第89話 旅立ち

「プリュネぇぇぇぇぇ」


 ショウが泣いている。

 何だ、別れを察して泣いているのか。


「心配するな。旅に出るけど、いつかここにも立ち寄るさ」

「そうじゃない。俺の金貨3000枚が消えた」

「ああ、全額俺に賭けたんだったな。反則だったが、勝負には勝ったぞ」

「駄目なんだよそれじゃあぁぁぁぁ。こうしちゃいられない。借金取りから逃げなきゃ。リリー逃げるぞ」

「嫌よ。私は借金とは関係ないもの。別れましょ」

「リリー、お前に捨てられたら、俺はもう立ち直れない」


「仕方ない奴だな。借金は金貨2000枚だったな。俺が立て替えてやる」

「本当か」

「ああ、お前は魔力増幅薬を作れ。取り分は、プリシラが7のお前が3だ」

「プリシラ、魔力増幅薬のレシピをショウに渡してやれ」

「まあいいけど」


「ショウ、俺への借金はいずれ返してもらうぞ、利子をつけてな」

「魔力増幅薬が作れるのなら軽いよ」

「いいか、血は400ミリリットルまでにしておくんだぞ。それと一回採ったら二か月間、置くんだぞ」

「そうするよ」


 ええと、忘れていることはないかな。

 何かあった気がする。

 ああそうだ。

 ショウに女を紹介するんだった。


「リリー、ショウは抜けていることがあるから支えてやってくれ。ショウ、これでお前に女を紹介する約束を果たした」

「嫌よ」


 リリーが拒絶。


「ウハウハだぞ。なあ、ショウ。お前の取り分の半額をリリーにも渡すよな。共同経営者だ」


 俺はリリーをなだめた。


「リリーが帰って来てくれるなら」

「分かったわ。あんたほどあっちが凄い人はいないから。ちょっと未練があったのよね」


「ハニー、今晩はたっぷり楽しもう。恋人に再度なった記念だ」

「ダーリン」


 うん、なんとなく落ちがついたようで良かった。

 さて、旅にでますかね。


 馬車に揺られて、目指すは王都。

 王都ではニックとウェイが待ち構えている。


 俺は徐々に神になっているらしいから、たぶん舐めプでも平気だろう。

 ピエロの扮装も名残惜しいが、ここらで素顔に戻ろう。

 どういう職業に扮して王都に行こうか。


 小細工もいいが、そろそろ正面から当たるか。

 ウェイは正面から行ったら逃げないだろう。

 ニックも今の地位が惜しいだろうからな。


 俺は真の勇者であり、新たな魔王。

 たしかそうだったな。

 じゃあ、今回は魔王ムーブで行くか。


 アイテム鞄からアンデッドをありったけ出した。

 3000は超えているな。

 よし、進軍だ。


 アンデッドの軍が都市に差し掛かると、軍勢が待ち構えていた。


「魔王軍、ここは一歩も通さないぞ!」


 大将が声を張り上げている。

 俺は一人前に進み出た。


「このアンデッドは俺の従魔だ。王国の規則では従魔を引き連れるのは許されている」

「そんなの詭弁だ」

「だが法は法だろ。そっちが攻撃するなら、こっちは反撃しなきゃならない」

「くっ、魔王が王国民なわけがあるか」

「はいよ」


 俺はウメオのギルドカードを投げ渡した。


「ちょっと待て、協議する」


 しばらくして、軍使がやってきた。


「こちらから、手を出さなければ、戦闘は起こらないのだな」

「そうだ」

「魔法契約してもらっていいか」

「構わない」


 魔法契約で縛られても、強引にレジスト出来るような気がするんだよな。

 まあ、それは言わないでおこう。


「【契約魔法、互いに手を出さなければ戦闘行為は行わない。破った者には死が訪れる】。よろしいか」

「おう」

「はいよ」

「契約魔法成功しました」


 行く先々の都市で契約魔法を行った。

 中には同盟の契約を結んでくれという貴族もいた。

 もちろん断ったが。


 新生魔王軍は、こうして戦闘なく進んだ。

 俺も無辜の民を皆殺しにして進みたいわけじゃない。

 血が流れないのもそれはそれで良い。


 それにしても、アンデッドはなんでこうも臭いのかな。

 ええと、匂い消しの魔道具とか作れないかな。

 アルチに言ったら、浄化を使えばできるけど、アンデッドが弱体化すると言われた。


 しょうがない。

 結界魔法で匂いを防ぐか。

 結界の中を浄化すればなお良いだろう。


「じゃあ、作るわよ【魔道具生成】。無効空間完成よ」


 何だか冷蔵庫の消臭剤みたいな魔道具ができた。

 それに無効空間て、パチもの感がバリバリだ。


 匂いを無効化してるから、そのネーミングなんだろうけどね。

 効果は絶大だった。

 浄化は匂いも綺麗にできるんだな。

 アンデッドの匂いだと特に効果があるみたいだ。


 通り道の人々よ、臭くてごめん。

 匂いはしばらく残るかもだけど、辛抱してくれ。

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