第87話 準備完了

「ねんねこ♪ころり♪」


 俺はそう歌いながらボンボレスの腹を殴った。

 くの字なって飛ぶボンボレス。

 壁にぶち当たり大穴が開いた。

 まさか逃げないよな。


「くっくっくっ、この状態でも力負けするとはね」


 ボンボレスが穴から入って来た。


「薬の力なんかに頼るからだ」

「じゃあお前のはなんの力だ?」

「正当な報酬」

「戯言を。もう良い。あの世に送ってやる。【火魔法、極大火炎】」


 劇場の中一杯の炎が生まれた。


「【虚無魔法】」


 俺は魔法を消し去った。


「なぜだ。俺の魔力は3000を超えている。消去魔法で相殺するにしても出来ないはずだ」

「俺の魔力はカンストだ」

「そんな馬鹿なことを信じられるか」

「信じないならいい」


 俺はボンボレスの胸倉を掴むと高速ビンタした。

 ボンボレスは顔をパンパンに膨らませて気絶した。

 こんなもんだよな。


 ショウは俺が勝ったのを見るとサムズアップした。

 さてボンボレスを起こすか。

 ボンボレスにあの錠剤を飲ませる。

 ボンボレスは目を覚ました。


「洗いざらい喋ってもらうぞ」

「くっ……」


 ボンボレスが口から泡を吹いた。

 毒を飲みやがったな。

 手間を掛けさせやがる。


「【死霊魔法、アンデッド生成】」

「うー」


 ボンボレスはゾンビになった。

 ええと、ハイゾンビにしないと喋れない。

 だが頷くことは出来る。


「あの方というのは女か。イエスなら頷け」


 ボンボレスは、首をこてんと傾けた。


「ノーなら首を振れ」


 やはりこてんと倒したままだ。


「分からないのか」


 頷いた。

 くそっ、ゾンビになると脳みそがとろけるのか

 吸血鬼事件が解決したと思ったのにな。

 くそっ。


「プリュネ、ボンボレスを買収したのか」


 ショウが寄ってきた。


「そうだ。幹部もみんな買収した。もはやただのサクラだ」

「ボンボレスが吸血鬼ってことで良いんだよな」


 えっと。


「強く殴り過ぎて忘れたらしい」

「そうか。鉄棒を曲げる力で殴られたらそうなるよな」

「うん、そうなんだ」


 すっきりしない終わり方だ。

 ただここを簡単に調べて分かったのだが。

 ここは魔力増幅薬を保管しておく場所だったらしい。

 100錠近く見つかった。


 やばい、そろそろ行かないと、エキシビジョンが始まっちまう。

 これを逃してもチャンスはあるが、絶好の機会を逃したくはない。


 控室に戻るとまだ係員は来てなかった。

 プリシラも俺についてきてた。

 どうせ、イヤミィを尋問するんだろ。

 それが役目だからな。


 イヤミィが魔王討伐の功績を俺から奪ったのは明白なのにな。

 まあ言質を取らないと気が済まないのだろう。


「魔力増幅薬ってどうやって作ったと思う」


 プリシラが唐突に訊いて来た。

 推論すると被害者は血液を抜かれていたんだよな。

 ならば。


「血から作った」

「ええ、血に含まれる魔力を凝縮したの」

「ボンボレスが喋ったのか」

「いいえ、ある所でレシピを発見したわ」

「流石だな。黒幕が誰か分かっているんだな」

「ええ、でもあなたの楽しみのために言わないでおくわ」


 いくら俺が鈍くっても、黒幕が誰かは分かる。

 あいつに違いない。


 ショウがリリーを伴ってやって来た。

 リリーはショウにお姫様だっこされている。


「下ろして」


 リリーは自分の足で立つと、にっこりとほほ笑んだ。


「ありがとう。エキシビジョン頑張って。王都の一軒家が掛かっているの」


 ぶれない奴だ。

 死にそうな目に遭ったというのに、ショウの金で豪勢に暮らす事しか考えてない。


「俺にも負けられない理由がある」


 プリシラがお茶を淹れたので、それを飲みながら、屋台で買った食い物をパクつく。

 聞き込みで買い漁ったからな。


 係員が入って来た。


「試合の時間です。準備して下さい」

「おう」


 俺は椅子から立ち上がって、ゆっくりと歩み始めた。

 通路に差し込む日差しがやけに眩しい。

 緊張しているのかな。

 舞台には既にイヤミィが立っていた。

 その姿は、俺を生贄にして逃げた時のままだ。


 駆け出したい感情を抑えて、ゆっくり進む。

 歓声に片手を挙げて応える。


 イヤミィがほほ笑んだ。

 何が可笑しい。

 俺がピエロだからか。

 だがこれから道化になるのはお前だ。


 その顔を絶望でぐちゃぐちゃにしてやるよ。

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