう対応するつもりなんだ。アンデッドと行動を共にしていると言い訳が利かないぞ」

「分かった。大人しくしてる」

「リリム姉、こういう時は腹をくくらないと。蝙蝠野郎は嫌われるよ」


 リリムが悩んでる。

 宗教を敵に回すのは勇気がいる。

 簡単には割り切れないだろう。

 それにリリムもサルサン信徒だ。

 狂信者じゃないが、産まれた時からさまざまな儀式に参加している。

 聖騎士は敬うべしと言われて育っただろうことは俺にも分かる。


 プリシラはそのへん割り切っている。

 ギルドの法として問題がないなら、殺すのもためらわないだろう。


 リリムの弱さだな。

 柱がない。

 今のリリムはただのお家再興を夢見る少女だ。

 再興が叶うということは没落した家があるということだ。

 普通は領地は湧いてこない。


 俺達は開拓して貴族になることを目指すが、普通なら血と汗で開墾が叶う。

 綺麗事じゃ済まないんだよ。


 そこが分かってない所がリリムの甘さだ。


「争いのない解決方法はないの?」

「あるぞ。アンデッドを使わないで俺達だけでダンジョンを攻略する。そして聖女のもとに辿り着き、聖女に詫びを入れて貰って元通りだ」

「じゃあそうしてよ。今からでも遅くない」

「そんなわけ行くかよ。現状を見てみろ。俺とアルチはどっぷり禁忌に染まっている。教会は敵なんだよ。これは覆らない」

「今の私は傍観者を気取っている嫌な奴になっているのね」

「ああそうだ」


 リリムが考え込んだ。


「何かを成すのなら代償や痛みが伴うのね」

「そうだな。無理が伴うものほどそれは大きい」

「お家再興を目指すのなら、立ち塞がる一般人すら斬り捨てられるようにならないといけないのね」

「そうだ。そして、無垢の民を殺したら背負うべきだ。どの王家も貴族も、長い歴史を紐解けば、血塗られている」

「分かったわ。聖騎士が歯向かってきたら殺す。メッサ、シャランラ、オーク退治に行くわよ」


 リリムは吹っ切れたかな。

 まだモヤモヤを抱えているんだろうな。

 俺の行動原理は簡単だ。

 とにかく生存だ。

 そのためには勇者パーティは殺さないといけない。

 でないとあいつらは俺を殺しにかかるだろう。

 もう賽は投げられた。


「彼女、大丈夫かしら」

「プリシラ、心配ならついて行ってもいいんだぞ」

「ここで迷いが出るようじゃ、けっきょくのところ死ぬ運命かもね」


「後戻りはできないの。みんなそう。走り始めたら、ゴールまで突っ走るだけ」


 アルチが悲しそうにそう呟いた。

 アルチは盛大に道を踏み外しているからな。

 吹っ切らないと死ぬだけだ。


 そう、後戻りはできない。

 そんな段階はもう過ぎ去っている。

 俺のターニングポイントは勇者パーティへの加入だろうな。

 あそこで間違った。

 世間の風評や風当たりなど気にせずに断っていたら、平穏無事に暮らせているんだろう。

 そうしたら、勇者達は魔王にぶっころされて、魔王は進軍して世界が飲み込まれていたかもな。

 運命なんてどうなるか分からない。


 たらればを言ったら限がない。

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