第88話 イヤミィを討伐

「まったく、変装なんかして戦いを挑むとはね。ウメオなんでしょ。奇襲のつもりなんでしょうけど、弱者の戦法よね。どう、降参して逃げる?」


 ちっ、素性がばれてる。


「そっちこそ。俺に恐れをなして逃げなくていいのか」

「ネタばらしをしてあげましょう。まずあなたに気づいたのは、女を連れて塔に登ったわよね。変装を解いてたら、いくら鈍くても分かるわよ」

「学園で監視してたのはお前だったのか」

「まあね。使い魔や魔道具、色々なもので見ていたわ。はっきり言って掌の上なのよ」

「俺の実力を見切ったとでも言うのか?」

「もちろん。私の魔力はカンストしたわ。あなたがカンストしていたとして互角。ただ魔法の扱いに対しては私の方が上。身体能力ではあなたが上だとしても。魔法は遠距離で効果を発揮するわ。近寄らせなきゃいいのよ」


 こいつ、賠償スキルの威力を知らないな。

 賠償を取れば、こいつは子供の実力になる。

 いいだろ、力を見せてみろよ。

 受けてやる。


「御託はそれだけか。こっちは死線をくぐり抜けてきたんだ。培養されたお前とは違う」

「じゃあ始めましょうか。審判さん、合図を」


「では構えて、始め!」


「手始めよ。【火魔法、乱れ打ち】」

「【虚無魔法、盾】」


 連続火球は盾に当たって相殺された。


「どこまでついて来れるかしら【火魔法、怒涛、津波撃ち】」


 火球の連弾何万発が虚無魔法の盾に当たる。


「いうほどではないな」

「私の魔力はそろそろ空よ。あなたも同じぐらい消費したでしょ。でもねこういう物があるの」


 イヤミィは赤黒い錠剤を出してかみ砕いた。

 イヤミィから赤黒い魔力が立ち昇る。

 回復するってわけね。


 ふん、肉体で魔法を受けてもレベルカンストの俺なら耐えられるだろ。

 いいよ、撃ってこい。

 俺は手招きした。


「これで止めよ【火魔法、怒涛、津波撃ち】」


 何万発もの火球が俺を襲わなかった。

 あれっ、俺の魔力は空じゃないのか。


「ステータスオープン」


 ええと、魔力は全然減ってない。

 そう言えば魔力のチェックなんかほとんどしてない。

 たまにスキルをチェックしただけだ。


「くっ、ボンボレスから薬を奪ったのね。あの男はつくづく足を引っ張る。でもまだ薬はあるわ」


 イヤミィが魔力を補充する。

 そして。


「今度こそ、終りよ。【火魔法、魔力凝縮、神の一撃】」

「ふんっ」


 白く燃える大火球を俺は素手ではねのけた。


「なんなのよ」


 俺はゆっくりとイヤミィに近づいた。


「【火魔法、魔力凝縮、神の一撃】【火魔法、魔力凝縮、神の一撃】【火魔法、魔力凝縮、神の一撃】」


 イヤミィは薬を口に頬張り、魔法を連発する。


「無駄だ」


 俺は魔法をうるさい蠅でも追い払うように捌いた。

 そしてイヤミィの喉に手を掛けた。

 イヤミィの顔面が蒼白になり、そしてイヤミィは石舞台から出された。

 死亡認定されたらしい。


「反則負け、イヤミィ学園長の勝ち」


 審判が手を上げる。

 おお、魔法で倒さないといけないんだった。

 イヤミィへの感情が先走って素手で首を締めてしまった。


 イヤミィは近寄る俺に怯えている。


「私の用が先」


 プリシラが割って入った。


「手早くな」

「イヤミィ、あなた魔王討伐してないわよね」

「ウメオから、聞いているでしょ」

「あなたの口から聞きたいの」

「してないわよ。あんな怪物倒せる方がどうかしてる」


「それと、誘拐して血を抜いて殺したのはあなたね」

「調べは付いているんでしょ。そうよ。画期的発明なのよ。魔力が補充されて、おまけに魔力量が増えるの。世紀の大発明だわ」

「ギルドの調査員として判決を申し渡します。死刑よ」


「【賠償】」

「くくくっ、油断したわね。即死魔法を発動したわ。ウメオもろとも死ぬといいわ」


 しばらく沈黙が支配した。


「あー、悪い。即死魔法は奪った」

「何ですって」

「終わりだ。【生贄】」

「あああ、邪神の生贄になるのは嫌」

「心配するな。魂は邪神に囚われたりしない」

「あー……」


『何が欲しい』

「神力の使い方」

『そなたはそれを使い始めている。いずれ体に馴染むだろう』


 えっ、それで終わり。

 魔力が減らなかったり、魔法を素手で叩いても、ヒリヒリもしなかったりしたのはこのためか。

 だよな神が人間の枠に収まるはずない。


「【死霊魔法、アンデッド生成】」


 イヤミィをアンデッドにしてやった。


「命令を」

「お前は何ができる」

「一度見たすべての魔法を行使できます」


 ラーニングか。

 それなりに良い体質だな。


「聞け! イヤミィ学園長は人の命を奪い、自分の物とした! ギルドの権限により成敗した!」


 プリシラが声を張り上げ民衆を静かにさせた。

 さて、ここでやるべきことは終わったな。

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